アマゾンの奥地から聴こえてくるような(?)
Title:Debut
Musician:ASA-CHANG エマーソン北村
元スカパラのリーダーであり、現在はASA-CHANG&巡礼としての活動やパーカッショニストとして活躍しているASA-CHANGと、JAGATARA、MUTE BEATなどでも活躍したキーボーディスト、エマーソン北村。どちらも日本のミュージックシーンを表から裏から支えてきたいわば重鎮とも言えるミュージシャンなのですが、その2人が手を組み、アルバムをリリースしました。
「Debut」とある意味そのままなタイトルがつけられた本作。どちらもベテランのミュージシャンである彼らのアルバムにこういうタイトルがつけられる点にユーモラスを感じるのですが、それと同時にこの1作だけではなく、今後もコンスタントに活動を続けていこうという決意も感じさせます。
今回のアルバムは全7曲25分の長さのミニアルバム。7曲中6曲はカバーとなっています。そのカバー6曲も有名なスタンダードナンバーのカバーばかりで、タイトルを見ただけでメロディーが思い浮かばなくても実際に聴いてみると「ああ、あの曲」と思う方がほとんどではないかと思います。そういう意味では「ベタな選曲」と言えるかもしれません。
そしてこのカバーが実にユニーク。ASA-CHANGは今回、トランペットでの参加が多く、彼のトランペットがメインのフレーズを奏でている曲が多いのですが、力強い演奏というよりは脱力感のある演奏となっており、どこかユーモラス。またエマーソン北村のキーボードやリズムボックスも、チープな感触を残すようなサウンドと演奏となっており、これもユーモラスを感じさせます。
特にポール・モーリアなどの演奏でも知られるイージーリスニングの代表作「恋は水色」のカバーでは、トランペットとキーボードの音色が脱力感と湿っぽい雰囲気を楽曲に与え、さらにバックに流れるASA-CHANGのタブラの音色が独特のトライバルな雰囲気を楽曲に加えています。イージーリスニングらしい、爽やかで無味透明だった原曲に熱帯雨林のようなねっちりとした独特の空気感を加味しており、そこに楽曲がもともと持っていたインパクトあるフレーズが流れることにより、癖の強い独特な雰囲気を持つ楽曲に変わっていました。
この曲に限らず今回のカバーではどの曲も、どこか湿度の高いねちっとした雰囲気のカバーが多いのが特徴的。特にトライバルな雰囲気を醸し出すリズムやサウンドも多いのですが、もともと活動履歴からもわかるようにASA-CHANGもエマーソン北村もレゲエ、ラテン方面の音楽を奏でるミュージシャン。そのため、今回も曲もレゲエやラテン音楽の要素を強く感じさせ、いわばアマゾンの奥地に流れてくるようなちょっと怪しげな音楽、といったイメージを今回のアルバムからも彷彿としました。
最後の7曲目はレゲエミュージシャンのチエコ・ビューティーをボーカルに迎えた唯一のオリジナル曲「ミリバールの歌」。ちょっとムーディーな雰囲気のある歌モノのポップチューン。オリジナル曲がポップで聴きやすい歌モノというのはちょっと意外な印象もあるのですが、だた全体的に暑さを感じさせるアルバムの中、ラストは爽やかな雰囲気を残しつつアルバムは幕を下ろしました。
とにかくその熱帯雨林のような雰囲気と脱力感を覚えるサウンドが魅力的で強いインパクトを感じさせる傑作アルバム。これがデビュー作ながらもASA-CHANGとエマーソン北村の相性の良さも感じさせます。アルバムタイトルがタイトルなだけにこれからもコンスタントなアルバムリリースも期待できそう。これからがとても楽しみです。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2018年」カテゴリの記事
- 前作同様、豪華コラボが話題に(2019.01.26)
- その「名前」を聞く機会は多いのですが・・・(2019.01.25)
- 「ラスボス」による初のベスト盤(2018.12.24)
- 民謡歌手としての原点回帰(2018.12.23)
- 相変わらずの暑さ(2018.12.22)
コメント