これは「事件」だ
Title:MOROHA BEST~十年再録~
Musician:MOROHA
今回紹介するMOROHAというミュージシャンをはじめて知ったのは2010年に実施した夏フェス、サマーソニックへの出場権をかけたコンテスト「出れんの!?サマソニ」で「曽我部恵一賞」を受賞したことがきっかけでした。「MOROHA、本当にヤバい。事件だと思います」と絶賛されたコメントも話題となりましたが、それ以上にこのコンテストの審査方法を強烈に批判したコメントも当時、大きな話題を呼びました。(ちなみにそのコメントはいまでもWeb上で読むことが出来ます→こちら)
その後、東日本大震災の被災者を支援するチャリティーアルバム「Play for JAPAN」に参加した曲も気に入り、ずっと気にしていたミュージシャンだったのですが、いままでアルバムを聴く機会がありませんでした。しかし、そんな彼らが結成10年目にしてメジャーデビュー。そのメジャーデビュー作としてインディーズ時代の曲を再録したベストアルバムがリリースされたので、ようやくこのたび、はじめて彼らのアルバムを聴いてみました。
さてこのMOROHAというミュージシャン、MCのアフロとギターのUKからなる2人組のHIP HOPユニットです。ただHIP HOPユニットといっても彼らの奏でる音楽はおそらく一般的にイメージされるHIP HOPとは少々異なると言えるでしょう。トラックはUKの奏でるアコースティックギターの音色のみ。それも激しくかき鳴らすトラックもあれば、アルペジオで静かに聴かせるトラックもあり、基本的には非常にメロディアスで哀愁感も漂うサウンド。このギターの音色だけでまず胸をうちます。
さらにアフロのラップも非常に独特。まずそのハイトーンボイスが耳につきますが、なによりもインパクトあるのがそのラップのスタイル。日本語をしっかりと一言一言かみしめるようい綴るスタイルは、韻こそ踏んでいますがラップというよりもポエトリーリーディングに近いもの。トラックといいラップのスタイルといい、今のHIP HOPシーンからあきらかに逸脱しているスタイルであり、非常に強いインパクトと個性を持ったスタイルとなっています。
そしてなによりもアフロが書くリリックの強いインパクトが耳に残ります。彼が書く歌詞は非常にリアリティーがあり、胸をうちます。少々説教臭い、あるいは理屈っぽい部分が賛否ありそうな部分はあるものの、非常にリアルな視点からの描写が胸に突き刺さる歌詞が印象的。例えば「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。この中で「勝てなきゃ皆やめてくじゃないか 勝てなきゃ皆消えてくじゃないか」というフレーズが飛び出してきます。ともすれば「勝ち負けなんかじゃないんだよ」的なフレーズがJ-POPシーンでは少なくありませんが、そんな中、あまりにリアルなこの表現にまずは胸が突き刺さります。
またインパクトあるフレーズをきちんと曲の中に配しており、そういう点でも歌詞がきちんと耳に残る曲を書いてきています。例えば「一文銭」のサビ
「諦めに向かう地図を破れば
右も左も後ろさえ前だお前が
人生につけた名前は妥協や惰性じゃなかったはずだ」
(「一文銭」より 作詞 アフロ)
と、かなりメッセージ性の強い歌詞になっていますが、「右も左も後ろさえ前だ」というフレーズが強く印象に残ります。こういう印象に残るようなフレーズが曲の随所に出てきており、聴き終わった後、歌詞がしっかりと胸に残ります。
とにかくアルバムを通じて強烈なメッセージが次々と飛び出す歌詞で、「何かをしながらBGM的にアルバムを聴く」ということが出来ない作品になっており、その歌詞を聴きこんでしまいます。彼らの登場を「事件」と称した曽我部恵一の気持ちも十分すぎるほどわかります。HIP HOPというスタイルですが、HIP HOPを普段聴かないような方にこそ聴いてほしいようなアルバム(逆にHIP HOP的なものを求めると、期待はずれになる危険性も・・・)。本当に胸に突き刺さるすごい曲の連続です。
ただ・・・その上でちょっと気になる部分がひとつ。それは今回のベスト盤を聴くと、歌詞のパターンが主に2つだけであり、聴いていて似たようなテーマ性の歌詞が多かった点が気になりました。そのパターンとは「ミュージシャンとしての決意を歌った歌詞」と「自分を支える愛する人へのメッセージを綴った歌詞」の2つ。おそらくいずれも自らが経験したことを歌詞にしているのでしょうし、だからこそアフロの書く歌詞にはリアリティーがあるのでしょう。しかし結果としてアルバムを聴いていて、若干「似たようなタイプの歌詞が多いな」という印象を受けてしまいましたし、彼らがこれだけ個性とインパクトを持ちながらいまひとつブレイクしない理由って、案外こういう点だったりするのかもしれません。
そういう気になった点はあったものの、このベスト盤を聴く限りにおいてはなによりも歌詞のインパクトの強さがまずは先に立ちます。色々な意味で癖はあるので好き嫌いは別れるかもしれませんが、そういう点を含め、全音楽ファンがまずは聴いてほしいアルバム。おそらく好き嫌いは別としてそのインパクトと個性に異を唱える方はいないでしょう。ひとこと、すごいアルバムです。
評価:★★★★★
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コメント
ゆういちさん、こんばんは。
確かにMOROHAについては、事件という言葉がまさにしっくりきますよね!僕も初めて彼らの曲を聴いた時には”すげぇ奴らが出てきたな・・・”って絶句してしまいました。
ちなみに前のオリアルの“MOROHAⅢ”はspotifyでも聴くことができるので、よかったらこちらもぜひチェックしてみて下さい!
投稿: 通りすがりの読者 | 2018年7月23日 (月) 23時58分
>通りすがりの読者さん
いや、本当にすごい歌詞の楽曲が並んでいて衝撃的ともいえる内容でした。前作も是非聴いてみたいです。もっともっと注目されてもいいと思うんですけどね~。
投稿: ゆういち | 2018年8月30日 (木) 22時40分