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2018年9月24日 (月)

いまなお圧倒的な個性を感じる

日本のミュージックシーンにおいて残念ながら早世したミュージシャンが、その後も長く支持され続けるケースは少なくありません。典型的なのが尾崎豊とhideでしょう。尾崎豊はいまだに熱心な信者が少なくありませんし、hideは彼が所属していたバンドX JAPANが活動中ということもあって、若い世代でファンになる方も少なくありません。

残念ながら大ブレイクしたバンドではないため「音楽ファン」のレベルに留まるのですが、Fishmansのボーカル、佐藤伸治もそんな一人でしょう。90年代に活躍し、レゲエ、ダブの要素を取り入れた独特の浮遊感あるサウンドが非常に高い評価を得たFishmans。そのボーカリストでありほぼ全ての曲の作詞作曲を手掛けた佐藤伸治は1999年にわずか33歳という若さでこの世を去りました。

それから約20年。Fishmansとしての新たな音源がリリースされることはありませんが、残されたメンバー茂木欣一を中心として、Fishmansはライブ活動を中心として今でも活動を続けています。そして今回、彼らのベストアルバムが2作同時にリリースされました。

Title:BLUE SUMMER~Selected Tracks 1991-1995~
Musician:Fishmans

まずこちらは初期ベスト。タイトル通り、1991年から1995年にリリースされたポニーキャニオン時代の作品を収録されています。大きな特徴はリリース形態がレコードと配信のみという点。このスタイルは最近、時々お目にかかりますが、特に今回は選曲を担当した茂木欣一によると「レコードで聴いてほしい曲」をセレクトしたとか。Fishmansは2005年にもベスト盤「空中」「宇宙」をリリースしていますが、それとはまた異なった視点からのセレクトとなっているそうです。

Title:Night Cruising 2018
Musician:Fishmans

そしてこちらはポリドール時代の曲を集めた後期ベスト。こちらはアナログ、配信の他にCDでもリリースされています。

今回、この2作品で久々にFishmansの曲を聴いたのですが、佐藤伸治の逝去から20年経った今でもその独特の個性が全く失われていない点に大きな驚きを感じました。上でも書いた通り、Fishmansの音楽の大きな特徴はレゲエやダブなどの要素を大胆に取り入れた音楽性。特に、夢の中の世界で空を飛んでいるかのような、浮遊感あふれるサウンドは佐藤伸治のボーカルによる部分も大きく、いまなお、彼らのスタイルを引き継げるようなバンドはいません。Fishmansはあれだけ高い評価を得ながらも、いまだに「トリビュートアルバム」という類のものがリリースされていませんが、あまりにサウンドが独自すぎて、誰にも彼らの曲を上手くカバーすることが出来ないからではないか、とすら思っています。

特に今聴くとすさまじいのが、後期ベストの「Night Cruising 2018」の方。タイトルチューン「ナイトクルージング」も浮遊感あふれる横ノリのリズムの中でサイケなギターサウンドが展開され強いインパクトを与えますし、続く「I DUB FISH」もタイトル通り、これでもかというほどリバースのかけられたサウンドがリスナーをFishmansという底なし沼の底へ底へと引きずりこむような奇妙な感覚に陥ります。

ラストにはエンジニアのzAkによる「ナイトクルージング」のリミックスも収録。リズムを強調したエレクトロトラックが今風のアレンジなのですが、そのサウンドにより彼ららしい浮遊感はしっかりと強調されており、確かに今、佐藤伸治が生きていたらこんな音を作り出すのかな、という感触を持てるリミックスに仕上がっていました。

いまから聴くと、ポリドール時代のFishmansはこのスタイルでのひとつの完成形に至りつつあったのかな、という印象も受けます。ただ、それだけに佐藤伸治の早世がなければ、さらにその向こうのFishmansの形が聴けたのに・・・といまさらながら残念に感じてしまいました。

一方、ポニーキャニオン時代の曲を集めた「BLUE SUMMER」は後期ベストと比べるとかなりメロディアスでポップという印象を受けます。とはいっても、この時期の曲も今聴いても圧倒的な個性を感じられ、魅力は十分。特に「静かな朝」のようなピコピコサウンドだったり、「感謝(驚)」のようなファンクだったり、サウンドが完成しつつあった後期よりもサウンド的にはバラエティーに富んでいます。

彼らのサウンドはいまでも全く古さを感じさせないどころか、いまなお圧倒的な個性を感じさせますし、リアルタイムを知らない若い音楽ファンにこそ聴いてほしいアルバム。もちろん、私のようなアラフォー世代のファンにとってもあらためてFishmansというバンドの偉大さを感じさせてくれるベストアルバムでした。

評価:★★★★★

Fishmans 過去の作品
LONG SEASON '96~7 96.12.26 赤坂BLITZ


Gracia/浜田麻里

なんと22年ぶりのベスト10ヒットを記録し、人気健在をアピールしたへヴィメタ姉ちゃん浜田麻里の新作。ただサウンド的には90年代あたりと全く変わらないスタイル。いくら様式美が特徴的なヘヴィーメタルとはいえ、昨今のミュージシャンはそれなりに今時の音を取り入れている中、逆に潔さすら感じてしまうのですが・・・。そういう意味では旧来のファンにとっては安心して聴ける内容。良くも悪くも大いなるマンネリといった感じでした。

評価:★★★★

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