cero流ダンスミュージック
Title:POLY LIFE MULTI SOUL
Musician:cero
ここ最近のシティポップを巡るある種の「ブーム」ともいえる人気の中、「ブーム」に留まらない確固たる個性を確立しつつ、シーンを推進しているのが彼ら、cero。前作「Obscure Ride」はなんとオリコンチャートでベスト10入りを記録するなどヒットを記録しましたが、本作はなんと最高位4位を記録。前作同様、決して「わかりやすいポップなアルバム」といった感じではないだけにこの人気には驚かされます。
特に前作「Obscure Ride」は「今の時代のブラックミュージックのアルバム」という印象を受けたのですが、今回のアルバムはそこからさらに推し進めて、「今の時代のアルバム」といった表現で単純にカテゴライズされないような作品に仕上がっていたように思います。
前作同様、ジャズやHIP HOPの要素を色濃く取り入れつつも、音楽性の多彩さは前作を上回るように感じます。例えば「魚の骨 鳥の羽根」ではトライバルなサウンドを取り入れていますし、「溯行」はブラジル音楽の雰囲気を感じます。「夜になると鮭は」ではミニマルなサウンドを取り入れていますし、「TWNKL」ではダビーな要素を入れてきています。
さらに今回、初回盤に付属してきた同アルバムのインストを聴いたのですが、こちらのアルバムも実に素晴らしかった!この手のインストアルバムはよくありがちなのですが、正直言うと、アルバムの「補助的」な出来になっているのがほとんど。あくまでも「歌」が入ったアルバムが「主」である、という作品ばかりなのですが、今回のアルバムに関してはインスト版のみで十分作品として通用する出来栄えになっていました。
それだけ彼らのサウンドのクオリティーが高いということでしょうし、さらに特に今回のアルバム、彼らがそのサウンドに強い意気込みを持って作り上げていたということなのでしょう。ただし若干気になるのはそれだけちょっと「歌」の力は弱かったのかな、という点。「Double Exposure」のようなメロウな歌を聴かせる曲もあったのですが、正直なところメロディーラインのインパクトは少々薄いように感じます。
もっともそれは今回のアルバムのマイナス点、というよりもおそらく彼らが「歌モノ」のアルバムを志向したわけではなく、「歌」もあくまでもほかのサウンドと同列に位置しているようなアルバムを作り上げた、ということを意味するだけなのでしょう。もちろん、メロディーのインパクトは弱くても楽曲自体は十分なインパクトを持っていますし、また、明確な「歌モノ」でないアルバムがここまでヒットを記録するあたりにも驚きを感じてしまいます。
また序盤の「魚の骨 鳥の羽根」だけではなく、後半の「レテの子」もトライバルなリズムを軽快に聴かせてくれますし、「Waters」も彼ららしい独特のグルーヴ感を聴かせるダンスチューン。最後のタイトルチューン「Poly Life Multi Soul」も軽快でダンサナブルなナンバーになっていますし、全体的にcero流のダンスミュージックが随所に聴かれるアルバムに仕上がっています。もちろんこのダンスミュージックもわかりやすい四つ打ちのリズムではなく彼ららしい黒いグルーヴ感がとても気持ち良く楽しむことが出来る傑作揃いでした。
そんな訳で、現在のシティポップシーンを牽引しつつも、しっかりとceroとしての独自の世界観を前作以上により発揮できた傑作アルバムに仕上がっていました。若干取っつきにくい部分がありましたが、聴けば聴くほどその独自のグルーヴにはまってしまう傑作アルバム。インスト版も傑作でしたのでこちらも是非。
評価:★★★★★
cero 過去の作品
My Lost City
Obscure Ride
ほかに聴いたアルバム
WHITE/清水翔太
前々作「PROUD」以来、R&BやHIP HOP路線に回帰した清水翔太ですが、今回のアルバムも基本的にはその路線を踏襲。エレクトロサウンドを大幅に取り入れたHIP HOP的要素も強い今時なサウンド構成となっています。決して悪くはないのですが、前作同様、いまひとつインパクトが弱く、とりあえず今時のサウンドを入れてみました、的な無難な内容になっていた印象も。いいアルバムだとは思いますが、ちょっと物足りなさも感じてしまいました。
評価:★★★★
清水翔太 過去の作品
Umbrella
Journey
COLORS
NATURALLY
MELODY
ENCORE
ALL SINGLES BEST
PROUD
FLY
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コメント
深みも前より増していた、いい意味での安定さを感じられた良作でした。
投稿: ひかりびっと | 2018年8月21日 (火) 07時23分
>ひかりびっとさん
本当に良いアルバムでした。
投稿: ゆういち | 2018年8月30日 (木) 22時42分