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2018年10月20日 (土)

全方向にディス

Title:Kamikaze
Musician:EMINEM

8月に急きょ配信でリリースされ話題となったEMINEMのニューアルバム。昨年12月に久々となるニューアルバム「Revival」をリリースしましたが、そこからわずか約8ヶ月というスパンでリリースされたアルバムということになります。事前アナウンスなしの突然のリリースという形態も話題になりましたが、あきらかにBeastie Boysの「Licensed to Ill」のオマージュとも言えるジャケットにも目を惹きます。また、日本人としては「Kamikaze」というタイトルもまずは大きな印象が残りました。

さて前作「Revival」ですが、売上的にはビルボードチャートで1位を獲得するなど大成功する結果となった作品。ただし評論家筋には相当評判が悪かったようで、各種メディアでは残念ながら酷評となったそうです。実際、日本のメディアでも芳しい評判は受けられていませんでした。

そんな世間の評判に怒ってリリースされたのが今回のアルバム。残念ながら配信オンリーのリリースであったため、歌詞について詳しい内容はわからないのですが、冒頭の「The Ringer」「Greatest」などはまさにそんな「Revival」を酷評したメディアなどに対する強烈なディスになっているとか。さらに彼のディズはそれにとどまらず、人気のラッパーを数多く標的にしています。タイトルチューンの「Kamikaze」ではDrakeをディスっているそうですし、「Fall」ではTyler, The Creatorをディス。ほかにも多くの若手ラッパーをディスっているらしく、まさに全方面にディスりまくりのアルバムとなっているそうです。

怒りの表現によりわかりやすく自分の感情を吐露したアルバムになっている本作。配信オンリーで急きょリリースしたのは、まさに「今現在」彼が抱えている思いを綴ったアルバムなだけに、その瞬間にリリースしないと意味がない、ということもあるのでしょう。また、先日第2弾を紹介した「文科系のためのヒップホップ入門」の中で、ラップは場を楽しむゲームだ、ということが語られているのですが、「Revival」という酷評に対しする反論を、ラップというゲームの場に引きずり上げているのもエミネムらしさを感じます。

日本人には残念ながらここらへんの「ゲーム」は歌詞の内容がわからない状況ですぐに理解するのは難しいのですが、今回のアルバムはリリックがわからないような状況でも十二分に楽しめる内容だったと思います。わかりやすいビート感あるテンポよく力強いラップは、やはりついつい惹きこまれてしまいます。映画「ヴェノム」の主題歌にもなっている「Venom」のようにダイナミックなサウンドに耳を惹かれるような楽曲も多く、いい意味でHIP HOPリスナー層以外にも訴求できるようなわかりやすい楽曲も目立ちます。特に「Lucky You」などで聴くことが出来る超絶なラップスキルは素人でもわかりやすい形で披露されています。

ほかにも「Stepping Stone」のような歌モノもあったりして、メロディーが魅力的に感じる曲も少なくありません。一方では「Not Alike」では最近流行のトラップ的なサウンドを入れてきており、今時のサウンドにもアップデートしています。ここらへん、前作「Revival」では良くも悪くもオールドスタイルを貫いていた印象もあっただけに、前作とは対照的な部分にも感じられました。

残念ながら現時点で歌詞について詳しい内容はわからないものの、11月には国内盤がリリース予定で、さらに今回は全訳付きだとか(!)。前作「Revival」は国内盤リリースがアメリカでのリリース時より差があった癖に訳がついておらず、その点を前作のレビューではかなり酷評したのですが、今回は無事、全訳がついている模様。その点はかなり安心しました。今回、本作はSpotifyで聴いたのですが、全訳目当てにCDで購入し直す予定。ともかくいろいろな意味でEMINEMらしさが全開となった今回のアルバム。めまぐるしく変化していくHIP HOPシーンですが、その中でもまだまだ彼の立場は健在のようです。

評価:★★★★★

EMINEM 過去の作品
RELAPSE
RECOVERY

THE MARSHALL MATHERS LP 2
REVIVAL


ほかに聴いたアルバム

2017年に創立70周年を迎えたアトランティック・レコード。60年代から70年代にかけては数多くのソウル/R&Bの名曲を世に送り出した名門なのですが、その70周年を記念して1964年から72年まで、ほぼ1年区切りでアトランティック・レコードのシングル集を10作品リリース。今回はその第1弾の紹介です。

500 Atlantic R&B/Soul Singles Vol.1 1964-65

まずこちらは第1弾。タイトル通り、1964年から65年にリリースされたシングル50曲を収録。

500 Atlantic R&B/Soul Singles Vol.2 1965

こちらは第2弾。1965年にリリースされたシングル50曲を収録されています。

楽曲的にはパワフルなソウルナンバーやバラード。さらにメロウに聴かせる甘いポップナンバーなど数多くの曲が収録。R&B/ソウルといってもその幅広さを感じさせますし、なによりもいい意味で強いポピュラリティーを感じさせる名曲が揃っています。さらにやはり時節柄でしょうか、当時流行していたモータウンの後追いのような軽快なガールズポップもちらほら収録されている点もユニーク。ただそんな曲もどこかソウルな要素を強く感じる曲となっており、モータウンとは違った魅力あふれる曲となっています。

ただそんな中でも特にSolomon BurkeやOtis Reddingはボーカルの力強さはもちろんのこと、その豊かな表現力でもこうやってコンピの中で比べて聴くと、頭ひとつ出ているような印象も。もちろんほかにも魅力的なシンガーがズラリと並んでおり、R&B/ソウル好きならたまらないコンピレーションアルバムとなっていました。

評価:どちらも★★★★★

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