« ジャンルを越えた絶品カバー | トップページ | 今週も日韓男性アイドル対決 »

2018年7月 3日 (火)

戦後最大のポップアルバム

Title:ribbon-30th Anniversary Edition-
Musician:渡辺美里

1988年にリリースされ、彼女最大のヒット作となったアルバム「ribbon」。おととし、一昨々年とデビューアルバム「eyes」、2ndアルバム「Lovin'you」の30周年記念盤をリリースしてきた彼女でしたが、大方の予想通り、ついに今年、彼女の代表作とも言える「ribbon」の30周年記念盤をリリースしてきました。

これは「Lovin'you」の30周年記念盤の時にもちらっと書いたのですが、渡辺美里の代表作と言われた時、おそらく「Lovin'you」を挙げるファンと本作を挙げるファンに分かれるのではないでしょうか。それだけファンの人気も高い本作ですが、その内容に関していえば、ある意味「Lovin'you」と対照的とも言えるような作品にしあがっています。

ティーンエイジャーという大人と子供の間という微妙な年代の心の叫びを綴った「ribbon」に対して、本作に描かれているのは主に20代の若者の恋愛を中心とした素直な声。ティーンエイジャーらしい焦燥感が描かれた「Lovin'you」に比べると、比較的明るく素直なポップソングが並んでいます。

また「Lovin'you」では渡辺美里を含めて小室哲哉、岡村靖幸など参加しているミュージシャンもデビュー間もないミュージシャンが多く、デビュー直後のミュージシャンらしいある種の緊張感が感じられた一方、本作がリリースされた頃は、渡辺美里も既にシンガーとしての地位を確立し、小室哲哉も前年に「Get Wild」が大ヒットし、一躍人気ミュージシャンの仲間入りを果たしているなど、渡辺美里を含めて参加ミュージシャン全員が脂ののりまくっていた頃。「Lovin'you」のような若さゆえのヒリヒリとした空気感はないものの、脂がのりまくっている時期らしい勢いとある種の余裕を感じさせる楽曲が並んでいます。

ある意味「ロック」のテイストが強かった「Lovin'you」と比べると、本作の方向性はあくまでもポップ。10代の心の叫びを詰め込んだという意味も含めて、ロックミュージシャン渡辺美里が表現されたのが「Lovin'you」だったのに対して、「ribbon」は彼女をポップシンガーとして見た場合、間違いなく最高傑作だと言えると思います。

このアルバムに収録されている曲はいずれも彼女の代表作と言えるだけの傑作が並んでおり、特に小室哲哉作曲の「Believe」「悲しいね」は彼の全キャリア通じても上位に食い込んでくる傑作だと思います。彼らしい転調は見受けられるものの、後の彼の作品に見受けられるような「小室哲哉らしい」手癖のついたメロディーはなく、マイナーコード主体の悲しげなメロディーラインは勢いではなくしっかりとメロディーの展開で聴かせる名曲。彼のメロディーメイカーとしての才能をしっかりと感じることが出来ます。

また渡辺美里の書く歌詞もまさに絶品。特に「さくらの花の咲くころに」では「右上がりの丸い文字」「因数分解」「砂ぼこり からっぽのフィールド」など学生時代を彷彿とさせる単語が次々と登場し、学生時代の風景が目に浮かんできます。高校を卒業して20年以上たった今でもこの曲を聴くと学生自体にタイムスリップさせられるような、非常に切ない気持ちになる傑作に仕上がっています。

渡辺美里のボーカルに関しても当時22歳とは思えないほど、完成され、かつ「貫録」という言葉すら浮かんでくるほどの歌唱力を見せつけています。まさにあらゆる観点からもっとも勢いのあるミュージシャンたちが作り上げた最高傑作アルバム。当時の彼女の勢いから考えると、これだけの傑作アルバムが生まれるのは、ある意味「当然」とも言えたのかもしれません。当時の本作のキャッチコピーは「戦後最大のポップアルバム」だったのですが、その言葉に偽りのない、J-POP史に残る傑作アルバムだと思います。

そんなアルバムの30周年記念盤ということで、是非ファンでなくてもこれを機に本作を聴いてほしいところなのですが・・・ただ、30周年記念盤としてはちょっと残念な面も。まずボーナスディスク。当時アルバム未収録となっていたシングルのカップリング曲やシングル「君の弱さ」が収録。これはこれで良かったのですが、ただ、もうちょっとデモ音源とかライブ音源とかバージョン違いとか、レア音源とかなかったのかなぁ。

さらに物足りなかったのが初回盤についてくるDVDで、わずか18分という収録時間の短さ。彼女の曲がつかわれた当時の貴重なCMやテレビスポットなどそれなりに見どころはあるものの、通常盤プラス3,000円以上という内容にしてはかなり物足りなさを感じました。ライブ映像とかPVとか(当時はさほどPVは普及していなかったのかなぁ?)もっと収録すべき映像はあると思うのですが・・・。

そんな訳で30周年記念盤としては不満な点も少なくない企画でしたが、アルバム自体は今聴いても文句なしの傑作なのは間違いありません。通常盤で十分だと思うので、これを機に是非とも全音楽ファンがチェックしてほしい傑作アルバムだと思います。

評価:★★★★★

渡辺美里 過去の作品
Dear My Songs
Song is Beautiful
Serendipity
My Favorite Songs~うたの木シネマ~
美里うたGolden BEST
Live Love Life 2013 at 日比谷野音~美里祭り 春のハッピーアワー~

オーディナリー・ライフ
eyes-30th Anniversary Edition-
Lovin'you -30th Anniversary Edition-


ほかに聴いたアルバム

自由の岸辺/佐野元春&THE HOBO KING BAND

佐野元春のニューアルバムは2011年にリリースされた「月と専制君主」に続くともいえるセルフカバーアルバム。その「月と専制君主」と同じバンドメンバーにより演奏された楽曲は、かなり分厚いサウンドがほどこされており、しっかしと「今」の音として響いてくる内容に。アルバム全体の流れとしても違和感なく、純粋な新作的な感覚でも十分に楽しめるアルバムになっていました。

評価:★★★★

佐野元春 過去の作品
ベリー・ベスト・オブ・佐野元春 ソウルボーイへの伝言
月と専制君主
ZOOEY
BLOOD MOON
MANIJU

|

« ジャンルを越えた絶品カバー | トップページ | 今週も日韓男性アイドル対決 »

アルバムレビュー(邦楽)2018年」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 戦後最大のポップアルバム:

« ジャンルを越えた絶品カバー | トップページ | 今週も日韓男性アイドル対決 »