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2018年10月30日 (火)

すごいなぁ・・・くるり

Title:ソングライン
Musician:くるり

約4年ぶり、ちょっと久しぶりとなったくるりのニューアルバム。
ちょっと間が空いたのはファンファンの産休があった影響も大きいのですが、その間も残ったメンバー2人でライブ活動を継続したり、ベスト盤をリリースしたり、さらには岸田繁は初となる交響曲を発表するなど、かなり積極的な活動を続けていました。

そんな久しぶりとなる本作については「原点回帰」とメディアなどで今回よく見受けられました。確かに今回のアルバムに関しては「春を待つ」「忘れないように」など、デビュー当初に作成した楽曲が収録されていたため、そういう表現がされたのでしょう。ただ、個人的には本作に関して「原点回帰」という印象はありませんでした。

本作の最大の特徴と感じたのは、非常にシンプルな歌モノのアルバムという点でした。前作「THE PIER」は3人組となってはじめてのアルバムでしたが、バンドというよりも「ユニット」的なグループになったことから岸田繁の宅録アルバムのような実験的な作風になっていました。今回のアルバムに関してもバンド色はかなり薄め。ただ、岸田繁が新たな挑戦を行う、というよりも歌を中心に据えたアルバムになっており、イメージとしては「原点」というよりも、岸田・佐藤の2人組時代のアルバム、「魂のゆくえ」や「言葉にならない、笑顔を見せてくれよ」のイメージに近いアルバムだったように感じます。

そしてもっと言えば、2人組時代のアルバムよりも、はるかに深化を遂げたアルバムになっているように感じました。まずシンプルながらも全体的に凝った内容に仕上がっています。今回のアルバムではライナーツノートで岸田繁が1曲毎に詳細な解説を書いています。その理屈っぽい内容が岸田繁っぽいなぁ、と苦笑いしつつ思ったのですが、ただ、今回のアルバムに関しての力の入れようがよくわかります。

実際、シンプルな歌モノとはいいつつ、ギターロックの「その線は水平線」からはじまり、フォークソングの美しいメロディーラインが印象的な「landslide」、ハードロック風なギターインストながら、途中、教会音楽のような展開を見せる「Tokyo OP」、BEN FOLDS FIVE風なピアノロック(そして最後はなぜかoasisが登場する)「忘れないように」など、要所要所に様々な作風の曲が顔をのぞかせています。

また、郷愁感あるメロディーラインが心に響いてくるのも大きな特徴なのですが、歌詞の面でもとても心地よい歌詞が印象に残ります。特にタイトルチューンでもある「ソングライン」は新幹線ののぞみに乗りつつ、窓の外の風景と自らの心象風景を重ね合わせた、ロードムービーのような旅情感ある歌詞が強く印象に残ります。「春を待つ」の歌詞も切ない感情を風景に重ね合わせた歌詞が印象に残ります。今回のアルバムはいつも以上にメロディー、歌詞重ね合わせて歌心にあふれる作品が多く見受けられました。

そして今回のアルバム、個人的に最大の魅力と感じたのは、音の重ね合わせが実に美しく仕上がっているという点でした。もともとくるりはバンドサウンドには少々異質なトランペットという楽器が加わっています。いままでもそのトランペットをうまく楽曲の中に組み込んできたのですが、今回のアルバムでは特にストリングスやピアノの音色を楽曲の中で実に美しく、違和感なく重ね合わせてきています。

特にJ-POPにおいてはストリングスやピアノを入れると必要以上に音が主張してしまい、無駄にスケール感だけが大きくなった大味なアレンジが少なくありません。しかし今回のくるりのアルバムではバンドサウンドの中にストリングス、ピアノ、そしてトランペットの音が実に自然に、かつ実に美しく織り込まれています。特に「だいじなこと」のピアノとホーンの奏でるハーモニーの美しいこと美しいこと・・・。この音の重なり合いをしっかり意識した曲づくりというのは、岸田繁が交響曲を手掛けたからこそ、成し遂げられたことなのかもしれません。全体的には決して必要以上に音が主張していませんので、よくよく聴かないと気が付かないかもしれませんが、じっくり聴いてみると、単純な歌モノとは言い切れない、凝ったサウンドが楽しめるアルバムになっていました。

正直言うと、彼らの「原点」からはいい意味でかなり遠くに来たなぁ、と感じるアルバムですし、個人的に似ていると感じられた岸田・佐藤2人組時代のアルバムに比べても、さらなる高みに到達したアルバムのように感じました。一言で言って、ミュージシャンとしての格の違いを感じたアルバム。デビュー当初、彼らに対するキャッチフレーズとして「すごいぞ!くるり」という表現がよく用いられていましたが、今回のアルバムに関しては感嘆の意味を込めて「すごいなぁ・・・くるり」と感じてしまう傑作アルバム。間違いなく2018年を代表する1枚です。

評価:★★★★★

くるり 過去の作品
Philharmonic or die
魂のゆくえ
僕の住んでいた街
言葉にならない、笑顔を見せてくれよ
ベスト オブ くるり TOWER OF MUSIC LOVER 2
奇跡 オリジナルサウンドトラック
坩堝の電圧
くるりの一回転
THE PIER
くるりとチオビタ
琥珀色の街、上海蟹の朝
くるりの20回転


ほかに聴いたアルバム

The Remixes/Nulbarich

Remix_nul

Nulbarichの新作は配信限定リリースの4曲入りのリミックスアルバム。リミキサーとしてDisco Fries、Oliver Nelsonなどアメリカでホットなミュージシャンたちを迎えたアルバムになっており、全編、エレクトロサウンドで楽しいリズミカルなアレンジに仕上がっています。難しいこと抜きに楽しめるフロア対応のアルバムになっていました。

評価:★★★★

Nulbarich 過去の作品
Who We Are
Long Long Time Ago
H.O.T

秋のオリーブ/カジヒデキ

カジヒデキ(51歳)による新作EP。ご、ごじゅういっさい!!??先日紹介した真心ブラザーズのYO-KINGと同い年でございます。すっかりアラフィフとして味が出た真心のメンバーとは異なり、彼はいまだに短パンボーイ。80年代のスタイルを貫いており、本作も表紙はあの岡崎京子。そもそもタイトルである「オリーブ」は80年代に一世を風靡したファッション誌「オリーブ」のことだそうで、その「オリーブ」への愛情をうたったアルバムになっているそうです。

楽曲的にはいつもの彼らしいさわやかなポップチューンで、こちらのスタイルも昔から全く変わっていません。ある意味、いろいろな意味での変わらなさにはかなりの潔さを感じます。聴いていて楽しくなる軽快なポップチューンはいまなお現役で、タイトルやジャケットから感じるようなノスタルジックな雰囲気はゼロ。ある意味、昔の空気感をそのままパッケージしています。ちなみにラストは自らがキュレーターをつとめるフェス「PEANUTS CAMP」のテーマ曲「ピーキャン音頭」を収録。「音頭」なこの曲だけはちょっと彼にしては違ったタイプの曲となっておりユニークです。

さすがに昔と変わらない短パンファッションのご本人は若干「・・・」な部分があるのは否定できないのですが、この変わらなさは脅威的ですね。このまま、是非還暦まで続けてください!

評価:★★★★

カジヒデキ 過去の作品
LOLIPOP
STRAWBERRIES AND CREAM
TEENS FILM(カジヒデキとリディムサウンター)
BLUE HEART
Sweet Swedish Winter
The Blue Boy

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