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2018年7月 7日 (土)

戦後日本のポップス史を代表する作曲家による自選集

今の日本のポップスシーンにおいてもっとも重要な作曲家は誰か、と問われた時に筒美京平の名前を出して異論と唱える方は少ないのではないでしょうか。1967年に「バラ色の雲」でヒットを飛ばして以降、数えきれないほどのヒット曲を世に送り出し、総売上枚数7560万枚はかの小室哲哉を上回り、歴代1位を記録しています。さすがにここ数年はかつてほどのヒット曲の量産は行っていないものの、いまなおコンスタントに作曲は続けています。

そんな彼の1967年のブレイクから50年の記念ということで3組の自選作品集をリリースしました。

Title:筒美京平自選作品集 50th Anniversaryアーカイヴス AOR歌謡

Title:筒美京平自選作品集 50th Anniversaryアーカイヴス シティ・ポップス編

Title:筒美京平自選作品集 50th Anniversaryアーカイヴス アイドル・クラシックス

このうち「AOR歌謡」と「シティ・ポップス」に関しては正直言って違いは少々あいまい。あえていえば「AOR歌謡」はAORと名乗りつつも、ムード歌謡や演歌の領域に入るような楽曲も並んでいます。

さてこの自選作品集、それぞれ40曲が収録され、全120曲という大ボリューム。その量にも関わらず誰もが知っているようなヒット曲の連続で、筒美京平の作家としてのすさまじさがわかります。

そしてその曲調なのですが、実にいろいろなジャンルがあってバラバラ。例えば「AOR歌謡」に収録されている五木ひろしの「かもめ町 みなと町」はド演歌ですし、かと思えば小沢健二の「強い気持ち・強い愛」などは当時、「渋谷系」と称されていたこじゃれた洋楽テイストの強いポップチューンに。C-C-B「Romanticが止まらない」のような80年代の王道を行くようなエレクトロポップがあったかと思えば、SHOW-YAの「その後で殺したい」のようなロックナンバーもあったり、さらには「サザエさん」みたいなアニメソングまであったりします。

例えば同じ一世を風靡した作曲家でも、小室哲哉だとか織田哲郎だとか、いずれもその作家の手癖がついており曲を聴いただけで彼らの曲だとわかる楽曲が少なくありません。しかし、彼の場合は楽曲を聴いていてもそんな印象は皆無。完全に裏方に徹しており、そういう意味では徹底して「プロ」だということがわかります。

ただ、そんな中であえて筒美京平らしさを探ろうとすると、ちょっと抽象的な言い方になるのですが、メロディーラインは「エッジの利いた」というよりもどこか丸みを帯びた優しさを感じさせます。強烈なインパクトのあるサビで聴かせるというよりは、楽曲全体のメロディー構成できちんと聴かせてくれるような印象。インパクトあるワンフレーズに安直に頼らない、ある意味腰の落ち着いた楽曲づくりを感じます。

また、特に「AOR歌謡」に収録されている曲のように、ムード歌謡色や演歌色の強い楽曲に関しても、どこかバタ臭さというか洋楽からの影響が垣間見れるのも彼の大きな特徴に感じます。彼は90年代に前述のオザケンやピチカート・ファイヴのような渋谷系と呼ばれる洋楽テイストの強い、その時代の先頭を行っていたようなミュージシャンたちからリスペクトを受け、彼らへの楽曲提供を行っているのですが、それも彼のつくる楽曲が単なる「昔ながらの歌謡曲」ではなく、しっかりと広く海外からの影響も受けている点、渋谷系にもつながるものを感じたのでしょう。

ちなみに今回、3組のアルバムをリリースしたのですが、このうち実は一番おもしろかったのが「アイドル・クラシックス」。なにげにその時代時代を感じさせる楽曲が並んでおり、ほぼリリース順の並びになっているのですが、日本歌謡史をアイドルへの楽曲を通じて垣間見ることが出来るような内容になっています。

さらに今回、「自選作品集」という建付けになっているため、かなりメジャーな曲でも本作からはずれた曲がありました。例えば近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」などはおそらく誰もが知っている大ヒット曲でありながらも今回のアルバムには収録されていませんし、NOKKOの「人魚」も未収録となっています。収録できない大人の事情がある曲もあるのかもしれませんが、こういうヒット曲も彼にとってはベストといえる出来ではなかったということでしょうか。興味深く感じます。

とにかく日本の歌謡史を彩るヒット曲の連続で、非常にボリューミーな内容ながらも最後までまったくダレルことなく楽しめたオムニバスアルバムでした。あらためて筒美京平という作曲家の偉大さを感じる作品。かなりボリュームある内容ですが、ポップス好きはまずチェックしておきたいオムニバスです。

評価:いずれも★★★★★

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