« 生前最期のステージ | トップページ | まさかの名古屋公演! »

2018年11月19日 (月)

「平成」最後の傑作アルバム(?)

Title:平成
Musician:折坂悠太

宇多田ヒカルやアジカンの後藤正文などから絶賛を受けたことでも大きな話題となった男性シンガーソング來田、折坂悠太のニューアルバム。私も今回のアルバムがリリースされるまでは彼のことを全く知りませんでした。そんな大絶賛を受けて、若干懐疑的な心境を抱きながら本作を聴いてみたのですが、これが確かに大絶賛も納得の傑作アルバムに仕上がっていました。

正直言うと、アルバムを聴き始めて最初のうちは、そこまで大絶賛されるアルバムか・・・と少々懐疑的にアルバムを聴き進めていました。1曲目「坂道」はシンプルでフォーキーな作品、続く「逢引」はスウィングあたりのジャズの要素を入れつつポップに歌い上げる曲。どちらも「良質なポップソング」というイメージで、確かに良作ではあるものの地味すぎるのでは?というのが最初抱いた印象でした。

正直、この「地味」という印象は最後までぬぐえませんでした。ただ、それ以上に非常にユニークな音楽性に強く惹かれる傑作アルバムになっていました。例えば「揺れる」はアコギでゆっくり聴かせるフォーキーなナンバーですが、郷愁感あふれるメロディーラインが魅力的。「旋毛からつま先」もジャズの要素に歌謡曲的なメロディーラインを加えたポップチューン。イメージ的には60年代あたりのジャズを取り入れたモダンな歌謡曲のイメージでしょうか。個人的には星野源の最近の作風にも通じるところのある軽快さがとても魅力的な名曲でした。

そんな「和風」な要素を強く感じつつ、一方では「みーちゃん」ではポリリズムを取り入れたグルーヴ感あふれるサウンドが魅力的。「丑の刻ごうごう」でも民謡風な歌詞とメロの一方、パーカッションのリズムには独特のグルーヴ感があります。さらに「Take13」ではミニマルなピアノのインストと、実に多彩な音楽性を感じる楽曲が並んでいました。

全体的には和風なメロディーラインとこぶしを利かせたボーカルにジャズ的な味付けがされているような楽曲が主軸。ただ和風なメロといっても様式化されたような最近の歌謡曲のような雰囲気ではなく、60年代あたりの洋楽テイストを取り入れた歌謡曲、あるいはさらに昔に通り過ぎて民謡的な要素を取り入れた楽曲がメインとなっていました。

折坂悠太自体は平成元年生まれだそうで、まさにこのアルバムのタイトルの通り、「平成」を生きてきたシンガー。ということは今年30歳ということですので、決して「早咲きの若手」といった感じではないのですが、ただ、民謡を含めた日本の音楽や海外の音楽に対して等距離に接して、ジャンルレスに楽曲に取り込んでいるあたりは、平成生まれのいい意味で「いまどき」のセンスを感じます。そういう側面を含めて、まさに「平成」のアルバムといえる作品かもしれません。

上にも書いた通り、決してわかりやすいポップチューンが入っているような派手なアルバムではありませんが、聴けば聴くほど心に染み入ってくるような、そして新たな発見のある名曲が並んだ傑作アルバム。平成の最後を飾るにふさわしい、まさに今年を代表する1枚だと思います。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

ON THE WAY/漢 a.k.a.GAMI

MSCのメンバーであり、最近ではフリースタイルMCバトルの大会「KING OF KINGS」の主催でもその名前を知られる漢 a.k.a GMI。本作は彼の客演を集めたMIXアルバム。全体的にダークな作風の曲が多いものの、ロッキンな曲やファンキーな作品、さらにはメロウに聴かせるナンバーまで客演集らしくバリエーション豊富な作風が特徴的なアルバムに仕上がっていました。

評価:★★★★

M-P-C “Mentality, Physicality, Computer"/冨田ラボ

冨田ラボの2年ぶりとなる新作。タイトルの「M-P-C」とは、Mentality(精神)・Physicality(肉体)・Computer(コンピューター)の略だそうで、このアルバムのコンセプトになっているとか。今回も七尾旅人やペトローズの長岡亮介、WONKのKento NAGATSUKAなど多彩なゲストを迎えてのアルバムとなっていますが、アルバムのコンセプトの通り、コンピューターによる演奏やサンプリングを多岐に用いているそうです。

そんな楽曲の数々は基本的にメロウなシティポップやHIP HOPがメイン。コンピューターによる演奏やサンプリング、といってもいままでの彼のイメージを大きく変えるようなものではなく、彼らしい作品に仕上がっています。全体的には非常に心地よさを感じるトラックが多く、比較的シンプルなサウンドでポップに聴かせるような曲がメイン。そういう意味でとても聴きやすい傑作に仕上がっていました。

評価:★★★★★

冨田ラボ 過去の作品
Shipahead
Joyus
SUPERFINE

|

« 生前最期のステージ | トップページ | まさかの名古屋公演! »

アルバムレビュー(邦楽)2018年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「平成」最後の傑作アルバム(?):

« 生前最期のステージ | トップページ | まさかの名古屋公演! »