HIP HOPリスナーに限定しない「聴きやすさ」を感じる傑作
Title:?
Musician:XXXTENTACION
今年6月、フロリダ州南部のディアフィールド・ビーチにて強盗に襲われ、わずか20歳という若さで不遇の死を遂げたラッパー、XXXTENTACION。デビューアルバム「17」はいきなり全米チャート2位を記録。かのケンドリック・ラマーもTwitter上で絶賛するなど大きな話題となり、今年3月にリリースされた同作はビルボードチャートでついに1位を記録するなど、さらに大きくブレイク。さあこれから、という矢先の突然の死はシーンに大きな衝撃を与えました。
ただ残念ながら日本においてはさほど知名度も高くなく、ネット上にあるXXXTENTACIONに関する記事もほとんどが強盗事件を受けてかかれたものばかり。もっともかく言う私も今回の事件を受けて話題となりはじめて彼のことを知っただけに偉そうなことは言えませんが(^^;;どちからというとその話題性から聴いてみたアルバムだったので正直大きな期待はしていなかったのですが、聴いてみるとこれが予想外に「聴きやすい」素晴らしい傑作アルバムになっていました。
まずアルバム全体を貫く大きな特徴としては憂いを帯びた作風の曲が多いという点があげられます。もともと彼のラップには孤独感や厭世観を表現した作品が多いらしく、それがサウンドにも強く反映しています。残念ながらラップの内容自体については詳しくはわからないのですが、そんな方向性は歌詞の世界が詳しくわからなくても、そのサウンドから確実に伝わってくるようです。そして、非英語圏のリスナーにとってもサウンドからしっかりとその主張が伝わってくるという点が、アルバムの聴きやすさのひとつの要因になっているように感じます。
また、今回のアルバム、全18曲入りというボリュームながらも全体の長さはわずか38分という短さ。どの曲も1、2分程度の長さで次々と曲が展開していきます。この次から次へと展開するというアルバムの構成もまた、アルバムの聴きやすさの大きな要素となっています。
そしてジャンル的にはHIP HOPのアルバムなのですが、歌モノの曲が多く収められています。1曲目「ALONE,PART 3」からアコギの音色からスタートし哀愁感たっぷりに歌われる歌モノのナンバーからスタートしますが、続く「Moonlight」も一応はボーカルはラップ風ですし、サウンドもトラップ風ですが、そのラップはまるで歌われているかのようなメロディアスなもの。「Changes」みたいにピアノをバックにソウルフルに歌われるような完全にR&Bのナンバーなどもあったりして、アルバム全体としてラップというよりもメロディーを聴かせる曲が多いのが特徴的。そのためHIP HOPを普段聴かないような方でも聴きやすさを感じるアルバムだったように思います。
さらにサウンド的にもバリエーションを感じさせます。前述の通り、アコースティックなサウンドを取り入れていたり、今風のトラップの要素を入れていたりするのも特徴的ですが、特に特徴的なのはロックからの影響。「NUMB」などダイナミックなサウンドと哀愁感あるメロの組み合わせで、ちょっとベタさも感じるのですが、これだけ聴くと、どこかのオルタナ系バンドの曲と思われても不思議ではありません。「Pain=BESTFRIEND」もギターサウンドをメインとしたロックな歌モノでサビではシャウトまで登場。「schizophrenia」もハードコア風のナンバーとなっており、ロックリスナーにとっても聴きやすいアルバムに仕上がっていました。
そんな感じでアルバム全体としてバラエティーがあり、いい意味でHIP HOPリスナーに限定しない聴きやすさを感じるアルバム。それだけにアメリカで多くのリスナーに支持されていたのが納得感がありますし、またわずか20歳という突然の訃報はあらためて残念に感じてしまいます。残念ながら遺作となってしまった本作ですが、いまからでも是非チェックしてほしい1枚。普段HIP HOPを聴かない方でも十分お勧めできる傑作です。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2018年」カテゴリの記事
- 恒例のブルースカレンダー(2018.12.29)
- 大物然としたステージセットだけども(2018.12.28)
- オリジナルメンバー3人が顔をそろえる(2018.12.25)
- まさかの第2弾(2018.12.21)
- ディスコブームそのままに(2018.12.17)
コメント