« J-POPリスナー層にも訴求しそうなポップス | トップページ | 内省的な作風が印象的 »

2018年7月 9日 (月)

エレクトロサウンドで今風にアップデート

Title:SAFARI
Musician:土岐麻子

途中、ベスト盤のリリースを挟みつつ、約1年4ヶ月ぶりとなった土岐麻子の新作。前のオリジナルアルバム「PINK」ではサウンドプロデューサーとしてトオミヨウを起用し、エレクトロサウンド色が強くなった作風が大きな特徴となっていました。今回のアルバムも基本的にその作風を踏襲し、前作同様にエレクトロサウンドの色合いが濃いアルバムに仕上がっていました。

今回のアルバムはテーマとして「サファリ体験をイメージし、『人の心の内側に息づく“野性”』や『街の裏側に潜む“生”』などを描いた作品」となっているそうで、そんなアルバムを象徴する作品が1曲目の「Black Savanna」。都会をジャングルに模して描きつつ、その中で生きる自分の孤独さを歌ったような内容になっており、まさに「SAFARI」というタイトルに沿ったような歌詞に。都会を「コンクリートジャングル」と表現する方法は少々陳腐ではあるかもしれませんが、まさにそんな「コンクリートジャングル」を描いたようなアルバムになっています。

サウンド的にも、少々トライバルな雰囲気を醸し出しつつ、スペーシーなエレクトロサウンドになっている作品に。このクラブ系の色合いが強いエレクトロサウンドという方向性も今作は非常に顕著になっており、「FANTASY」「Flame」など、強いビートを強調しつつ、リバースを生かしたエレクトロサウンドが印象的な楽曲を作り出しています。

もともと彼女の楽曲にはジャズやソウルの要素が強く含まれているのですが、特に昨今のジャズシーンではクラブ系サウンドに大きく寄ったミュージシャンも少なくありません。そういう意味でも彼女の楽曲は、ある意味、昨今のジャズシーンやシティーポップの動向に寄り添ったような方向性と言えるでしょう。実際にその試みは見事に成功していたように感じますし、しっかりと「今」を感じさせるアルバムに仕上がっていました。

その上に前作以上にバリエーションの多様さが増した本作。大橋トリオと組んだ「CAN'T STOP」ではエレクトロサウンドにアコギのサウンドを加えたアップテンポなポップスになっており、エレクトロとアコースティックが同居したインパクトあるポップソングに仕上がっていましたし、「SUNNY SIDE」もスウィング風のリズムが軽快で楽しいポップスに。アニメ「グラゼニ」のエンディングテーマにも起用された「SHADOW MONSTER」も軽快なディスコポップに仕上がっており、いい意味でタイアップ曲らしい耳に残るポップソングに仕上がっていました。

本編ラストの「名前」はピアノでしんみり聴かせるバラードナンバーで締めくくり。非常にきれいな形でアルバムは締めくくられます。前作「PINK」もなかなかの良作でしたが、今回のアルバムではより土岐麻子とトオミヨウのタッグが上手くいっていたように感じました。個人的には彼女のアルバムのうち、ここ数作の中では一番の傑作アルバム。このコンビ、次回作も続けるのでしょうか。まだまだこれからも楽しみです。

評価:★★★★★

土岐麻子 過去のアルバム
TALKIN'
Summerin'
TOUCH
VOICE~WORKS BEST~
乱反射ガール
BEST! 2004-2011
CASSETTEFUL DAYS~Japanese Pops Covers~
HEARTBREAKIN'
STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~
Bittersweet
PINK
HIGHLIGHT-The Very Best of Toki Asako-


ほかに聴いたアルバム

Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods/小林武史

ご存じミスチルやレミオロメンなどのプロデューサーとして知られる小林武史が、ここ最近、プロデュースを行った作品を収録したオムニバスアルバム。「初CD化が多数」という売り文句ですが、昔と違って「初CD化」といってもはじめて音源としてリリースされるという訳ではなく、配信限定でリリースされた曲がはじめてCDになった、という意味。そういう意味ではレア度は低めながらも、ミスチル桜井やback number、YEN TOWN BAND、クリープハイプ、Salyuなど豪華なメンバーがズラリと参加したアルバムになっています。

ここ最近の小林武史は、ストリングスを多用した大味なアレンジが多く、正直言って本作もさほど期待していなかったのですが、意外とエレクトロサウンドも多様していたり、彼の本来の持ち味だったはずのメロディーラインをしっかりと前に押し出した作品も多く、そういう意味ではいい意味で小林武史らしさがきちんと出ていた作品になっていました。もちろん曲によっては、いかにも彼らしいストリングスアレンジが入っていたり、ベタなスケール感で大味な印象を受ける作品もありましたが、概してメロディアスなポップソングを素直に楽しめる作品に。参加ミュージシャンのファンなら素直に楽しめるアルバムだったと思います。

評価:★★★★

小林武史 過去の作品
WORKS1

アスター/KANA-BOON

KANA-BOONの新作は、「夏」をテーマとした5曲入りのミニアルバム。まあ基本的にはいつも通りの爽快でアップテンポなギターロックがメイン。それなりにメロディーもサウンドもインパクトあるものの、良くも悪くもいつも通りな感じ。ファンなら安心して楽しめるアルバムになっていました。

評価:★★★★

KANA-BOON 過去の作品
DOPPEL
TIME
Origin
NAMiDA
KBB vol.1

|

« J-POPリスナー層にも訴求しそうなポップス | トップページ | 内省的な作風が印象的 »

アルバムレビュー(邦楽)2018年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: エレクトロサウンドで今風にアップデート:

« J-POPリスナー層にも訴求しそうなポップス | トップページ | 内省的な作風が印象的 »