一時代を築いたプロデューサーの総括的コンピ
今年1月、不倫疑惑報道から突然の引退を表明し、シーンに衝撃を与えた小室哲哉。ご存じの通り、90年代後半に彼がプロデュースしたミュージシャンが続々と大ヒットを記録し、J-POPシーンに大きな痕跡を残しました。その彼がプロデュースを手掛けた数多くの楽曲の中から選りすぐりの曲を集めたコンピレーションアルバムがリリースされました。
Title:TETSUYA KOMURO ARCHIVES "T"
Title:TETSUYA KOMURO ARCHIVES "K"
それぞれ4枚組ずつ計8枚100曲にも及ぶボリューム感満点のコンピレーションアルバム。まだTM NETWORKとして活動する以前のSPEEDWAY時代の曲や、その時代に提供した数少ないナンバー「愛しのリナ」から、小室哲哉の名前が一躍知れ渡った「My Revolution」や、渡辺美里、TM NETWORKの曲、そしてご存じ小室ファミリーと呼ばれた安室奈美恵、TRF、華原朋美、hitomi、globeなどの小室系ブーム時代の大ヒット曲、さらに低迷期、詐欺事件を経てリリースされた2010年代の作品群など、最初期から最近の楽曲まで、まさに小室哲哉の作品を網羅的に収録したアルバムになっています。
まとめて聴くとそれぞれ約4時間、計8時間にも及ぶ長さ。まさにたっぷりと小室哲哉の曲を聴くことが出来ます。そして彼の曲を聴くとあらためて思うのですが、プロデューサーとしても数多くの曲を提供してきた彼ですが、どちらかというと職人肌というよりも天才タイプであることを強く感じます。
これは以前からよくわかっていたことなのですが、小室作品は一度聴くとすぐに彼の作品だとわかる手癖が非常に強くついています。具体的に言えば、ピアノで言うところの黒鍵を多用したフレーズ、サビでの転調、同じ音の連打を多用したメロディーなど、小室哲哉の熱心なファンでなくてもおそらくは「これは小室哲哉の曲だ」とすぐわかるよな傾向が彼の作品では非常に強く見て取れます。
例えば同じく数多くの楽曲提供を行っている筒美京平やつんく♂はよくよく聴くと音楽性の方向性はわかるのですが、パッと聴いた感じだと彼らならではの手癖はあまり強くなく、完全に裏方として徹しています。そういう意味では彼らは「職人肌」タイプと言えるでしょう。しかし一方、小室哲哉の楽曲はどんな曲だろうと彼の曲にはぬぐいきれない彼の癖が残っています。そういう意味で彼はまさに職人というよりも天才肌。だからこそ小室哲哉の楽曲が一時期、大いに時代にマッチして一時代を築いたのでしょうし、また同時にあっという間に飽きられて一気にブームが去って行ったのでしょう。
実は最近、この「小室らしい」と言われることを彼自身が嫌がっているということを知りました。うーん、しかし、彼の場合、どうしてもぬぐいきれない小室らしさが楽曲にビッシリとこびりついているんですよね・・・。彼自身もそれをよくわかっているからこそ、そういう発言に至ったのかもしれませんが・・・ある意味、天才ゆえのジレンマといったところなのでしょうか。
さてそんな彼の仕事の総括ともいえる今回のコンピレーションアルバム。大ヒットしたナンバーが数多く収録されている一方、出来るだけ数多くのシンガーの曲を収録したそうで、結果として思ったより小室系ブームの時代の曲が少なく、一方で最近の曲が比較的多い内容となっていました。
その収録曲の方向性としてはわからないこともないのですが・・・正直言うと、さほどヒットしておらず、曲の出来としてもいまひとつな2010年代の曲が多すぎるような印象を受けます。一方で小室系ブームの時代のヒット曲ってもっとあったんじゃない?と思いつつ、あらためて当時のヒット曲を考えると、確かにそれなりには網羅されている選曲になっており、あらためて小室系ブームがいかに瞬間最大風速的に吹き荒れたということを実感させられます。
ただ、例えば安室奈美恵の「Chase The Chance」、trfの「寒い夜だから・・・」、華原朋美の「keep yourself alive」などが未収録となっており、もうちょっと小室系ブームの頃の大ヒット曲が収録されていてもよかったのでは?とも思います。全体的にちょっと2010年代の作品が多すぎ、HIKAKIN&SEIKIN「YouTubeテーマソング」やらAOAの「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント girls ver.」とか、これ、曲の出来を含めて収録する必要あったのか?とも思ってしまい、また、ここらへん、なんとなく「大人の事情」を伺えてしまいました。
もっとも大賀埜々、円谷憂子、未来玲可、tohko、翠玲など小室系末期に時代の徒花のように出てきて、小室系ブームの中でそれなりに注目されたもののあっという間に消えて行った女性シンガーなど、リアルタイムで知っていた身としてはちょっと懐かしく感じられ、またここらへんの曲が収録されているのはうれしくも感じられたりして。ここらへんは久しぶりに聴いて懐かしさも感じました。
そんな訳でボリューミーなコンピレーションながらも少々不満に感じる部分も少なくなかったコンピ盤。もっとも、小室哲哉の才能については強く感じることが出来るアルバムだったとは思います。しかし、これで本当に引退しちゃうのかなぁ・・・。不倫疑惑についてはいろいろな噂もあるのですが、ただそれを差し引いても、これで消えてしまうのは本当に惜しい才能なだけに、是非、何年かしたら「引退表明」など知らん顔して復活してほしいのですが・・・お願いします!
評価:どちらも★★★★
ほかに聴いたアルバム
FILM/GOING UNDER GROUND
インディーズでのCDデビューから今年で20年(!)たったGOING UNDER GROUNDの新作。一時期に比べて人気の面では落ち着いたものの、いまなおほぼ1年に1枚のペースでアルバムをリリースし続けるなど、積極的な活動が目立ちます。もっともバンドメンバーは気が付けば3人になってしまいましたが・・・。
そんな彼らの最新作は安定感があり安心して聴ける一方で、良くも悪くも大いなるマンネリ。いつも通りの郷愁感ある、心にキュンと来るメロディーにアコギやピアノを用いつつ、基本的には分厚いバンドサウンドが魅力的なサウンド。ファンにとっては壺をきちんとついた作品なのでそれなりに満足感はありそうですが、代わり映えしない内容となっています。まあ下手に変な挑戦をしないほうがいいんでしょうが・・・。
評価:★★★★
GOING UNDER GROUND 過去の作品
おやすみモンスター
COMPLETE SINGLE COLLECTION 1998-2008
LUCKY STAR
稲川くん
Roots&Routes
Out Of Blue
真夏の目撃者
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