初の「公式」ベスト盤
Title:STORY~HY BEST~
Musician:HY
メンバー全員が沖縄出身の男性4人、女性1人によるロックバンドHY。2000年結成の彼らの来る「結成20周年」に向けて「Road to 20th プロジェクト」が始動。その第一弾となるのがこの初となる「公式」ベストアルバムです。いくらなんでもまだ2018年の段階から結成20周年に向けてのプロジェクトをはじめるのは早すぎないか?と思うのですが、ちょっとイジワルな見方をしてしまうと一時期に比べて正直売上が落ち込んでいる彼ら。なんとか売上を喚起したいということなのでしょうか。
初の「公式」ベストアルバムという書き方をしているのは理由があって、彼ら、2014年に一度ベスト盤をリリースしています。ただこのベスト盤、よくありがちな原盤権を持っているレコード会社がミュージシャンに無断でリリースしたパターン。このベスト盤については彼らは完全否定した訳ではなく、「聴きたい方は、是非、聴いてください」と消極的なスタンスを取っていました。現在でも公式サイトを見るとこのベスト盤の存在には全く触れられておらず、「なかったこと」になっている模様です。
そして今回のアルバムはあきらかにこの2014年にリリースしたベストアルバム「HY SUPER BEST」を意識しています。今回はファン投票による上位の楽曲にメンバーが選んだ曲を加えてのベスト盤となっていますが、結果としてかなりの部分、収録曲が「HY SUPER BEST」と被ってしまっています。今回のアルバム、建付け的には「セルフカバー」という形を取っており、過去の曲をあらためてレコーディングした形になっているのですが、このレコーディングし直した曲は「HY SUPER BEST」の選曲対象となった2012年リリースのアルバム「Route29」以前の曲のみ。それ以降の曲に関しては過去の音源をそのまま使っている形になっています。
「HY SUPER BEST」を買った方や、ファンにとっては新録音が聴けるというのはうれしい試み。もっとも基本的にはアレンジを大きく変えている訳ではないため、新鮮味は薄いかもしれませんが。それでも初期ナンバーを今の彼らが歌い直しているのはファンとしてはうれしいところです。もっとも、あきらかに「HY SUPER BEST」を意識した新録音になっており、セルフカバーとしては中途半端。どうせならすべて新録音にすればよいのに、とも思ってしまいます・・・。
さて、そんなアルバムの感想ですが、正直言ってしまうと2014年に紹介した「HY SUPER BEST」の時に抱いた感想と全く変わりありません。決して悪くはないのですが、正直言うと無味無臭のJ-POP。「HY SUPER BEST」の感想で「公営の海水浴場の安いスピーカーから流れてきそう」と書いたのですが、決して聴いていてムカムカするような駄作ではない反面、思わず聴き入ってしまうような名曲という感じでもなく、そういう意味で公共の場のBGM向け、という印象を受けてしまいます。
そんな印象を受けるHYですが、それでもこのベスト盤を含めて毎作聴いてしまうのは、時々素晴らしい名曲を出してくるから。特に沖縄民謡の要素を入れ、かつ仲宗根泉がメインのボーカルを取るバラードナンバーは沖縄出身の彼ららしい個性を発揮した名曲になっているケースが多々あります。例えば今回のアルバムに収録されている曲でいえば「366日」や「帰る場所」などがそのパターンでしょう。
特に「時をこえ」は歌詞の中で戦争の影を感じる社会派とも言える歌詞が特徴的。彼らのような典型的なJ-POPバンドですら、歌詞に戦争の話を取りいれてくるくらい、沖縄の方にとっては先の戦争の記憶がいまなお強く残っているということなのでしょうか。沖縄のバンドならではの名曲だと思います。
そうやって、時々、彼らしか歌えないような「名曲」をリリースしてくるだけに、アルバム全体としてはいまひとつと思っていても思わず聴いてしまう訳ですが・・・「HY SUPER BEST」の時の締めと同じになってしまいますが、そういう意味で非常に惜しく感じてしまいます。また是非、もっともっと多くの名曲を生み出してほしいのですが・・・。
評価:★★★
HY 過去の作品
Whistle
PARADE
Route29
HY SUPER BEST
GLOCAL
LOVER
Synchronicity(HY+BIGMAMA)
CHANCE
ほかに聴いたアルバム
SickSickSickSick/佐藤千亜妃
きのこ帝国のボーカリスト、佐藤千亜妃のソロデビュー作。バンドサウンドのきのこ帝国に対してソロではエレクトロサウンドという形でバンドとソロでの区別をつけているそうで、全体的にエレクトロ主体のポップチューンに。ここ最近、きのこ帝国の楽曲がポップ寄りにシフトしており賛否両論となっていますが、彼女の楽曲も比較的ポップなナンバーが並んでおり、例えばタイトルチューンの「SickSickSickSick」は90年代的なポップチューンになっていますし、「Bedtime Eyes」あたりはCharaからの影響を強く感じます。ただラストの「Prologue」では幻想的なサウンドを聴かせてくれたりして単純なポップアルバムとは一線を画している感じも。これからの活躍に要注目といった感じでしょうか。
評価:★★★★
BLACK BOX/大西ユカリ
なにわのゴッド姉ちゃん、大西ユカリのアルバムはなんとカバーアルバム。それも多くのソウルのスタンダードナンバーをカバー、ということで否応なく期待が高まったアルバム・・・なのですが、正直言うと期待していたほどではなかったかも。もちろん彼女の歌唱力は文句なしですし、感情たっぷりに歌い上げるその表現力も文句なし。そういう意味ではカバーとしては文句なし、なはずなのですが、いつもの彼女のオリジナルアルバムに比べるとちょっときれいすぎるというか、洗練されすぎているというのか。いつものアルバムのような泥臭いなにわのおばちゃんパワーがちょっと物足りないように感じました。
評価:★★★★
大西ユカリ 過去のアルバム
HOU ON
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