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2018年5月 1日 (火)

ボカロ系のイメージも変わるかも。

Title:filia
Musician:春野

先日、ここのサイトで「合成音声ONGAKUの世界」というオムニバスアルバムを紹介しました。初音ミクをはじめとするボーカロイドの音楽を紹介したオムニバスなのですが、初音ミクの音楽として一般的にイメージされるような楽曲とは異なるタイプの楽曲が収録されており、ボーカロイド音楽の世界の広がりを感じさせてくれるオムニバスで、あらためてボーカロイド音楽に興味を抱かせてくれる内容でした。

今回紹介するアルバムはその「合成音声ONGAKUの世界」の1曲目で紹介された、いわゆるボカロPによるアルバム。オムニバスアルバムに収録されていた「nuit」も本作には収録されており、今年2月にリリースされたアルバムをあらためて聴いてみました。

もっとも1曲よかったといってもアルバム単位で聴くといまひとつ、という経験はいままで何度もしているだけに今回のアルバムも期待半分不安半分という印象で聴き始めたのですが、結論としてはとても素晴らしい内容のアルバムを聴くことが出来ました。

このアルバムで非常におもしろかったのはアコースティックな音とエレクトロサウンドがほどよいバランスで奏でられていた点でした。初音ミクのボーカルをはじめ、どこか無機質さを感じるサウンドと暖かみを感じるサウンドが同居しており、一種独特の音の世界に惹きこまれます。

まず1曲目の「in between」。エレクトロサウンドと爽快なピアノの音色が明るさを感じさせるポップチューンからスタート。「ルーム」はアコースティックギターをベースとした音色でしんみりと聴かせるナンバーになっていますし、「プリムラの食べ方」もアコースティックなサウンドにエレクトロサウンドがのる構図にユニークさを感じます。

サウンドの側面で特に耳を惹いたのが「幽霊花」。ゆっくりと奏でられる重低音のリズムに、ノイズのような音色とアコギとピアノがのってゆっくりと奏でられる同作はポストロック的な色合いを感じる楽曲。サウンド面でも非常に凝った意欲作になっています。

オムニバスアルバムに収録されていた「nuit」ももちろん耳を惹きますし、「楽園」もメロウさを感じるR&Bテイストのメロディーラインが強い印象を残すナンバー。サウンドの面でもメロディーの面でも春野の高い実力を感じさせます。

本作はボカロ系でよくありがちな音や歌詞を詰め込んで早口で歌わせるというスタイルはありません。アコースティックなサウンドとエレクトロなサウンドをほどよくバランスさせている影響でしょうか、時として無機質さを感じる初音ミクのボーカルも楽曲の中で上手く溶け込んでいてほとんど違和感がありません。そういう意味でもボカロ系を全く聴かないような方でも胸を張ってお勧めできるアルバムだと思います。こんな実力のあるミュージシャンがいたとは知りませんでした。ボカロの世界に留まらず、もっともっと知られてもいいミュージシャンだと思います。ボカロに抵抗感を覚える人も含めて文句なしにお勧めできる1枚です。

評価:★★★★★

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