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2018年8月17日 (金)

またもや新たな作風で

Title:ガラパゴス
Musician:水曜日のカンパネラ

ほぼ毎年のようにアルバムをリリースし、なおかつ傑作を連発している水曜日のカンパネラ。今回も前作「SUPERMAN」からわずか1年4ヶ月という短さでのニューアルバムのリリースとなりました。

また彼女たちについて驚かさせているのは単純なリリース間隔の短さのみではありません。なによりも驚かされるのはこれだけ頻繁にアルバムをリリースしながらも、アルバム毎にそのスタイルを変化させているという点でしょう。特にここ数作はエレクトロサウンドを作品毎に進化させており、トラックメイカーのケンモチヒデフミの意欲的な挑戦が目立ちます。

そして今回のアルバムでも当たり前のように前作「SUPERMAN」からそのスタイルを大きく変化させていました。本作では前作以前と同様、エレクトロなサウンドにコムアイのラップがのるというスタイルには変化はありませんが、サウンド的にはどこかエスニックな雰囲気を漂わせつつ、ドリーミーに聴かせるような楽曲が多く収録されています。PVも作成された「かぐや姫」では、そのタイトルであるかぐや姫のイメージそのままに月世界を彷彿とさせるドリーミーな空気感が魅力的。続く「南方熊楠」もドリーミーなシンセのサウンドをバックに疾走感あるパーカッションのリズムが大きなインパクトに。コムアイのボーカルもサウンドの一部となって幻想的な雰囲気を醸し出すのに一役買っています。

その後も「マトリョーシカ」もミディアムテンポで幻想的なサウンドが大きな魅力。この曲ではMoodoidというフランスのバンドとコラボしており、そのため楽曲の中にフランス語の歌詞も登場。フランス語の歌詞がまた独特な雰囲気を醸し出しているほか、ラストにはコムアイのボーカルを逆再生で入れており、不思議な感覚をより強調しています。

今回のアルバムはそんな感じに、全体的には幻想的な雰囲気のサウンドが魅力的。プラス、どこかエキゾチックな空気感を感じる楽曲が目立ちます。ユーモラスな歌詞が目立った前作「SUPERMAN」から一転して今回のアルバムはコムアイのボーカルが比較的後ろに下がり、サウンドを主体としたナンバーが並んでいました。

そんなアルバムですがちょっと雰囲気が異なるのがラスト2曲。「愛しいものたちへ」はオオルタイチプロデュース+作詞作曲によるナンバーで、アコースティックなサウンドでコムアイの伸びやかなボーカルで聴かせる歌モノのナンバー。郷愁感も覚えるサウンドになっており、水カンとしてもかなり異色的な作風になっています。ラストの「キイロのうた」も映画「猫は抱くもの」の劇中歌なのですが、こちらはピアノの音色と幻想的なシンセの音色をバックに美しく聴かせるコムアイのボーカルが印象的な歌モノ。ただこちらはコムアイやケンモチヒデフミが作詞作曲を行っているだけに、基本的には今回のアルバムのコンセプトにもマッチしたドリーミーな色合いの濃い作風になっていました。

今回もまた大きく作風を変化してきた彼女たちですが、もちろん楽曲自体は相変わらずの傑作揃い。挑戦的な作風は相変わらずですし、コムアイのハイトーンボイスがアルバム全体を貫かれているため、ラスト2曲についても作風が微妙に異なるのですが、アルバムの中で違和感はありません。これだけアルバムを頻発していながらも勢いは全く衰えておらず、その底知れぬ才能にあらためて驚かされる傑作でした。

ただ今回のアルバムで気になった点がひとつ。今回、CDで購入したのですが、歌詞カードもついておらず、「ガラパゴス」というタイトルがプリントアウトされた赤い透明のプラスチックケースに、コムアイのプリクラのような写真が貼ってあるだけ・・・。おそらく完全にCDで売る気はないんだろうなぁ・・・。さすがにそれなりのお金を出すんだから、せめて歌詞カードくらい、と思ってしまうのですが・・・おそらく近いうちにCDをリリースせずにLPとダウンロードのみという販売スタイルに移行しそうな雰囲気を感じました。

評価:★★★★★

さて、そんな彼女たちが音楽を担当した映画のサントラ盤が配信限定でリリースされました。

Title:猫は抱くもの(オリジナル・サウンドトラック)
Musician:水曜日のカンパネラ

映画サントラとはいえ、水曜日のカンパネラが楽曲を手掛けたんだからさぞかし・・・と期待したのですが、残念ながら水カンらしさを感じるような作品は少なく、純粋に映画の雰囲気に沿ったBGM的な作品が並んでいました。ただ、ラストに収録された「マヨイガのうた」は「ガラパゴス」にも収録されておらず、このアルバムだけで聴けるナンバー。こちらは水カンらしいエレクトロアレンジの軽快なトラックにコムアイのハイトーンのボーカルがのるナンバー。幻想的な作風はアルバム「ガラパゴス」の方向性にもマッチしており、アルバムに収録されてもよかったのに・・・とも思うのですが、この1曲を聴くだけでも損はないかも、と思えるだけの名曲。ただ、配信サイトならこの曲だけ聴くことが出来るので、わざわざアルバム単位で購入したり聴いたりする価値は、映画を見た方以外は低いかも。

評価:★★★

水曜日のカンパネラ 過去の作品
私を鬼ヶ島へ連れてって
ジパング
UMA
SUPERMAN


ほかに聴いたアルバム

THE BLUE HEARTS TRIBUTE HIPHOP ALBUM「終わらない歌」

おそらくブルーハーツというミュージシャンは、もっともトリビュートアルバムがリリースされているミュージシャンではないでしょうか。以前から様々なミュージシャンが参加したトリビュートアルバムが数多くリリースされています。ただ、その多くが-特に最近のアルバムになればなるほど-やっつけ的な内容が多く、正直言ってうんざりするほど今一つな出来のトリビュートアルバムが少なくありません。

そんな中リリースされた今回のトリビュートアルバム。HIP HOPのミュージシャンが参加したトリビュートアルバム。HIP HOPとブルハの結びつきがいまひとつ不明なので不安感も覚えるトリビュートアルバムだったのですが、これが予想外に素晴らしい出来のアルバムになっていました。PUNPEEややけのはら、田我流など、今のHIP HOPシーンで注目をあつめるミュージシャンが参加した本作。カバーというよりも原曲をサンプリングしたHIP HOPの「新曲」的な出来になっているのですが、原曲の魅力はしっかり残しつつ、HIP HOPとして再構築しており、それぞれのミュージシャンの曲にしっかりと仕上がっています。今時のHIP HOPシーンの流れもしっかりと反映されており、そういう意味でもブルーハーツの音楽と今の日本のHIP HOPがガッツリと四つを組んだトリビュートアルバムに。参加ミュージシャンのファンなら文句なしに聴いてほしい1枚。ブルハのファンは・・・HIP HOPが苦手という方も多そうですが、これが今のHIP HOPの現状ということを知ったうえで、是非とも聴いてほしいトリビュートアルバムです。

評価:★★★★★

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