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2018年11月 3日 (土)

「歌心」あるHIP HOPアルバム

Title:Room 25
Musician:Noname

シカゴの女性ラッパー、Nonameのデビューアルバム。Chance the Rapperのアルバムにも参加して話題となったミュージシャンのようですが、このデビュー作はメディアにも評判が高いようで、Pitchforkでも高い評価を得ており、気になったので聴いてみました。ちなみに既に昨年、日本にも来日を果たし、一部では「知る人ぞ知る」的なラッパーとなっているようです。

Chance the Rapperのアルバムに参加、ということもあって、タイプ的にはいかにも「今風」なラッパーなのかなぁ、と今回のアルバムを聴く前は漠然と考えていました。しかし、実際に聴いてみるとタイプ的には大違い。シカゴ出身のラッパーといっても、他のシカゴ出身のラッパー含め、最近の流行のスタイルとはかなりイメージの異なるタイプのラップを聴かせてくれます。

まずアルバムはいきなりネオソウル風のメロウなコーラスとサウンドからスタートする点に驚かされます。そしてそれに続くNonameのラップは、ラップとポエトリーリーディングの中間を行くような、いわば「語る」ようなラップ。優しさを感じるその声に、まずは大きく惹かれます。

この「語る」ようなラップが個人的にはかなり壺。「Window」「Don't Forget About Me」などでもポエトリーリーディングにも近いようなラップスタイルを聴かせてくれるのですが、ひとつひとつの言葉をしっかり語るように綴るスタイルに個人的には好印象。ただ単純に語るだけではなく、しっかりとリズムにのせており「ラップ」している点も特筆すべきでしょう。

トラックもジャズやネオソウルなどの影響の強いメロウなトラック。ベースラインを強調していたり、それなりに今風にアップデートするスタイルは感じるのですが、今流行りのトラップ的な要素は皆無。ただ、メロウで実に美しいトラックにはとても耳を惹きつけられるものがあります。

後半には「Montego Bae」「Part Of Me」のような歌モノも登場。少々トライバルなリズムも印象的なナンバーなのですが、美メロともいえるメロディーラインを聴かせてくれており、R&Bのミュージシャンとして歌でも十分勝負できそうな力量と歌心を感じます。

そしてラストを飾るセルフタイトルともえいる「No Name」も実に素晴らしい名曲。最初は静かなピアノのインストからスタートし、途中で彼女のラップも登場。後半は男性R&シンガーAdam Nessとのデゥオで締めくくられます。歌もサウンドも美しく聴かせるナンバーで、最後を締めくくるにふさわしい、心に残る名曲に仕上がっています。

「刺激的で新しい」というタイプのラップではないかもしれませんが、彼女の語るようなラップもメロウなトラックも歌も、心に響いてくるとても優しい曲を聴かせてくれます。HIP HOPでありながらも歌心あふれる楽曲の連続で、HIP HOPリスナー以上にソウルやジャズ系の曲が好きな方が気に入りそうなアルバム。私もすっかり気に入りました。傑作です。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

QUARTERTHING/Joey Purp

Quarterthing

Chance the Rapperを抱えるクルー、Save Moneyのひとりとして注目を集める若手ラッパー、Joey Purp。いままでMix Tapeのみのリリースでしたが、本作がスタジオアルバムでもデビュー作だとか。もっともいままでのMix Tape同様、CDでのリリースはなく、配信オンリーでのリリースだそうです。

サウンドは今時のトラップ的な要素を取り入れつつ、リズミカルで軽快なラップ。トラップ的なハイトーンのスネアの音もそうですが、全体的にハイトーン気味のシンプルなミニマルテイストのサウンドで軽快に聴かせてくれます。全36分という長さも試しに聴いてみるにはちょうど良く、いい意味でポップで聴きやすいアルバムに仕上がっています。これからの活躍も楽しみです。

評価:★★★★★

MY MIND MAKES NOISES/Pale Waves

最近、特に日本でメディアにおいてよく取り上げられているイギリスの新人バンドPale Wavesのデビュー作。女性ボーカルを中心とした4人組のバンドで、80年代あるいは90年代を彷彿とさせるような、ちょっと懐かしい雰囲気のあるエレクトロ・ガールズポップを奏でています。同じレーベルのThe 1975との類似性を言われることも多いようですが、またChvrchesともかぶるような部分も。確かに軽快で明るいポップソングは聴いていて素直に楽しめるのですが、最近よくありがち・・・と思ってしまったのも事実。ゴシックロックをイメージしたルックスに強いインパクトがあるバンドですが、楽曲自体にもう一歩のインパクトも欲しいところかも。

評価:★★★★

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