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2018年11月27日 (火)

ラップの入門書の決定版(?)

ここ最近、テレビ番組「フリースタイルダンジョン」のヒットなどにより一気に若い世代に人気を広げてきた日本のHIP HOPシーン。その影響なのか、ここ最近、HIP HOPの入門的な書籍が多く発売されています。ここのサイトでも「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」「文科系のためのヒップホップ入門2」などを紹介しました。そしてそんな中、HIP HOPの入門書、特にHIP HOPの歴史を知るための入門書として決定的な一冊になりそうな本が発売されました。それが今回紹介する「ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門」です。

本書はもともと、今年1月8日にNHK FMで放送された「今日は一日"RAP"三昧」を書籍化したもの。なにより注目したいのは、あのライムスター宇多丸がラップの歴史を語るという点。宇多丸といえば、日本ラップの黎明期から活動を続けるレジェンド、ライムスターのMCであり、ラジオパーソナリティーとしても人気が高く、またそのサブカルチャーに対する深い知識やしっかりとした論理構成、そして独特の視点から繰り広げるトークには定評があります。そんな彼がどのような「ラップ史」を語るのか、否応なく期待が高まります。

この番組では宇多丸の他、ライターの高橋芳朗、渡辺志保、DJでありレコ屋のバイヤーでもあるDJ YANATAKEが参加。それぞれがそれぞれの視点からラップの歴史について語っています。ただ、基本的には独自の視点といった感じではなく、あくまでもオーソドックスにラップの歴史を紐解いていく通史のような内容になっています。ラップの歴史をまとめたような書籍としては、ここまで紹介した「文科系のためのヒップホップ入門」が一時期大きな話題を集めました。同書では「HIP HOPは『音楽』ではなく場を楽しむツールである」という視点に基づいたラップ史観を展開していましたが、それに比べると本書で語られているのはある意味フラットな視点からのラップ史。そういう意味ではタイトル通り「入門書」としては実に最適な内容になっていました。

そして本書で一番ユニークだったのは海外の、というよりもアメリカのラップ史と並行して日本のラップ史が語られているという点。前述の「文科系のための~」では日本のラップは語られていませんし、ある意味、日本のラップ史を、それをアメリカと対比する形で語られているのはいままであまりなかったのではないでしょうか。それだけに日本のラップ史の部分も非常に興味深く読むことができました。また、いとうせいこう、スチャダラのBose、Zeebra、漢が(インタビューを含めて)参加しており、彼らの視点から語られる「ラップ史」も貴重な証言。そういう意味でも興味深い内容に仕上がっています。

ただ、本書を読んでいくにあたって、いくつか気になるような点がありました。まず今回の本書、基本的にラジオ番組の内容をそのまま書き下ろしたもの。ラジオ番組ならではの和気藹々とした雰囲気が伝わってくる反面、若干話としてまとまりのない部分もあったかな、という印象も受けます。特にみなさんがおそらく疲れてきたであろう後半戦(^^;;全284ページというなかなか分厚い本になっているのですが、ラジオの雰囲気を無視して大胆に構成しなおせば、半分・・・とはいわないまでも3分の2くらいにまとまりそう・・・。

あと、日本のラップ史の中で、ある程度予想していたんですが、やはりDragon Ashの存在って、ある程度無視されるんだな、という点も気になりました。確かにDragon Ashはラップという観点で見るとスキル的にいまひとつだし、決して評価されないグループかもしれません。ただ、日本のラップ史にとってDragon Ashのブレイクというのはあきらかな分岐点。ラップシーンの渦中にいる人だとあまり感じなかったかもしれませんが、Dragon Ashブレイク以前は普段HIP HOPを聴かなかったような一般リスナー層にとって当時、ラップというのは正直言えば「コミックソング」的な扱いを受けていました。それがDragon Ashの「Let yourself go, Let myself go」がヒットし、さらに「I LOVE HIP HOP」「Greateful Days」が大ヒットしたことにより一気にHIP HOPのイメージが「コミックソング」から「カッコいい音楽」にシフト。一気にHIP HOPというジャンルがブレイクしました。そういう意味ではラップのスキルはともかくとして彼らの存在は日本のラップ史において相当大きいと思うのですが、残念ながらあまり語られていませんでした(若干触れられてはいるのですが)。

そんな訳で若干残念に感じた部分もあるのですが、全体的には上にも書いた通り、最近HIP HOPに興味を持ち、ラップの歴史が気になった人にとってはほどよくまとめられている最適な一冊だと思います。特に今年1月の放送とはいえ、最新のトラップミュージックまでしっかりとキャッチアップしており、最新情報もしっかりと網羅している意味では入門書として最適。基本的に対談形式なのでサラッと読める点も入門書としては大きなプラス。私自身、非常に勉強になった1冊でした。

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