三浦大知しか歌えない傑作
Title:球体
Musician:三浦大知
もともとFolder5としてのデビュー当初からボーカリストとしての力量に高い評価を受けてきた三浦大知。ここ最近、ようやくその評価がお茶の間レベルにも浸透していき、アルバムも大ヒットを記録するようになりました。
もっともそんな中、ヒットしたここ最近のアルバムは正直言って内容的にはいまひとつ。流行りのEDMのサウンドをただ取り入れただけの平凡なポップスが目立ち、残念ながら三浦大知の実力を全く生かしていないと思われるようなアルバムが続いていました。
しかし、そんな中、ベスト盤を挟んでリリースされた最新アルバムがすごいことになっていました。今回のアルバム、タイトルからして漢字2文字といままでの彼のアルバムタイトルと大きく異なりますが、楽曲のタイトルもすべて日本語。また楽曲の中にも英語はつかわれておらず、しっかりと日本語でその言葉を紡ぐアルバムとなっています。
また今回プロデューサーとして安室奈美恵へのプロデュースワークなどでも評判のNao'ymtを全曲で起用。結果としてアルバム全体として統一感のある作品に仕上がっています。
楽曲はまずアンビエント色の強い「序詞」からスタート。いつものアルバムとは全く異なるタイプの曲からのスタートにまず驚かされます。続く「円環」はEDM風のナンバーとなっており、比較的いままでの三浦大知のイメージにもマッチする作風になっているのですが、「閾」はなんとドリーミーなエレクトロインストチューン。インターリュード的な立ち位置とはいえ、かなり挑戦的な作風に驚かされます。
アルバムの音楽性についていえば、ネオソウルや最近のアンビエントR&B、あるいはEDMというジャンルを取り込んだ作風となっており、最近のシーンの流れにマッチした作風と言えるでしょう。また彼のハイトーンボイスを生かした楽曲が多く、しっかりと彼のボーカリストとしての実力を反映されたアルバムになっています。ただその上で本作の大きな特徴となっているのは「和」の要素を多く取り入れた日本だからこそ作りえた日本流のR&Bに仕上がっていたという点でした。
例えば「淡水魚」。川の中でゆれるようなサウンドが特徴的ですが、幻想的なその音色はどこか和風。満たされない現実にがまんしている現状を淡水魚に例えた歌詞も詩的でどこか日本的なものを感じます。「飛行船」も伸びやかでどこか哀愁感あるメロディーに和風な空気を感じますし、「綴化」も琴を模したようなストリングスの音色に憂いを帯びたメロディーが和風なものを感じます。
和風といっても単純に和楽器を取り入れたり、民謡的なメロディーを取り入れているわけではありません。ただ英語をつかわない日本語のみの歌詞や、日本人の琴線に触れるようなメロディーラインやサウンドで「和」を実に見事に表現しており、これにまた三浦大知の歌声がピッタリとマッチしています。
またアルバム全体としても彼の歌をしっかりと聴かせるような曲が多く、特に終盤ではその傾向が強くみられます。「世界」で明るいサウンドの中、ゆっくりと希望を感じる歌を聴かせてくれたかと思えば、続く「朝が来るのではなく、夜が明けるだけ」もピアノで聴かせるナンバーなのですが、過去を悔いるような悲しい歌詞を静かに悲しく歌うナンバー。三浦大知のボーカリストとしての表現力が光ります。
そしてラストの「おかえり」は新しい始まりを感じさせる希望に満ちたストリングスとピアノの音色が明るいインストナンバー。ラストをあえてインストで締めくくるというのもまた、このアルバムのこだわりでしょうか。ただ非常に清らかな気持ちになるアルバムは幕を閉じます。
このように今時のR&Bシーンの音をしっかりと取り入れつつ、三浦大知だからこそ歌える楽曲のみがおさめられている傑作アルバムに仕上がっていました。全体的にミディアムテンポの聴かせるナンバーが多く、派手な作風はありませんが、聴けば聴くほどその魅力が伝わってくる奥行のあるアルバムになっていたと思います。正直、ここまでの傑作アルバムをつくってくるとは驚きの限り。彼にとっても間違いなく最高傑作ですし、また今年の年間ベストレベルのアルバムだと思います。このアルバムで確実に壁をひとつ乗り越えてきた彼。これからの活躍が楽しみです。
評価:★★★★★
三浦大知 過去の作品
D.M.
