約半日のTakkyu地獄
Title:Takkyu Ishino Works 1983~2017
Musician:石野卓球
すさまじいBOX盤がリリースされました。石野卓球といえばご存じ電気グルーヴのメンバーにして、世界的にも名を響かせる日本を代表するテクノミュージシャンの一人。昨年12月に50歳の誕生日を迎えた彼ですが、その彼の30年に及ぶソロ活動の曲から代表曲を網羅的に収録した8枚組となるBOX盤が本作です。
この8枚の中に、彼がプロデュースした曲、リミックスした曲、コラボした曲、そしてソロ楽曲など、ありとあらゆる石野卓球の「仕事」が収録。まずDisc1はプロデュース曲。リリース当初大きな話題となった篠原ともえ「クルクルミラクル」や、電気グルーヴの全身バンド、人生の「いかした彼女」も収録。比較的コミカルな曲が多く、ハリウッドザコシショウというお笑い芸人が歌う「ゴキブリ男」などは90年代あたりの電気グルーヴを彷彿とさせるようなかなりコミカルかつシニカルなナンバー。ちなみに作詞作曲も石野卓球です。あと細川ふみえの「にこにこにゃんにゃん」も今聴くと、あきらかに「自分は誰でもやらせてしまう女性だ」と歌っているナンバーで、ある意味、かなり破壊度の強いナンバー。この曲も作詞作曲石野卓球です・・・。ある意味、石野卓球の「狂気」の部分がもっとも強く出た1枚となっていました。
Disc2から4はリミックス曲を集めた曲。Disc2はちょっと前のリミックスが収録されていて、時代を感じさせるような曲もありますが、そんな曲を含めて石野卓球らしさがリミックスによくあらわれています。エレカシの「浮雲男」などはエレクトロのサウンドと宮本浩次のボーカルのミスマッチが非常にユニークなリミックスで印象に残ります。
Disc5はほかのミュージシャンとのコラボ曲を集めた1枚。TOKYO No.1 SOUL SETの川辺ヒロシと組んだユニット、Inkの曲もこちらに収録されています。Disc6は「ASSOATED CLUB TRAX」として基本的に石野卓球ソロ曲がメイン。ミニマルなテクノが淡々と続く作品で、石野卓球のストイックな側面が表にあらわれています。Disc7は「OTHER WORKS」ということで、ほかのどれにもあてはまらない「その他の仕事集」。Disc7のストイックな雰囲気から一転、コミカルな曲が多く収録されています。2008年にリリースされた「マッハGoGoGo」へのトリビュートアルバムに収録された「SPEED RACER」は、その「マッハGoGoGo」の昔のテーマソングがサンプリングされておりインパクトの強いナンバー。夏木マリの「逆走BBA」も彼女の力強いボーカルが逆にコミカルに聴こえる石野卓球らしいユーモラス感あふれる曲になっています(ただし、彼は作曲のみで参加)。
そしてラスト8枚目は「RARE TRAX」としてタイトル通りのレア曲集。なによりもレア度が目立つのがラスト石野文敏(16)名義の「Noise In The Ear」。ご存じのとおり、石野文敏とは石野卓球の本名。「16」ということはおそらく彼が16歳の頃に作った曲なのでしょう。いまから聴くと音は非常にチープですが、きらりと光るポップスセンスはこの頃から健在。のちに花開く彼の才能の片りんを確実に感じることが出来ます。
そんなわけで全8曲。「約半日のTakkyu地獄」とは石野卓球のこのアルバムに対するコメントから抜粋した、彼らしい言い回しですが、全10時間近くにも及ぶ石野卓球の世界を堪能できるアルバムになっています。
さてそんな石野卓球の仕事ぶりをたっぷりと聴いたのですが、まず彼に関して感じた大きなポイントは彼は良い意味で仕事を選ばないな、ということでした。以前から様々な毒舌ぶりが話題の彼ですが、昔から今に至るまで「実力派ミュージシャン」だけではなくアイドル系からお笑いタレント、最近でもORANGE RANGEやらSCANDALやら、なにげにいろいろなタイプのミュージシャンのプロデュースやリミックスを手掛けています。そんな相手を選ばない仕事ぶりにも関わらず一貫とした石野卓球色を感じることが出来、より彼の実力が際立つ結果となっています。
もう1点は彼の仕事にはかなりコミカルな曲が多い反面、音楽的にはストイックな仕事をしているという点でした。彼自体、普段の発言もコミカルでシニカルな発言が多い反面で、音楽に関しての発言は非常にストイックな発言が目立ちます。そんな彼に音楽に対する真摯な態度はまずはこの仕事ぶりに非常に反映されており、歌詞にはコミカルな側面が目立つ反面で音楽的にふざけたりしている点は皆無。彼の「真面目」な側面を強く感じました。
