スターの孤独を描いた話題作
話題の映画「ボヘミアンラプソディー」を見てきました。
ご存知80年代から90年代にかけて一世を風靡し、日本でも絶大な人気を誇るロックバンドQUEENの軌跡を追った映画。この手の音楽映画としては珍しく大ヒットを記録。日本でも興行収入で週間1位を獲得するなど、異例の大ヒットとなっています。
実は私自身、QUEENについては名盤の誉れ高い「オペラ座の夜」やベスト盤を聴いている程度であり、正直言ってさほど思い入れの深いミュージシャンではありません。ただ、映画は前評判から非常に高かったため、これは見てみなくては、と映画館に足を運びました。
そんな訳でQUEEN自体に対しては比較的ニュートラルな立場から映画を見てみたのですが・・・まず一言で言ってしまえば非常におもしろい映画でした。一応、宣伝文句的には「QUEENの伝記映画」的なプロモーションをされています。事実、QUEENの結成からその後の活躍、さらには数々のQUEENの名曲の誕生秘話的なエピソードも多く紹介しています。さらに一番のクライマックスは終盤21分に及ぶ1985年に行われたチャリティーイベント「LIVE AID」でのQUEENのステージの完全再現。かなり細かい部分までこだわったというその映像は、まるで本当にQUEENのステージを体験しているかのよう。特に映画館の大スクリーンと音響で見ると、迫力ある演奏でグイグイと迫ってきて、21分にも及ぶシーンはひと時も目が離せません。
ただ、この映画で描かれている本題はおそらく「QUEENの伝記」ではありません。映画の中心となるのはボーカル、フレディー・マーキュリーの孤独と苦悩、そしてその後の仲間や家族たちとの和解がメイン。そのため、事実とは異なるような展開があり、その点、熱心なファンからはマイナス評価されているようですが、しかし、映画で何を描きたかったのか、を考えると、そんな異なった事実の描写も十分納得感のあるものでした。
また「フレディーの孤独と苦悩」という映画のテーマがはっきりしていたこともあって、映画全体としての流れもスムーズになっていたように感じます。結果、QUEENの、というよりもフレディーの物語を楽しみつつ、QUEENの音楽も楽しめる、そんなエンタテイメント性あふれる傑作に仕上がっていました。この手の伝記モノとしては異例の大ヒットとなっているのも納得の作品です。 また、そんな訳で、映画と共に大ヒットを記録しているサントラ盤ももちろん聴いてみました。
Title:Bohemian Rhapsody(The Original Soundtrack)
Musician:QUEEN
ちなみにこのサントラ盤、最初聴いたのは映画に行く前。もちろんその時も楽しめましたが、映画を見た後、断然、再度聴いてみたくなりました。
今回のサントラはQUEENの代表曲が収録されているのですが「ベスト盤」というよりもサントラなので当たり前ですが映画の内容に沿ったセレクトがされています。それなので映画を見る前に聴くと、ベスト盤的な内容ではないため違和感を覚える部分もあるかもしれませんが、映画を見た後だといろいろなシーンを思い起こして、胸が熱くなるような、そんなサントラでした。
特に今回のアルバムで目玉的なのが映画でクライマックスだった「Live Aid」。このライブの音源が5トラック収録されており、まさに映画を見た後だとあのシーンと重ね合わせて音源を楽しめるのではないでしょうか。
QUEENの曲は全体的にインパクトあるフレーズが含まれており、ある意味ちょっとベタとも言えるもののダイナミックな楽曲の構成は聴いていて非常に高揚感を覚えます。個人的には若干過剰と思える部分もあるのですが、ただこの高揚感がQUEENの大きな魅力ですし、映画でもこの楽曲の高揚感とフレディーの孤独が良い対比になっていたように思います。
本作単体でもQUEENのベスト盤的に楽しめますし、それ以上にやはりサントラとして映画を見た後に聴くと、さらに魅力的に感じられるアルバムだったと思います。QUEENのファンでもそうでない方も、映画を見ていても見ていなくても、チェックしておきたいサントラ盤です。
評価:★★★★★
以下、ネタバレの感想です。
ネタバレなしの感想でも書いたのですが、まず映画の大きな特徴としてフレディー・マーキュリーの孤独と苦悩、そして仲間や家族たちとの和解をクローズアップして描かれているという点があげられます。そのため、QUEENの活動についてはかなり省略して描かれている部分があり、特にデビュー直後ブレイクするまでに苦労した話は完全に省略されています。映画を見ていても正直「え?こんな簡単に売れちゃったの?」と思うくらいです。
この点を熱心なファンの方などは否定的にとらえている方も少なくないみたいですが、映画的にはむしろQUEENのバンドとしての苦労話を省略することにより、前半がテンポよく展開し、映画のメインテーマであるフレディーの孤独を描くまでだれることなく映画に集中することが出来たと思います。
また、映画の中であまり細かく描かれていない話としてはフレディーのHIV感染の話もそうかもしれません。映画の中で確かにフレディーがHIV感染を医者から告げられるシーンはありますが、その点に関する苦悩はあまり描かれていません。むしろ映画の構成として、HIV感染についてQUEENのメンバーに伝えることによりバンドの結束を高め、「Live Aid」での素晴らしいパフォーマンスにつながったという描き方をしています。実際はフレディーがHIV感染を知ったのは「Live Aid」の後だったようで、この時系列の変更も熱心なファンから批判の的となっているようですが、ただこれについてもHIV感染について必要以上にクローズアップするのを避け、また映画のクライマックスである「Live Aid」によってハッピーエンドという形で締めくくるために意図的に行ったものと思われます。そのため一歩間違えれば「エイズのよる早世」という悲劇的なエンディングに描きかねられないフレディーの伝記を、仲間や家族たちとも和解した結果としての「Live Aid」での素晴らしいステージというハッピーエンド的に終わらせることに成功し、結果、映画としても後味のよい最高のエンタテイメントに仕上がっていたと思います。それだけに事実の省略や変更というファンの批判は、気持ちはわからなくはないものの、これをもって映画の評価を下げるには筋違いのように感じました。
そして、このように映画のテーマを絞った結果、映画を見ていてフレディーの孤独について本当に心に迫ってきました。特にメアリーが妊娠していることを知った時のフレディーの複雑な表情に至っては本当に見ていて胸が苦しくなっています。またそんな表情を見せてくれた今回フレディーを演じたラミ・マレックのフレディーへの成り切りの含めた演技力のすばらしさは光った映画でもありました。
ちなみに親日家としても知られるフレディーですが、残念ながら日本に関する描写はほとんどありません。QUEENがデビューする時に「日本にもツアーでいけるぞ」という話が出てくるのと、フレディーの家の壁に、(金閣寺のものと思われる)お札が貼ってある程度。日本人にとっては「親日家」というのは大きなファクターかもしれませんが、海外ではそれほど重要な要素ではないのかもしれませんね。
そんな訳で本当にエンタテイメント性あふれる素晴らしい映画だったと思います。物語の面でも音楽的な面でも最後まで目が離せない作品でした。特に最後の「Live Aid」の再現シーンは圧巻。それだけに出来れば映画館で見てほしい、そんな作品でした。
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コメント
今年の映画を代表する作品だと思いますよ、「ボヘミアン・ラプソディ」は。
投稿: ひかりびっと | 2018年12月26日 (水) 21時15分
>ひかりびっとさん
ご感想どうもありがとうございました。
投稿: ゆういち | 2019年1月26日 (土) 22時54分