テレビ黄金期のスーパーグループ
今回紹介するのは、本書の帯によると「クレイジーキャッツ初の音楽ヒストリー&レコードガイド本」、「娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー」を名乗る佐藤利明氏による「クレイジー音楽大全」です。書店に並んでいたのを見て妙に惹かれて、読んでみました。
ただ、個人的には正直言うとクレイジーキャッツに対する思い入れはほとんどありません。世代的には「ひょうきん族」がリアルタイム。物心ついたころにはドリフターズも全盛期が終っていました。ただし、子どもの頃。土曜8時は「全員集合」→「加トケン」を見ており、個人的にドリフターズには思い入れがあり、その「師匠筋」という意味でクレイジーキャッツに対しての興味はありました。
そんな私が今回この本に対して興味を抱いたのは、やはり昭和のポップスの歴史を追うのに避けては通れないクレイジーキャッツに関して総括的に書いた本だったから。書店で立ち読みする中で興味が出てきて、買ってみることにしました。
本書はまず最初、80ページもかけてカラーで、クレイジーキャッツのレコード/CDジャケットの豊富な写真や、当時の公演などのパンフレットなどを紹介。これだけでもかなり見ごたえがあります。その後はクレイジーキャッツの結成から彼らの全盛期となる昭和37年(1962年)までの歩みを第1章から第3章で描き、第4章ではそれ以降の彼らの活動について、舞台公演、映画、新曲やLP盤毎に紹介しています。
もともと同じ佐藤利明氏の著書として「映画大全」「テレビ大全」を発売していたこともあり、今回の作品では主に音楽という視点から描いています。映画やテレビの活動についても紹介していますが、音楽的な視点からの紹介がメイン。もっとも、クレイジーの活動については総括的に記述しているため、この本を読めば、彼らの活動についての概ねはわかるような内容になっていました。
「大全」というタイトルなだけに彼らの活動を網羅的に描いた資料的内容も大きな魅力なのですが、やはり読んでいて一番楽しめたのは彼らの結成に至るまでの歴史や全盛期に至るまでの歩みを描いた第1章から第3章。クレイジーキャッツのメンバーが揃う直前は、メンバーそれぞれ様々なバンドに加入しては脱退して、という流れを繰り返しており、若干頭の中がごっちゃになりそうに思いつつ、クレイジーに関わらずメンバーの出入りが激しいというのはこの時代の傾向なのでしょうか。
そして特に読んでいてワクワクしたのが第2章の後半から第3章にかけて。まさに日本は高度経済成長期まっただ中。国全体に勢いがあり、また新しいものにどんどん挑戦しようという気概を、クレイジーキャッツをめぐる活動からも強く感じることが出来ました。また、登場してくる人物が、クレイジーのメンバーを含めてみんな若いこと若いこと。みんな20代、30代の人たちばかりが時代をつくってきたことがよくわかります。それだけ国全体が若かったんでしょうし、若さゆえの勢いがあった時代なんでしょうね。
いままでさほど興味がなかったのですが、この本を読んだことをきっかけに俄然、クレイジーキャッツに興味が沸いてきました。幸い、今の時代、You Tubeに彼らの全盛期の映像もアップされており、簡単に見ることが出来る時代。この本を読んだ後、You Tubeの動画もいろいろと見まくっています。今となっては彼らのコントはかなり素朴な笑いといった印象を覚えるのですが、その一流の音楽の腕前もあって、非常にスタイリッシュなものを感じました。彼らみたいに音楽の腕は一流でコントも出来るようなグループ、出てきてもいいと思うんだけど、いないなぁ・・・。
あとこの本を見て感じたのですが、彼らって昭和30年代に絶頂期を迎えつつ、ただその人気の絶頂はせいぜい10年くらいだったんですね。いや、それって彼らがどうこうというよりは、それだけ芸能界の新陳代謝が激しかったってことなんですよね。振り返って今の時代、音楽シーンもお笑いも、10年単位でトップを取っている人がほとんど変わっていないように思います。80年代にシーンを席巻したはずの秋元康がいまだに「トッププロデューサー」として活躍しちゃっている自体が、正直言って、テレビに元気がなく、今の芸能界がつまらない最大の要因のようにも思うのですが・・・。いろいろな意味で昭和30年代がよかったとは一概に言えないのですが、ただ芸能界の勢いは間違いなくあの時代の方があったよなぁ、ということを強く感じてしまいます。
またもうひとつこの本を見て感じたのですが、クレイジーのメンバーもそうなのですが、この本に紹介されている人たちのあまりにも多くが2000年代に鬼籍に入られていることに気が付きます。多くの方が1930年代生まれでちょうど70代になった頃、ということなのでしょうが、「昭和は遠くなりにけり」ということを強く感じてしまいました。
最後に、ちょっと残念だった点も。本書、文章中に注釈がついています。注釈の内容についてはページのすぐ下に記載されており参照しやすいのですが、注釈に番号が振っていないため、どの注釈がどの※印に対応しているのかが非常にわかりにくく困りました。この点は正直、もうちょっと考えてほしかったのですが・・・。
そんな訳で、いろいろと読み応えのあった1冊。上にも書いたのですが、いままであまり興味のなかったクレージーキャッツでしたが、一気に興味がわいてきました。これを機に、CDとかも聴いてみたいですね。昭和高度経済成長期の勢いが伝わってくるような1冊でした。
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