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2018年10月 5日 (金)

驚きの20周年

1998年、Zepp Sapporoのこけら落としライブに杏子、山崎まさよし、スガシカオの3人で出演し、杏子の「星のかけらを探しに行こうAgain」を合唱したことにより結成されたユニット福耳。当初はこの3人のみのユニットだったのですが、その後、彼らの所属する音楽事務所、オフィス・オーガスタ所属のミュージシャン全員で構成されるユニットに発展。その後も断続的に活動が続けられました。そして今回、その活動20周年を記念して福耳のオールタイムベストがリリースされました。

Title:ALL TIME BEST~福耳 20th Anniversary~
Musician:福耳

福耳のベスト盤はいままでもリリースされていましたが、2006年にリリースした「福耳 THE BEST WORKS」では福耳の曲だけではアルバムが埋められず、参加ミュージシャンの曲も収録した内容に。また2012年にリリースされた「ALL SONGS MUST PASS-Office Augusta 20th Anniversary BEST-」は福耳名義でしたが、実質的にはオフィスオーガスタのミュージシャンによるコラボアルバム。そういう意味ではアルバム1枚通じて純粋な福耳のベストアルバムとしてはこれが初。基本的にはシングル曲が配信限定のシングルを含めリリース順に収録されている構成。さらに新曲である「八月の夢」が収録されているシンプルな内容となっています。

個々でも活躍するミュージシャンたちが集まってユニットを結成するパターンは少なくありません。ただほとんどが期間限定的なユニット。また、恒久的なユニットとして立ち上がった場合でもあくが強いミュージシャン同士のコラボであるがゆえに短命で終わるケースがほとんど。そんな中、福耳というユニットが20年間続いたというのは驚きでもあります。・・・もっとも、オフィス・オーガスタ所属のミュージシャンが無条件で参加させられる訳ですから、参加しているミュージシャンの主張もなにもないのかもしれませんが・・・。

ただ福耳に参加しているミュージシャンたちは個々人でも一人立ちしているミュージシャンばかり。楽曲はそんなミュージシャンたちがそれぞれ提供している曲なだけに個性的であり非常にバリエーションが豊かな曲が並んでいました。基本的にはロックベースでのシンプルなポップチューンがメインですが、例えば「惑星タイマー」はメロディーを聴いただけで容易にスキマスイッチの曲だとわかりますし、さかいゆうによる「LOVE&LIVE LETTER」はビリー・ジョエルばりのピアノポップ。「Swing Swing Sing」もモータウンビートが軽快なナンバーで、秦基博らしいさわやかなポップチューンに仕上がっています。

楽曲的にはここ最近のシングルになればなるほど、比較的「あまり売れていない」ミュージシャンたちの曲が目立ち、ここらへんは福耳への楽曲提供を機に知名度をあげようというオフィス・オーガスタの思惑も感じられます。ただどの曲も甲乙つけがたい良質なポップチューンが並んでおり、まだ売れていないミュージシャンたちも何かのきっかけがあれば・・・と思ってしまいます。

ボーカルでは杏子や山崎まさよしのようなベテラン勢に一日の長がある感じで、どうしても耳に残ってしまいます。ただそんな中でもインパクトがあるのが元ちとせ。もともと奄美民謡の歌手である彼女らしいこぶしの効いた歌い方は否応なくアルバムの中でも目立ちます。コラボでもこの歌い方を全くくずしていないのがユニークなのですが、アルバムの中でもこのこぶしが大きなインパクトになっていました。

そんな訳であらためて福耳の、というよりもオフィス・オーガスタのミュージシャンたちの魅力に触れられるアルバムに仕上がっていたベストアルバム。良質なポップチューンの連続で幅広いリスナー層が楽しめそうなアルバムに仕上がっています。

