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2018年7月21日 (土)

URC、ベルベットレコードのサウンドが今、ここに

Title:生活
Musician:半田健人

もともとは俳優として活躍し、「仮面ライダー」への出演で大きな話題となった半田健人。ただ最近では、歌謡曲に対する深い造詣が大きな評判となり、ミュージシャンとしてリリースしたアルバムも話題に。ここ最近ではむしろ俳優としてよりもミュージシャンとしての評判を良く聞くようになりました。

彼のアルバムは前作「HOMEMADE」ではじめて聴いたのですが、彼の音楽、特に歌謡曲に対する造詣の深さを強く感じるアルバムになっていました。ただ、内容的には歌謡曲のパロディーそのまま。半田健人のミュージシャンとしての目新しさはほとんど感じることが出来ず、そういう意味では歌謡曲を模倣したアルバムとしては非常によく出来たアルバムと感じた反面、オリジナリティーという側面で言えば、物足りなさをかなり感じてしまったアルバムになっていました。

ただ今回のアルバムに関しては、ミュージシャンとしてのオリジナリティーというよりも、むしろ彼の音楽的な造詣の深さをより生かせるような方向性を取ってきました。今回のアルバムは明確にURCやベルベットレコードといったレコード会社からリリースされた60年代から70年代のフォークソングのパロディー。そういう意味では前作以上に吹っ切れています。

そして、これが本当によくできています。1曲目「座蒲団」は高田渡のカバーなのですが、朴訥な歌い方はまさに60年代フォークそのもの。「生活」なんかもカントリー調のサウンドにタイトル通り身近な生活を題材とした歌詞もフォークそのもの。歌詞の語尾が「~からで」「~なのです」と語り掛けるように終わる方法も60年代フォークにありがち。おそらくカントリー調のサウンドを含めて高田渡を意識したと思われるのですが、実によく出来た60年代フォークのパロディーになっています。

ほかにも「鼻毛粉砕計画II」もタイトル通り非常にユニークなナンバーなのですが、ただこの手の題材も60年代フォーク風。サウンドもアコギとバイオリンのシンプルなもので完全に四畳半フォークの世界を作り上げています。ラストを飾る「居酒屋」も完全にフォークソング。アコギでしんみりと聴かせるメロディーもさることながら、場末の居酒屋の風景描写も完全にフォークの世界です。

フォークソングだけではなく、例えば「一日」はフォークというよりもむしろニューミュージック風。歌い方を含め、松山千春あたりを彷彿とさせます。「青春挽歌」も同じくピアノでしんみり聴かせるニューミュージックな作品。ここらへんも彼の音楽的な素養の深さを強く感じます。

ある意味、歌謡曲のパロディーという路線を貫いた点は大正解。彼の音楽、特に昔の日本の歌謡曲、フォークソングに対する深い愛情を強く感じますし、また、その知識量にも感心させられます。ただ、若干気になるのは歌詞のインパクトがかなり薄くなっていまっている点。このアルバムでカバーした高田渡でいえば、さすがに「自衛隊に入ろう」みたいな曲は彼のイメージからしても難しいのかもしれませんが、例えば「ブラザー軒」みたいな風景の描写があり物語性があり、そしてその歌詞の背景について考えさせられるような歌詞も残念ながらありません。そのため、フォークソングのパロディーでありながら歌詞という側面では薄味に感じられました。

前作同様、オリジナリティーという点ではかなり薄いですし、2010年代の今だからこそ加えられるような解釈もほとんどありません。ただ、おそらく彼が音楽でやりたいことはそういった「オリジナリティーあふれる新しい音楽」ではなく、こういう昔ながらの音楽を今に伝えるような役目なのでしょう。そういう意味では非常に成功しているアルバムだったと思います。2018年を代表するようなアルバム・・・といった感じではありませんが、彼の音楽に対する愛情がきちんと伝わった1枚でした。

評価:★★★★

半田健人 過去の作品
HOMEMADE


ほかに聴いたアルバム

NOBODY KNOWS/中田裕二

ソロになってからすっかり歌謡曲路線が板についてきた彼。前作「thickness」でもバラエティー豊かなジャンルを取り入れてきましたが、今回はその傾向がさらに顕著に。キャバレーロック風な「マレダロ」、打ち込みのダンスチューン「CITY SLIDE」、ラテン風の「むせかえる夜」にフォーキーな「オールウェイズ」と、特に終盤、様々なバリエーションの曲が並んでいました。全体的には楽曲の安定感も出てきており、安心して聴けるアルバムになっていました。

評価:★★★★

中田裕二 過去の作品
ecole de romantisme
SONG COMPOSITE
BACK TO MELLOW
LIBERTY
thickness

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