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2018年6月23日 (土)

作風をガラリと変えた問題作

Title:Tranquility Base Hotel & Casin
Musician:Arctic Monkeys

よくアルバムの中には発売当初賛否両論となる「問題作」というものが少なくありません。古くはThe Beach Boysの「Pet Sounds」なんかがそんなアルバムでしたし、The Rolling Stonesの「Their Satanic Majesties Request」などもそんなアルバムのひとつでしょうか。前作から作風がガラッと変わってしまったアルバムは、時として「問題作」となり、良くも悪くも大きな話題となります。

約4年8か月ぶりとなるArctic Monkeysのニューアルバムである本作は、まさしくそんな問題作と言える作品でした。まず1曲目「Star Treatment」からして、まずムーディーに歌い上げるAlex Turnerのボーカルが目立つナンバー。Arctic Monkeysといえばガレージロック色の強いバンドですが、この曲調はロックというよりもむしろオールドスタイルなムード歌謡曲に近い雰囲気となっていました。

その後も彼ららしいゴリゴリのギターサウンドを求めて聴き進めていくのですが、続く「One Point Perspective」も同じようなムーディーな作品。さらに続く「American Sports」では美しいピアノの調べがムーディーな雰囲気をかきたてる、ライブハウスというよりはコンサートホールや、ホテルのディナーショーで歌われそうな、そんな雰囲気の楽曲になっています。

「Golden Trunks」「Science Fiction」あたりでようやくノイジーなギターも入ってくるのですが、ムーディーな曲調でサウンドよりも歌を聴かせるというスタイルは最後まで変わらず。正直言って、最初はかなりこのアルバムの作風には戸惑ってしまいました。

ただ、よくよく聴いていくと、この歌は実に心に響いてくるようなメロディーラインを持っていることに気が付かされます。特に「Golden Trunks」などハイトーンボイスで歌われる美しい歌声と美メロが印象に残りますし、ラストを飾る「The Ultracheese」はちょっと切ない雰囲気のメロディーが実に絶品。将来的にスタンダードナンバーになる可能性を秘めた、インパクトある名曲に仕上がっていたと思います。

サウンドに関しては正直言って、エッジの効いたバンドサウンドを聴かせるわけではありません。ただ、ボーカルとのバランスにおいてほどよいバランスをもって歌を引き立たせています。「She Looks Like Fun」などは、このアルバムとしては珍しくヘヴィーなバンドサウンドを聴かせるナンバーなのですが、こちらにしてもボーカル部分をしっかり引き立てており、かつピアノパートとの絡みも絶妙。そういう意味ではアレンジに関してよく練られているものを感じます。

正直言って好みのわかれる、まさに賛否両論となるアルバムだったと思います。ただ、よくよく考えると前作「AM」もヘヴィーなギターリフをゴリゴリと前に押し出したナンバーだったものの、哀愁感あるメロディーが目立つ、実に「渋い」アルバムでした。そう考えると、基本的に本作は前作の延長線上にあるアルバムともいえるかもしれません。

この方向が今後どうなるかわかりませんし、個人的にも次回作はゴリゴリのギターロックを聴きたいな、という印象も受けます。ただこのアルバムに関してはArctic Monkeysの新たな可能性を感じる傑作アルバムだったと思います。特にメロディーの側面で彼らの魅力を最大限に引き出したアルバムに仕上がっていたと思います。最初は違和感を覚えるかもしれませんが・・・是非何度か聴いてメロディーの良さを味わってほしい、そう思う新作でした。

評価:★★★★★

ARCTIC MONKEYS 過去の作品
Humbug
SUCK IT AND SEE
AM

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