バンドKIRINJIの3枚目
Title:愛をあるだけ、すべて
Musician:KIRINJI
堀込泰行脱退後、6人組バンドとなったKIRINJI。ただ、参加メンバーがそれぞれ個々でも活躍しているスーパーグループのようなグループだっただけに永続的に続くのか少々心配だったのですが、その不安は一部的中してしまい、昨年、残念ながらメンバーのひとり、コトリンゴが脱退してしまいました。
ただその後ももちろんKIRINJIとしての活動はコンスタントに進み、このたび約1年10か月ぶりとなるニューアルバムが無事リリース。これでKIRINJIとなってから3枚目のアルバムとなりました。
さてそんなKIRINJIですが、前作「ネオ」では堀込高樹以外のメンバーが積極的に参加。非常にバリエーション豊富なアルバムに仕上がり、バンドKIRINJIとしての新たな一歩を強く感じさせる作品に仕上がっていました。そしてその後リリースされたニューアルバムもそんな前作の方向性を踏襲。堀込高樹以外のバンドメンバーもボーカルとして積極的に参加する内容となっており、バンドKIRINJIならではのバラエティーあふれる内容になっていました。
まず序盤の「AIの逃避行」では、80年代テイストを感じる打ち込みのディスコチューン。女性ラップグループのCharisma.comが参加しており、楽曲に彩りを与えています。「After the Party」は弓木英梨乃のボーカル曲。メロウなシティポップ風のナンバーは、ある意味堀込高樹の得意路線なのですが、女性ボーカル曲になることにより雰囲気がグッと変わります。
「悪夢を見るチーズ」もこのタイトルからしてユニークですが、ファンキーなリズムに千ヶ崎学がボーカルをとることによりアルバムの中でひとつのインパクトとなっています。終盤もエレクトロによるインストナンバー「ペーパープレーン」を挟み、ラストの「silver girl」では軽快なエレクトロポップながらもスティールパンが絡み、独特なさわやかさを感じるナンバー。この曲では、堀込高樹がオートチューンを用いてボーカルをとっており、スティールパンの音色とあわせてどこか南国風な雰囲気を感じるナンバーに仕上がっています。オートチューンのボーカルというのもまた、新たな試みといっていいでしょう。
一方ではもちろん昔からの「キリンジらしさ」を感じる曲もあり、その典型例が「非ゼロ和ゲーム」。経済学のゲーム理論で用いる専門用語からタイトルがとられていますが、歌詞にはちょっと合わなそうな硬派な言葉を取り入れてくるあたり、堀込高樹らしい感じ。ちなみにこの意味を曲の中で詳しく解説するのではなく「調べろ」「ぐぐれよ」とリスナーを突き放しているのも彼らしい感じでしょうか。メロディー自体も昔ながらも「キリンジ」らしいシティポップナンバーになっています。
ちなみに「ゼロ和ゲーム」とはプレイヤーの参加者のすべての取り分を合計するとゼロになるゲームのこと。典型例は麻雀ですね。卓を囲んだ4人の得点を合計すると必ずゼロになります。要するに誰から勝った場合、必ずほかのだれかが負けているような状況のこと。「非ゼロ和ゲーム」とはその逆。誰か1人の勝ちがほかの人の負けになるわけではなく、全員が勝利できるようなゲームのこと。歌詞の中に出てくる「一枚のピザ 皆でシェアすれば だれも泣かない」というのはちょっと違うような気もするのですが、誰もが利益を得れるような、そんな状況のことを「非ゼロ和」と言います。
そんな感じで前作から引き続き、バンドとしてのKIRINJIの今後の方向性を強く示されたような作品になっています。おそらく今後も彼らの作品は今回の作品のように、メンバーそれぞれが参加しているバラエティーに富んだ作風になるのでしょうね。ただちょっと気になるのは、2年近くのインターバルを経た新作でありながらも全9曲入りとちょっと曲数が少なめだったこと。メンバーそれぞれ忙しかったからでしょうか。ちょっと気になってしまいました。
ただバンドとなってオリジナルアルバムはこれで3作目。当初は正直なところ、どこまで続けることができるのかなぁ、といぶかしく思っていた部分もあったのですが、今後もコンスタントにKIRINJIとしての活動は続きそうですね。これからの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
キリンジ(KIRINJI) 過去の作品
KIRINJI 19982008 10th Anniversary Celebration
7-seven-
BUOYANCY
SONGBOOK
SUPERVIEW
Ten
フリーソウル・キリンジ
11
EXTRA11
ネオ
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2018年」カテゴリの記事
- 前作同様、豪華コラボが話題に(2019.01.26)
- その「名前」を聞く機会は多いのですが・・・(2019.01.25)
- 「ラスボス」による初のベスト盤(2018.12.24)
- 民謡歌手としての原点回帰(2018.12.23)
- 相変わらずの暑さ(2018.12.22)
コメント
他アーティストとのコラボレーション楽曲もクオリティが高く、洗練されたサウンドが更にパワーアップした印象ですね。
投稿: ひかりびっと | 2019年3月15日 (金) 17時51分
>ひかりびっとさん
ご感想ありがとうございました。
投稿: ゆういち | 2019年4月 1日 (月) 00時11分