話題のHIP HOP入門書第2弾
いまから7年前、一冊のHIP HOP入門書が大きな話題となりました。「文科系のためのヒップホップ入門」と名付けられたその本は、ヒップホップを「音楽」ではなく「場を楽しむゲーム」であると主張。少々極論気味とはいえ、HIP HOPの本質をずばり突いたような評論が大きな話題となりました。(その当時の当サイトの感想はこちら)
そしてそれから早くも7年。ある意味「ようやく」という表現がピッタリかもしれません。HIP HOPを巡る動向が大きく変化する中、同書の第2弾が発売されました。それが今回紹介する「文科系のためのヒップホップ入門2」。前作と同様、ライターの長谷川町蔵氏と大和田俊之氏の会話を中心とした構成になっています。
本作の構成は前作がリリースされた移行、2012年から2014年までのHIP HOPの動向を1年ごとに紹介。またそれに挟む形でジャズ評論家の柳楽光隆氏を迎えて、「ジャズとヒップホップ」として近年急接近したジャズとヒップホップの関係を紹介しています。
そのため基本的には本作は前作を読んだ前提で話が進んでいきます。一応、前書きと第1章を復習的な章として設けてありますが、どちらかというと知識の振り返りといった感じで全くの初心者が本作から読み始めるとちょっと厳しい印象も。ゲームで言えば本作は前作の「パワーアップキット」といった感じでしょうか。
そんな本作ですが、著者のHIP HOP論については前作の延長。若干極論や単純化しているように感じる面がなきにしもあらずですが、シーンの本質をしっかりと突いた議論をしており違和感を覚えるような部分はありませんでした。ただ一方で構成面でもうちょっと工夫した方がよかったかも、と思う面が少なくありませんでした。
まずポジティブな面ですが、1年毎に紹介しているHIP HOPの動向。個人的にも6~7割程度は既に知っている話でした。ただ、それは要するに初心者レベルの話からスタートしているという意味。そういう意味でまさに「入門」にふさわしい内容になっていましたし、私が知らなかった3~4割の話も非常に興味深く聴けました。また私が知っている事項でもHIP HOPシーン全体から俯瞰した切り口もまた興味深いものがありました。
逆にネガティブな面なのですが、まず本人たちも指摘しているのですが、まずシーンの紹介が2014年までで終わっているというのは非常に厳しいものがあります。最近シーンを席巻しているトラップに全く触れられていませんし、ストリーミングが一般化した最近の動向にも触れられていません。ここらへん、あとがきでチラッと書いてはいるのですが、ここで紹介されているシーンと今のシーンに若干の乖離を感じてしまい、入門書としては大きなマイナスポイントのように感じます。
この点については著者も強く感じているようで、近日中に2015年から2017年のシーンを振り返る「3」を発売する予定だとか。この近刊に強く期待したいところです。もっとも2018年も既に9ヶ月が経過していますし、来年初頭に2018年のシーン動向を含めた形でリリースしてほしいとも思うのですが・・・。
また「ジャズとヒップホップ」としてヒップホップに急接近した最近のジャズの動向についてもかなりのスペースを割いて紹介しているのですが、こちらは「入門」というには特に詳しい説明もなく次々とミュージシャンが紹介されており、全くの初心者にとっては若干敷居の高い内容になっています。またシーン的にはヒップホップというよりもむしろジャズシーンの話。確かに最近、ジャズシーンはヒップホップと接近し、次々と新しいミュージシャンが出てきていて活況を呈してきている感もして、本作のこの論説も非常に興味深く読むことが出来たのですが、若干HIP HOP入門という本作の趣旨からははずれているように感じました。
逆にこの「ジャズとヒップホップ」は別冊的に1冊の本としてまとめて、その分空いたスペースで、各年のHIP HOPの動向についての「今の視点からの振り返り」をやってほしかったように思います。まあ、おそらく著者の方にとってはかなりの負担になりそうなので、読者の勝手な要望なのですが(^^;;
ちなみに本作で一番印象に残ったのはHIP HOPの話以上にアメリカにおけるきゃりーぱみゅぱみゅの「失敗」と、K-POP、特にBTSの「成功」の話。海外の動向をしっかりと分析せずにシーンの規模を読み違えて失敗した日本と、アメリカの音楽的動向をしっかりと分析し、それに沿った曲をリリースした韓国。ある意味、昨今の日韓のグローバル企業の動向に類似しているようにも感じられました。BTSについては、なぜあれだけアメリカでヒットできたのか、ずっと不思議に思っていたのですが、その理由の一端がわかったような気がします(とはいっても、それを差し引いてもなぜあれだけ成功できたのか、いまだに少々不思議なのですが)。
そんな訳で、構成面でもうちょっと工夫してほしかったなぁ、と思う面はあるものの、2014年までのHIP HOPの動向についてよく理解できる内容になっており、前作を読んだ方には引き続きHIP HOPの動向を手っ取り早く理解するには最適な1冊になっていたと思います。逆に前作を読んでいない、という方にはちょっとお勧めしずらい内容。まずは前作を読んだ上で本作を読むことをお勧めします。
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