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2018年10月14日 (日)

童謡百年

Title:童謡百年の歩み~メディアの変容と子ども文化~

いまからちょうど100年前の1818年(大正7年)7月1日、児童文学者の鈴木三重吉により児童雑誌「赤い鳥」が創刊されました。この雑誌は政府主導で推し進められた唱歌や説話に対して子ども本来の感性をはぐくむことを目的として童話・童謡を提唱し、いまでも知られる数多くの童話や童謡を世に生み出しました。この話は教科書にも載っている話なのでご存じの方も多いでしょう。今年は「赤い鳥」創刊からちょうど100年。そのため、「童謡百年」として様々なイベントなどが行われいるようです。

本作はそんな「童謡百年」の企画の一環として日本コロンビアからリリースされた全8枚組からなるCDボックス。もともとは「日本童謡史」として1981年にリリースされたものを大改訂した作品で、全240曲を収録。「童謡」のみならず「子供向けの楽曲」をテーマとして童謡が誕生する以前から子供たちが歌い継いでいた「わらべ歌」からNHKの「おかあさんといっしょ」や「みんなのうた」で誕生した曲、さらには「アニメソング」まで幅広い楽曲を収録しています。

個人的な事情で恐縮ですが、ここ最近、子どものために童謡やら「おかあさんといっしょ」などEテレ初のキッズソングをしょっちゅう聴くようになりました。ただそんな中、キッズソングを大人の耳で聴いて気が付いたのですが意外と・・・というよりも全く馬鹿に出来ない。子ども用の童謡やキッズソングは対象が子どもであるがゆえにいろいろと考えこまれた曲も多く、メロディーもシンプルであるがゆえによくよくできたポップソングが少なくありません。そんなこともあって今回、このCDボックスを聴いてみました。

とにかくこのCDボックスで印象的なのはキッズソングを徹底的に網羅しようとする幅の広さ。前述の通り「わらべ歌」からスタートし、「アンパンマンのマーチ」「おどるポンポコリン」「ドラえもんのうた」まで収録されています。本作のCD8枚組はそれぞれがテーマ性をもって選曲されているのですが、特にDISC6は「テレビと童謡」をテーマにテレビから生まれたキッズソングを収録。ただ比較的最近誕生した曲が多いせいか、やはり戦前に生まれた童謡や唱歌と比べると、ポップソングとして耳なじみやすさを感じたのが印象的でした。

また収録曲は「童謡」に留まりません。DISC5「歌手と童謡」では歌手にスポットをあてて選曲。童謡歌手が歌う「歌謡曲」などもあったりして、曲の大半はキッズソングというよりは歌謡曲に近い曲でした。さらに美空ひばりの「河童ブギウギ」も収録されているのですが、その歌唱力はほかを圧倒しており、彼女の実力を感じさせます。

さらにDISC8「歴史の彼方から甦る童謡」では戦前のSP盤などの貴重な音源を収録。戦前にブームとなった浅草オペラの一環であるお伽歌劇の音源や戦時歌謡の曲まで収録されており、日本の童謡の歴史を徹底的に網羅しようとするこだわりも感じさせられました。

そんな非常に意欲的な企画であった本作。あらためて聴いて懐かしさを感じさせる曲も多々あり、また「子ども向け」だと馬鹿に出来ない名作も数多く、8枚という大ボリュームでありつつ一気に聴けてしまう素晴らしい企画になっていました。ただちょっと残念だった点がひとつありました。それは日本コロンビアの独自企画だったゆえに、コロンビアの音源のみが収録されていた点。そのため曲によってはオリジナルではなくカバー曲が収録されていました。

もっとも多くの童謡は必ずしも「オリジナル」がよく知られている訳ではないためカバー曲でも全く問題ありません。Eテレのキッズソングも、歌のおねえさん、おねえさんが変わるたびにカバーしていたりするので気になりません。ただ、たとえば「おどるポンポコリン」や「黒猫のタンゴ」、となりのトトロの「さんぽ」などオリジナル曲がよく知られている曲に関してはかなり違和感がありました。特に「おどるポンポコリン」はマナカナによるカバーなのですが、彼女たちの歌はまだしも、原曲の近藤房之助のパートがかなり酷く、聴いていて辛いものすらありました。

せっかくの企画なのでコロンビア単独ではなく多くのレコード会社の共同企画だったらおもしろかったんですけどね。でも「童謡」というテーマだとなかなか売上を確保できないので難しいのかなぁ。その点だけはちょっと残念でした。

そんなちょっと残念な点もありつつ、企画全体としてはかなりの力作であり、素晴らしい内容だったと思います。かなりのフルボリュームだったのですが、聴いてみて損のない内容。あらためて童謡、キッズソングの素晴らしさ、奥深さを感じさせてくれる作品でした。

評価:★★★★★

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