日本古来の音楽への好奇心がくすぐられます。
本日も音楽関連で読んだ書籍の感想です。とはいっても、ちょっといつもとは趣きが異なるかもしれませんが・・・。
ここでもいろいろなアルバムを紹介していますが、個人的にワールドミュージックに興味を持っており、様々な国の音楽でおもしろそうなアルバムを積極的に聴いています。またその流れで日本の昔からの音楽にも興味を持ち、久保田麻琴プロデュースによる「ぞめき」シリーズなどの盆踊りなどを収録したアルバムも何作か紹介してきました。
そんな中で興味を持ったのが今回紹介する本。「新 神楽と出会う本」。日本の神道において神様に奉納するために行われている音楽である神楽。その音楽自体はお祭りなどで日本人なら一度は耳にしたことがあるでしょう。その「神楽」を体系的に紹介した入門書となります。
この本の著者はもともと細野晴臣をはじめ、数多くのミュージシャンたちと活動を行ったことのあるミュージシャン三上敏視氏。現在は「神楽ビデオジョッキー」として、数多くの神楽を紹介する活動を行っているとか。民俗学的な観点から捉えられることが多そうな神楽を、音楽的な観点から、それもポピュラーミュージックの視点から分析している点に非常な新鮮味を感じる一冊となっています。
同書の構成は第1章で「神楽を知る」として神楽というのはどのような芸能なのか概説的に紹介。そしてその神楽を第2章では音楽的な切り口から紹介しています。第1章はどちらかというと民俗学の本を読んでいるような感覚になるのですが、大まかな解説にとどめているため、学問的に神楽を知りたい人にはちょっと薄い内容かも。もっとも神楽はどんな芸能でどんな魅力があるのかは十二分にわかる内容になっています。
そしてこの第2章が同書の一番の肝。神楽という音楽をポピュラーミュージック的な切り口から解説しているのですが、ホワイトノイズやら16ビートやらトランスやら、おそらく神楽を紹介する一般的な本ではまず出てこないような言葉が次々と飛び出してきます。そしてポップスに聞き慣れた耳を持つ私たちにとっては、この解説が実に魅力的。ポピュラーミュージック的な観点からの神楽の魅力が語られるため、俄然興味がわいてきました。
さらに第3章では神楽で歌われる「せり歌」の紹介。こちらは現地調査のレポートのような形態になっており、そのレポートも魅力的なのですが、神様に奉納する神楽でありながら、時として「エロ歌」も飛び出る一般大衆の気持ちがそのまま反映された歌の内容にもとても惹かれるものがありました。
そして最後の第4章では日本全国50か所の神楽についての紹介。こちらも音楽的な観点からの紹介もあり、実際に聴きたくなってくる魅力あふれる紹介に。この紹介を頼りに、まずは紹介されている神社のうち、近場の神社に足を運んでみたくなります。
そんな訳で、ポピュラーミュージックに慣れ親しんだ私たちに神楽の音楽的な魅力を上手く伝えてくれる同書。さらに本作にはところどころにQRコードがついており、このコードを読み取ることによってYou Tube上にアップしてある神楽の動画を見ることが出来ます。この試みもなかなかユニーク。個人がアップした動画なども含まれているだけに、今後、リンク切れになるケースが多くなるような懸念もあるにはあるのですが、ネット時代の今だからこそ使える手法で、この本で紹介する神楽を、実際に目や耳にも伝えることが出来る仕組みになっています。
また、この本を読むと、日本全国に実に様々なタイプの神楽が存在していることを知り、その点でも興味がわいてきます。いかんせん神楽のイメージとすると太鼓がドンドンと鳴って笛がぴーひゃらと鳴り響いている、程度のイメージしかないのですが、実際にはいろいろな音やリズムのバリエーションがあることを知ることが出来ました。
もっとも本書でひとつだけちょっと残念な部分も。この本、いわゆる入門書的な位置づけの本なのですが、次に読むべき神楽についての本や、あるいは神楽をもっと知るためのディスクガイド的なものがなかったのは残念。実際に現場に行ってみてほしい、ということなのでしょうか。だとしたらもう1点、実際に神楽を見に行く場合の注意事項や手軽に見る方法なども詳しく書いてほしかったような・・・。地方の、ある意味地元民のためのお祭りに外部の者が見に行くのはどうしても敷居が高いものがあるので・・・。
そんな気になる部分もありつつ、全体的にはとても楽しめた1冊でした。まだ同書で紹介されている動画も全然見切れていないので、今後、徐々に紹介されたYou Tubeの動画も見に行ってみたいところ。そしてなにより、一度現地で神楽も見たくなりました。非常に好奇心をくすぐられる1冊でした。
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