The Entertainer
FEVER
HIT
BEST
ほかに聴いたアルバム
ツンxデレ/神聖かまってちゃん
すぐ解散しそうな危うさを抱えつつも、なんとついに結成10周年を迎えてしまった神聖かまってちゃんのニューアルバム。確かにここ最近ではデビュー当初のようなエキセントリックな雰囲気は少々薄れ、バンドとして話題に上ることも少なくなってしまった感じもします。ただ楽曲的にはいい意味で安定感を増してきた感じ。前作「幼さを入院させて」でも歌詞とメロディーラインをしっかりと前に押し出した作品になっていましたが、今回のアルバムもインパクトあるメロディーラインと歌詞の世界をしっかりと前に押し出して、いい意味で「神聖かまってちゃん」として求められることを体現化したアルバムになっていました。特に今回のアルバムは夏をテーマとして郷愁感ある作風の曲が多く、「ラムネボーイ」や「26才の夏休み」のようなどこか郷愁感ある風景を描きつつ、その中でどこか孤独を抱えた主人公の心境を描いた歌詞が絶品。歌詞の面でもメロディーラインの面でもさらに深化を感じさせるアルバムになっています。
評価:★★★★★
神聖かまってちゃん 過去の作品
友だちを殺してまで。
つまんね
みんな死ね
8月32日へ
楽しいね
英雄syndrome
ベストかまってちゃん
夏.インストール
幼さを入院させて
永遠の果てに~セルフカヴァー・ベストI~/徳永英明
徳永英明のセルフカヴァーアルバム。彼の過去のヒット曲「最後の言い訳」や「壊れかけのRadio」などがリアレンジされセルフカバーされています。リアレンジされた結果、よりジャジーになったりアコースティックな色合いが濃くなったりした作品も多くなっていますが、ただ全体としては原曲のイメージを大きく変えたカバーはないため、ベスト盤的な感覚でも楽しめるアルバム。なによりも60歳近くなった彼が、20代、30代の頃の曲をカバーしているわけですが、高音域にほとんど衰えがない点に驚かされます。
もっとも懐古的な側面が強く出ているアルバムである点は否定できず、良くも悪くも昔のファンに向けてリリースされた保守的なアルバムといった感じになっています。まあ、原曲に沿ったアレンジといい、基本的に昔のファンも安心して聴けるアルバムだとは思うのですが、あくまでも後ろ向きな企画のような印象も。サブタイトルどおり、2作目3作目もリリースされそうですが・・・。
評価:★★★★
徳永英明 過去の作品
SINGLES BEST
SINGLES B-Side BEST
WE ALL
VOCALIST4
VOCALIST&BALLADE BEST
VOCALIST VINTAGE
STATEMENT
VOCALIST 6
ALL TIME BEST Presence
Concert Tour 2015 VOCALIST&SONGS 3 FINAL at ORIX THEATER
ALL TIME BEST VOCALIST
BATON
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コメント
ゆういちさん、こんばんは。
徳永英明は2003年にもセルフカヴァーアルバム“セルフカヴァー・ベスト~カガヤキナガラ~”を出していますので、初めてのセルフカヴァーではないですよ。
あと、まさか三浦大知が年間ベストレベルの傑作をリリースしたとは正直驚きです。ほとんどプロモーションをせず、シングルも切らずという売り方がミスチルの“SENSE”みたいだなとは思っていたのですが、まさかそれが傑作とは・・・売れることを意識しなかったのが吉と出たんでしょうか?
投稿: 通りすがりの読者 | 2018年8月28日 (火) 00時16分
>通りすがりの読者さん
ご指摘ありがとうございます。修正させていただきました。
また三浦大知、いや、これは本当に傑作です。彼は歌は上手いもののアルバムは・・・といった感じだったのですが、そのイメージが一気にかわったアーティスティックな作品です。よろしければ、是非。
投稿: ゆういち | 2018年8月30日 (木) 22時46分
三浦大知の「球体」は商業性と芸術性が見事に両立した大傑作でしたね。
投稿: ひかりびっと | 2018年10月14日 (日) 09時30分
>ひかりびっとさん
ご感想ありがとうございました。
投稿: ゆういち | 2018年11月22日 (木) 23時46分