曲の世界を旅するような
Title:Egypt Station
Musician:Paul McCartney
御年72歳を過ぎてもいまだに元気なポール・マッカートニー。
前作「NEW」リリース後も積極的に来日公演を行っており、その元気なほどを日本のファンにも見せています。今年も来日公演の決まった彼ですが、そんな彼の約5年ぶりとなるニューアルバムがリリースされました。
「エジプト・ステーション」と名付けられた今回のアルバム。1曲目は駅の風景をそのまま録音したようなイントロからスタートするのですが、まさに駅から列車に乗って旅をすることをイメージしたコンセプチュアルな作品に仕上がっています。彼自身インタビューで今回のアルバムのことを、「1曲目の駅から出発して、それぞれの曲がまるで違う駅のようなんだ」と語っていますが、まさに彼の曲の世界を旅するような、そんなアルバムと言ってもいいでしょうか。
そしてそんな今回のアルバムはポップス職員としてのポールマッカートニーの本領が発揮されたアルバムになっていました。前作「NEW」ではエレクトロサウンドを取り入れて、タイトル通り、今時の音にアップデートしようとしていました。今回のアルバムでもグレッグ・カースティンやライアン・テダーといった流行りのプロデューサー陣の力を借りつつ、ただ全体としてはあくまでもメロディアスに「歌」を聴かせる作品に仕上がっていました。
まずオープニングに続く「I Don't Know」からしてピアノ主体のポップチューン。暖かみのあるちょっと切ないメロディーラインが心に響くナンバーになっています。かと思えば続く「Come On To Me」は軽快なギターサウンドが耳に残るロックンロールのテイストが強いナンバーに。さらに続く「Happy With You」はシンプルなアコギでメロディアスに聴かせるフォーキーなナンバーに、とまさに彼が言うように、「違う駅」のように様々なタイプの曲が続いていきます。
特に後半に行くに従い、様々な音を入れたユニークなナンバーが増えていき、例えば「Back In Brazil」ではちょっとラテン風のリズムの軽快な打ち込みのナンバーが入ったり(ちなみに歌詞になぜか日本語で「Ichiban!」が登場してきます・・・)、さらには「Despite Repeated Warnings」ではミディアムテンポの落ち着いたメロディアスなナンバーながらもストリングスやピアノやホーンなど様々な音を入れ、分厚く構成。楽曲的にも中盤いきなりテンポがかわったり、曲調も変化したりと複雑なナンバーに。ただメロは至ってポップで、どこかビートルズを彷彿とさせるようなナンバーになっています。
さらに「Caesar Rock」では御年70歳を超えてシャウト気味のロックなボーカルを聴かせてくれますし、ラストの「Hunt You Down/Naked/C-Link」も序盤はロッキンに、中盤、ピアノでメロディアスに、さらに後半はブルージーにと、タイトル通り3つの曲が合わさったかのようなユニークな構成の楽曲に。まさにアルバムのコンセプト通り、様々な曲の世界を旅しているかのような構成になっていました。
さすがに70歳を超えた彼なだけにボーカリストとして声には残念ながら少々年齢を感じさせる部分も否定できません。最初は正直ちょっとこの点は気にかかりました。ただ、曲を聴き続けるにつれて、楽しいポップチューンの連続で、この声の部分は徐々に気にならなくなります。というよりも、楽曲的にこの「声」に合わせたかのような、いい意味で老成した雰囲気も感じられるような曲が多かったように感じました。
そんな訳で、様々なタイプの曲が並びつつ、どれも素晴らしくメロディアスなポップチューンが並ぶ、まさにポップ職人としてのポールの本領が発揮された傑作だったと思います。さすがに70歳を超えるとこれが最後の・・・なんてことを頭によぎってしまいますが、でもこれだけの傑作をリリースできるんだから、まだまだ次回作も期待できそうですね。まだまだ彼の活躍は続きそうです。
評価:★★★★★
PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW
ほかに聴いたアルバム
Let's Go Sunshine/THE KOOKS
イギリスのギターロックバンドによる約4年ぶりのニューアルバム。もともと非常にシンプルなギターロックが持ち味のバンドでしたが、今回のアルバムは序盤いきなり、アイドルポップか?と思うほどの爽やかなポップチューンからスタート。少々驚かされます。その後も基本的にシンプルで爽快感あるポップな曲が多く、いままで以上にポップ寄りのアルバムに。ただしラスト3曲はいかにもイギリスのギターロックらしいメロディアスなメロとほどよくノイジーなギターを押し出したバンドサウンドを聴かせるロックなナンバーになっており、UKロック好きなら気に入りそうな楽曲で締めくくっていました。
評価:★★★★
THE KOOKS 過去の作品
Konk
Junk of the Heart
The Best of...So Far
KIN/MOGWAI
以前からちょくちょく映画やらテレビ番組やらへの楽曲提供を行い、サントラ盤もリリースしている彼ら。本作は映画「KIN」のサントラ盤。映画のサントラ盤ということもあり、全体的に静かな雰囲気の曲調となっており、特に前半はピアノで静かに聴かせるような曲調となっています。ただ、後半はギターノイズを聴かせるダイナミックな曲調を聴かせてくれたりして、MOGWAIらしさはきちんと健在。映画のサントラによくありがちなBGM的な薄っぺらい内容ではなく、劇伴としての役割を果たしつつ、要所要所にMOGWAIらしさを入れた作品になっています。オリジナルに比べるとさすがに物足りなさはあるかもしれませんが、ファンとしてはとりあえずは聴いておくべき、間違いなく「MOGWAIのアルバム」です。
評価:★★★★
MOGWAI 過去の作品
The Hawk Is Howling
HARDCORE WILL NEVER DIE,BUT YOU WILL
Live at All Tomorrow's Parties,9th April 2000
Earth Division EP
Rave Tapes
Les Revenants
CENTRAL BELTERS
ATOMIC
Every Country's Sun
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