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2018年10月 9日 (火)

「和」と「洋」の融合は戦前にも

Title:ダンスリヨウ みんなで踊ろう昭和戦前民謡ジャズ

今回は、度々こちらでも紹介する戦前のSP盤を復刻したアルバムをリリースするレーベル、ぐらもくらぶの新しいアルバムです。今回取り上げた曲は「ダンスリヨウ」の楽曲だそうです。ダンス理容?床屋さんの踊り??なんて思ってしまいそうですが、「リヨウ」は漢字で書くと「俚謡」、要するに民謡のこと。「ダンスリヨウ」という聞き慣れない言葉は一部のレーベルのみで用いた、決して一般的な名称ではなかったようですが、1930年代、というから昭和最初期に主に関西で民謡とその当時はやったジャズなどを融合させた流行ったダンス小唄がちょっとしたブームになった時期があったそうで、そんな楽曲を収録したアルバムだそうです。

戦前に「ジャズ」というと今で言うジャズに限らず、西洋由来のポップソングを幅広く「ジャズ」と呼んでいた模様。ちょっと前までギターやドラムが鳴っていれば、どんなポップスも「ロック」と呼んでいたのと似ているかもしれません。要するにこの「ダンスリヨウ」というのは民謡という「和」の要素とジャズという「洋」の要素を融合させたダンスミュージックという訳です。洋楽由来のポップスに和風な要素をまぜて「日本独自の音楽」を確立させようとする動きは最近でもよく見られ、例えばメジャーシーンでは和楽器バンドなどが話題になりましたし、音楽ファンの間では、同じように民謡にワールドミュージックの要素を加味した民謡クルセイダーズというバンドも注目されています。

戦前にもこういう民謡に洋楽的な要素を加えようとした動きがあった、という点も非常に興味深いのですが、もともとこの「ダンスリヨウ」に限らず日本の俗曲に洋楽の要素を加味しようとする動きは大正期からあったそうで、そういう意味では日本の伝統的な音楽と洋楽を融合させて日本独自の音楽を作ろうという試みは決してここ最近出てきた話ではなく、むしろ洋楽が日本に入ってきた最初期から続いている試みという訳なんですね。

さて、そんな民謡とジャズの融合という試みなのですが、思った以上にしっくりとはまっているのが興味深いところ。おそらく「外国に負けない日本独自のサウンドを」というよりも、純粋に普段聞き慣れている民謡を今風にアップデートさせようという試みだったのでしょう。そのためジャズという要素よりも民謡的な部分がより強く出ている曲もあり、ちょっと聴いただけだと「どこかジャズ風?」という民謡そのままの曲も少なくありません。

とはいえ「串本ブシ」ではいまでもなじみのあるフレーズに軽快なラテン風のアレンジがのり、モダンな雰囲気に仕上がっているのが実に魅力的ですし、続く「草津節」もパーカッションの音色が軽快で心地よいルンバ風のアレンジに。「浅草おけさ」なども二村定一のちょっとおどけた感じもするボーカルと軽快なブラスのアレンジにより垢抜けた楽曲に仕上がっています。

またユニークなのが「新磯節」「モダンこんぴら船々」など歌詞がその時代風にアップデートされている「民謡」も目立つこと。「新磯節」などは基本的に洋楽的な要素が薄く、民謡的な色合いが強いだけに、逆に歌詞が当世風なのが非常にユニークに感じます。また「木曾節 新日本八景」などは民謡の要素が強いのですが、強い太鼓のリズムが独特のグルーヴ感を出しており、図らずも民謡の持つ「レアグルーヴ」的な側面を押し出しているアレンジになっているのもユニークでした。

さらにラストを飾る「安来ルンバ」は玖馬ナショナル五重奏団という本場、キューバのバンドを迎え入れての録音。哀愁感たっぷりの演奏なのですが、本場キューバの演奏というだけあって心地よいリズムとラテン風のサウンドが今の耳でも十分に楽しめる曲に仕上がっています。ちなみに安来節はほかにもタンゴ風の「安来タンゴ」が収録されていますが、それだけなじみのある民謡だ、ということでしょうか。ちなみに「金毘羅船々」も上にも書いた「モダンこんびら船々」含め2曲収録。こちらは原曲からして軽快で、高揚感ある展開がダンスとも相性のよういナンバーなだけに「ダンスリヨウ」にもよく取り上げられたのでしょうか。

そんな訳で「和」と「洋」の融合の試みとして非常に興味深く聴けたコンピレーションアルバム。今の耳からしても十分に楽しめる曲も少なくありません。「民謡」に興味がある方も聴いて損はない1枚かと。今でいえば民謡クルセイダーズや例えばソウルフラワーユニオンあたりを好んで聴いている方なども要チェックかな。とても素晴らしい企画盤でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

存在感/KREVA

昨年はKICK THE CAN CREWとしても実に14年ぶりとなるアルバムをリリースしたKREVA。ソロとして約1年半ぶりとなる新作は5曲入りのミニアルバム。自分自身について問いかけた「存在感」や、ある意味、身もふたもないこをとリリックにしつつ自分への戒めにも感じられる「健康」など、全体的にはパーソナルなことを綴ったラップが目立ちます。KICKとしての活動を再開したからこそソロではよりKREVAのパーソナルな部分を出してくということなのでしょうか。2019年はソロ活動15周年の年になるそうで、この作品はそのスタートアップだとか。これから1年間、KREVAの活動から目が離せなさそうです。

評価:★★★★

KREVA 過去の作品
心臓
OASYS
GO
BEST OF MIXCD NO.2
SPACE
SPACE TOUR
KX
嘘と煩悩

YOURS/ビレッジマンズストア

名古屋発の5人組ガレージロックバンド。直近のミニアルバム「正しい夜明け」が非常に素晴らしい出来だったため初のフルアルバムとなる本作ももちろん聴いてみました。今回もとにかくエッジの効いたガレージロックがかっこいいアルバム。特に1曲目「Don't trust U20」はしゃがれ声のボーカルのシャウトと相成り、これぞロックといった楽曲に仕上がっています。

基本的にガレージロックをベースにメロディーはポップで歌謡曲的な要素も、というのは彼らの大きな魅力。今回もその魅力がフルに発揮されたアルバムになっていました。ただ前作に比べるとちょっとポップによりすぎている感じ。曲によっては平凡に感じてしまうナンバーもあり、惜しさも感じます。もっとゴリゴリのガレージロック寄りでもいいと思うのですが・・・。とはいえ、非常にかっこいいアルバムであることは間違いありません。今後も期待のバンドです。

評価:★★★★

ビレッジマンズストア 過去の作品
正しい夜明け

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