「雅楽」を取り入れたアンビエントの傑作
Title:Konoyo
Musician:Tim Hecker
カナダ人のエクスペリメンタルコンポーザー/サウンドアーティストの9枚目となるソロアルバムである本作は、日本人にとって非常に興味深いアルバムとなっています。今回のアルバムは日本での旅行中に大部分を制作。日本を代表する民間雅楽団体である東京楽所と共に、東京練馬の観蔵院というお寺で録音された音源を使用しているようで、タイトルである「Konoyo」も日本語の「この世」の意味。東京楽所の奏でる雅楽が伝統音楽であるのに対して、このアルバムの音楽は現在(=この世)の音楽であることを意味しているそうです。
そんな本作はエレクトロサウンドがベースとなりつつ、空間ある作風を聴かせるアンビエントのアルバム。基本的に全編、ミディアムテンポの楽曲が並び、伸びやかなサウンドを聴かせる作品となっています。そして一番興味深いのはやはり雅楽の使われ方でしょう。まずおもしろいのは一般的に日本人がイメージしそうな、いかにも「雅楽」といった感じのフレーズは本作ではほとんど登場しません。
例えば1曲目「This Life」でエフェクトにより増幅しつつ流れてくるのは笙の音色でしょうか。メタリックさもある独特の音色が幽玄な雰囲気を醸し出し、確かに雅楽的な要素も感じるのですが、あくまでも現在の音楽としてのアンビエントの中で効果的に用いられているのにとどまります。
続く「In Death Valley」でも笛や太鼓の音が登場しますが、あくまでも楽曲の背後で静かに流れているだけ。楽曲としては分厚いエレクトロサウンドがスペーシーに展開するスケール感ある作品としてまとまっています。
和楽器の要素を強く感じるのは最後の「Across to Tokyo」でしょうか。ノイジーでフリーキーな雰囲気を感じる前半から、後半はおそらく笙や笛の音色で埋め尽くされ、優美な雰囲気を感じるナンバー。最後は笙の音色で優雅に締めくくられます。ただこの楽曲にしても、あくまでもノイジーなエレクトロサウンドとその背後で流れる静かでアンビエント色強いメロディーラインが大きな軸となっている楽曲となっています。
アルバム全体としてはあくまでも雅楽の楽器を効果的に用いて、優美で優雅な雰囲気を醸し出してはいるのですが、「雅楽」のアルバムではありません。タイトルである「この世」もあくまでも伝統音楽である雅楽と対比されたタイトルであるように、あくまでも「現在の音楽」であることに拘っています。おそらくこれが日本人なら「雅楽」であることを必要以上に意識して、いかにも雅楽的なフレーズを前に押し出しそう・・・。雅楽に対してあくまでも客観的なスタンスを感じます。
ただし、雅楽らしい部分が少ないとはいえ、日本人にとってはなじみのある雅楽の楽器の音色が流れてきており、またそれによって生み出された優雅な雰囲気は日本人にとってはどこか琴線に触れるものがあります。本作は海外メディアでも非常に評判が高いようですし、ほぼMade in Japanの作品として日本でももっと注目されてもよさそうなのですが・・・。日本人にとってはまず注目したい作品です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Collapse EP/Aphex Twin
約2年ぶりとなるAphex Twinの新作。5曲28分の長さの作品で、全体的にはいつものAphex Twinらしい、変態的なビートが展開されつつもどこかメロディアスで惹きこまれるサウンドが特徴的。良くも悪くもいつも通りの彼といった印象が強く、正直言うと目新しさは少ない・・・というよりも30分弱であっさりすぎるかも、という印象でしたが、とりあえずは彼の新作が聴けた、ということだけでも満足感を得られる作品でした。
評価:★★★★
Aphex Twin 過去の作品
Syro
Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP
orphaned deejay selek 2006-2008(AFX)
Cheetah EP
Medicaid Fraud Dogg/PARLIAMENT
FUNKADELIC名義でのアルバムは2014年にリリースされていたものの、PARLIAMENT名義では実に38年ぶり(!)となるニューアルバム。今、流行の真っただ中にあるトラップを取り入れるなど、一応今風にアップデイトしているのですが、これに関しては若干「取り合えず流行っているから取り入れました」的なやっつけ感は否めず。全体的にもパワー不足の感もあるのですが、ただそれでも所々にしっかりとどこかコミカルで楽しい、ライブ映えしそうなファンクナンバーがしっかりと収録されており、CDにして2枚組全120分に及ぶアルバムながらも最後まで楽しむことが出来ました。
評価:★★★★
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