「デモ音源」的なピアノ弾き語りアルバムだが・・・
Title:Piano&A Microphone 1983
Musician:PRINCE
主に80年代においてマイケル・ジャクソンと並びポップミュージック界を代表するミュージシャンとして一世を風靡したミュージシャン、PRINCE。もちろん90年代以降もコンスタントに活動を続け、数多くの名曲、名盤を世に送り出してきましたが、2016年に57歳という若さで急逝。音楽ファンに大きなショックを与えました。
それから約2年。もし存命だったらちょうど60歳の誕生日となる今年6月7日にリリースが発表されたのが本作。タイトル通り、1983年に自宅スタジオにてカセットテープへの録音という形で収録された音源をアルバム化したもの。基本的にはピアノ弾き語りによるデモ音源で、今回はじめてリリースされた未発表音源集となっています(ブート盤で世に出たことはあったようですが・・・)。
デモ音源集、ということで聴く前はPRINCEに関する音源は何でも聴きたいファンズアイテムのようなアルバムで、貴重な音源ではあるものの内容的にはあまり期待できないもの・・・このアルバムを聴く前は正直、本作に関してこのように感じていました。実際、アルバムを聴き始めると最初はPRINCEの話し声が登場し、録音状態も粗い、いかにもデモ音源な雰囲気の内容になっており、そのためさほど期待しない中でアルバムを聴き進めていきました。
しかし、そんな「所詮はデモ音源」というイメージはアルバムを聴き進めるうちに徐々に覆ってきます。基本的にピアノのみの演奏とPRINCEの歌というスタイルなのですが、ピアノは実に力強くファンキーなリズムで奏でられており、PRINCEのボーカルも決してデモだから力を抜いているということは全くなく、本番さながらの力強い歌声を聴かせてくれます。確かに本作に収録されている作品は完成形の前段階であるデモ音源であるかもしれませんが、これはこれでピアノ弾き語りの作品としてひとつの完成形である、とすら言い切れる出来栄えとなっていました。
特に、80年代に発表された曲に関しては、原曲がいかにも80年代的なサウンドがほどこされてしまい、今の耳で聴くと少々古臭く感じてしまう部分が否定できないのですが、本作に収録されているバージョンではピアノのみの弾き語りであるため、むしろ新鮮に聴けてしまうほど。例えば「Purple Rain」はご存じ1984年にリリースされた彼を代表する名盤の表題曲ですが、オリジナルは今聴くと、いかにも80年代なアレンジが気になってしまう反面、本作でのバージョンは本作のコアな魅力がはっきりと表れており、今の耳で聴くと、むしろこちらのヴァージョンの方が魅力的にすら感じてしまうほど。わずか1分27秒のデモ音源なのですが、もっと聴き続けたい気分にさせられてしまいます。
今回のアルバムではほかにも既発表曲の原型となっている「17 Days」や「Mary Don't You Weep」などが収録されているほか、後半では今回のアルバムで初収録となっている未発表曲も収録されています。その中でも特に素晴らしかったのが「Cold Coffee&Cocaine」で躍動感あふれるピアノの演奏と、それにあわせるかのようなファンキーなPRINCEの歌声が実に迫力たっぷりに耳に飛び込んでくる名演奏。これが未発表だったとは、信じられない素晴らしい演奏を聴かせてくれます。
そんな訳で最初はデモ音源集ということであまり期待しないで聴いていたアルバムでしたが、実に素晴らしい傑作アルバムになっていました。ピアノの演奏だけで彼の曲を聴くスタイルだっただけに、PRINCEの楽曲の魅力の一番コアな部分がはっきりと伝わってくるアルバムだったと思います。いままで何作か、彼のアルバムは聴いてきましたが、今回のアルバムを聴いてこれほど素晴らしい名曲を作り出し、そしてファンキーな歌声を聴かせてくれるミュージシャンだったのか、とその魅力を私自身、再認識したほどでした。
本作は一部の熱心なファン向けのファンズアイテムではなく、音楽ファンなら聴くべきPRINCEのニューアルバムだと言えるでしょう。PRINCEといえば生前、その衰えのない創作意欲で知られ、一節には未発表曲だけで今後、100年分のアルバムがリリースできるといわれているほど。確かにピアノ弾き語り集でこれだけの質のアルバムがリリースされるのなら、今後もかなり期待できそう。その出来栄えにかなり驚かされた傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
PRINCE 過去の作品
PLANET EARTH
ART OFFICIAL AGE
PLECTRUMELECTRUM
HITnRUN Phase One
HITnRUN Phase Two
4EVER
ほかに聴いたアルバム
Monster Exist/Orbital
日本ではunderworld、THE CHEMICAL BROTHERS、PRODIGYと並び、「テクノ四天王」と呼ばれるイギリスのテクノユニットによる約6年ぶりの新作。サウンド的にはシンプルで奇をてらわないリズミカルなテクノチューン。メロディーラインには全体的に哀愁感があり、メロディアスなポップスとして楽しめる楽曲が並びます。全体的にはおとなしい印象ですが、日本盤のボーナストラックとして収録されている「Satan」のライブ音源はライブ向けのアゲアゲのサウンドとなっており、ライブはライブで楽しそうだな・・・という印象も。
評価:★★★★
Orbital 過去の作品
Wonky
Double Negative/Low
スロウコアの代表的なバンド、Lowのニューアルバム。スロウコアというジャンルについては今回はじめて聴いたのですが、Wikipediaによると「寒々とした暗いメロディと歌詞、抑制の効いたスローテンポのリズムにミニマリスティックなアレンジが施される。」ことが特徴的な音楽のジャンルだそうです。本作に関しては前半から中盤にかけて、非常に静かでダークなノイズが流れるミニマルテイストのサウンドが続きます。一方、後半はメロディーを前に出した歌モノの曲も多く、この哀愁感あるメロが心をうつような曲も目立ちます。全体的にダウナーなサウンドなのですが、どこか幻想的で美しさを感じるような曲が多く、そのサウンドが強く心に残る1枚でした。
評価:★★★★★
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