そんな訳で石野卓球を存分に体験できる約半日。さすがに10時間、通しでは聴いていませんが、CD1枚ずつ聴いてももちろん楽しめるアルバムです。ちなみにこの8枚組から厳選し、2枚組とした「Takkyu Ishino Works 1986~2017(Excerpt)」もリリースされていますので、さすがに8枚組は・・・と思った方はこちらを是非。
評価:★★★★★
石野卓球 過去の作品
CRUISE
WIRE TRAX 1999-2012
LUNATIQUE
EUQITANUL
ACID TEKNO DISKO BEATz
ほかに聴いたアルバム
ポプテピピック ALL TIME BEST
今年1月から3月の放送で一番話題となったクソアニメ「ポプテピピック」で使用された楽曲を収録したサントラ盤。ただ、基本的にDisc1はアニメでつかわれたBGM集で、アニメを見ていたからならシーンを思い出して「クスっ」と笑える方もいるかもしれませんが、曲だけで純粋に聴くのは厳しい感じ。エンディングテーマの「POPPY PAPPY DAY」はアニメ同様、様々な声優さんによって歌われているのですが、それによってオルタナ系ギターロックっぽく聴こえたりアイドル系っぽく聴こえたりするのがユニーク。ただオープニングテーマが未収録なのが残念なのと、アニメの狂いっぷりに反して収録曲自体は「普通の」J-POPなのはちょっと残念。個人的にはコラボTシャツも発表している電気グルーヴあたりに、もし2期があったらテーマ曲を歌ってほしいのですが・・・。
評価:★★★
ラーメンな女たち/矢野顕子×上原ひろみ
2011年に東京・昭和女子大学人見記念講堂で行ったレコーディングライブにて共演。ライブアルバム「Get Together -LIVE IN TOKYO-」をリリースした矢野顕子×上原ひろみ。本作はその後5年を経て、久々の共演となった2016年9月15日渋谷・Bunkamuraオーチャードホールで行われたライブの模様をおさめたアルバム。矢野顕子、上原ひろみどちらも非常に自由度の高い演奏が魅力的で相性の良さを強く感じます。特にジャズをベースに「おちゃらかほい」や「真っ赤な太陽」、「東京ブギウギ」など、古き良き日本の童謡、歌謡曲などを盛り込み、フリーキーなジャズの中に和の要素を強く感じるユニークな作品に仕上がっていました。
前作同様、矢野顕子と上原ひろみが対峙するというよりも一体となって演奏でている感じが強く出ており、ある意味ベクトル的には近いミュージシャンなんだな、ということを感じます。このコンビでまた是非アルバムを作ってほしい!そう強く感じた1枚でした。
評価:★★★★★
矢野顕子 過去の作品
akiko
音楽堂
荒野の呼び声-東京録音-
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
矢野顕子、忌野清志郎を歌う
飛ばしていくよ
JAPANESE GIRL - Piano Solo Live 2008 -
さとがえるコンサート(矢野顕子+ TIN PAN)
Welcome to Jupiter
矢野顕子+TIN PAN PARTⅡ さとがえるコンサート (矢野顕子+ TIN PAN)
矢野山脈
Soft Landing
上原ひろみ 過去の作品
BEYOUND THE STANDARD(HIROMI'S SONICBLOOM)
Duet(Chick&Hiromi)
VOICE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
MOVE(上原ひろみ featuring Anthony Jackson and Simon Phillips)
Get Together~LIVE IN TOKYO~(矢野顕子×上原ひろみ)
ALIVE(上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
SPARK (上原ひろみ THE TRIO PROJECT)
ライヴ・イン・モントリオール(上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ)
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