評価:★★★★★

で、そんな福耳ですが、なんと結成以来初となるオリジナルアルバムがリリースされました。

Title:シンガーとソングライター ~COIL 20th Anniversary~
Musician:福耳

こちらはタイトル通り、福耳のメンバーでもあり福耳にも数多くの楽曲を提供してきたCOILのデビュー20周年を記念してリリースされたアルバム。全曲、COILの岡本定義の書下ろし・プロデュース作となっています。

COILと福耳といえば2008年にもCOILへのトリビュートアルバムとしてCOILの曲を福耳のメンバーがカバーした「10th Anniversary Songs~Tribute to COIL~」がリリースされていますし、どれだけCOIL推しなんだ、と思ってしまいます。ただ、その気持ちは痛いほど理解できます。COILといえば福耳への提供曲からもわかるように実に美しくポップなメロディーラインを書くミュージシャン。デビュー以来、いまひとつブレイクできず今に至っていますが、もっともっと売れてもいいミュージシャンなのに・・・という思いが事務所側にもあるのでしょう。

今回のアルバムは岡本定義の曲をみんなで歌う、というスタイルではなく、〇〇とCOIL名義により、それぞれのミュージシャンに岡本定義が楽曲提供をするような形になっています。結果、それぞれのミュージシャンのイメージに合った、実にバリエーション豊富なナンバーが並ぶアルバムになっています。例えば「女神誕生」は杏子らしさが際立つちょっとエロチックでメロウなナンバー。最近話題の竹原ピストルボーカルによる「平日のアリバイ」はピストルらしい泥臭さが感じられます。逆にアコースティックなサウンドと波の音が目立つオーガニックなナンバーである「幸福の別離」は、元ちとせが普段とは異なりこぶしを抑え目にメロウに歌いあげており、元ちとせの普段とはちょっと異なるボーカリストの顔が見れるのもユニーク。どの曲も岡本定義のミュージシャンとしての幅の広さを感じさせる曲になっていました。

一方では秦基博による「あぶない部下と危険な上司」は分厚いギターサウンドといい、ユーモラスな歌詞といい、歌詞の言葉の使い方に至るまで実にCOILらしいナンバー。ある意味、岡本定義らしさがもっともあらわれた曲といえるかもしれません。そしてラストには本人歌唱による「メロディ~君のために作ったんだから~」で締めくくり。実に彼らしいシンプルなメロディーが秀逸なナンバー。こちらもメロディーメイカーとしての才能が光るナンバーで締めくくられています。

そんな訳で福耳のオリジナルアルバムなのですが、岡本定義の実力が再認識できるアルバムに仕上がっていました。本当に、これだけ素晴らしいミュージシャンなのになんでブレイクできないのかなぁ。福耳の、というよりはCOILのニューアルバムが聴きたくなってしまうそんな1枚。そろそろCOILの新作、リリースされないかなぁ。

評価:★★★★★

福耳 過去の作品
10th Anniversary Songs~tribute to COIL
福耳 THE BEST ACOUSTIC WORKS
HOME~山崎まさよしトリビュート
ALL SONGS MUST PASS~Office Augusta 20th Anniversary BEST~
ALL SONGS MUST PASS - BEST LIVE RECORDINGS From Augusta Camp 2012 –


ほかに聴いたアルバム

Boys&Girls/大江千里

その活動には賛否あるものの、すっかりニューヨーク在住のジャズピアニストになってしまった大江千里。今回のアルバムは彼の過去の代表曲をジャズピアノでカバーしたインストアルバム。基本的に昔の名曲をもう一度・・・的な感覚で聴くと「コレジャナイ」感がかなり強いアルバム。もともとジャズピアニストが憧れだったようなので、現在の活動は彼が本当にやりたかったことをやっているんでしょうが、アルバムとしてはよくありがちな凡百な感じで、彼の魅力が出ているとは正直感じられませんでした。昔のようなポップミュージシャンには・・・もう戻らないんだろうなぁ。

評価:★★★

大江千里 過去の作品
GOLDEN☆BEST

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