洋楽邦楽がほどよくバランス
Title:enigma
Musician:MONKEY MAJIK
在日カナダ人の兄弟と日本人2名という洋邦ハイブリッドのバンドということでデビュー時には大きな注目を集めたMONKEY MAJIK。今年でデビューから12年目という、そろそろベテランの領域に入ってくる彼らですが、2年前にリリースされたアルバム「southview」はデビューから10年目にして彼らの最高傑作ともいえるアルバムに仕上がっていました。
それから2年ぶりとなるアルバムは、前作が彼らのキャリアの中で偶然リリースされた奇跡の傑作なのか、それとも前作で彼らが間違いなく殻をひとつ脱いで成長を遂げたのか見極めるための重要なアルバムと言えるのですが・・・結論としては、間違いなく彼らはひとつの殻を脱ぎ捨てて、大きな成長を遂げたことが実感できる傑作に仕上がっていました。
前作が傑作だった大きな理由は今までの作品に比べてグッと洋楽テイストに近づいたという点が大きなポイントでした。その方向性は本作にも引き継がれています。爽快なポップチューンである「Tokyo lights」に続く「40 days」がまず耳を惹きます。英語詞ということもありバタ臭さの強い本作ですが、ピアノの美しいフレーズにビート感を強調したエレクトロサウンドが非常に洋楽テイストが強いナンバーに。さらに「A.I.am Human」もファンキーなリズムが耳を惹く、エレクトロダンスチューンで、このテンポのよいリズム感はあきらかにJ-POPというよりも洋楽的なリズムを感じさせます。
実は今回のアルバム、前作リリース後、初の47都道府県ライブを実施し日本をくまなく旅してきた彼らが、そこで出会った日本の「神秘」に独自のアプローチで描いたアルバムという点がテーマとなっています。そのため「和」のテイストも多分に含められており、例えば「Venom」はR&Bと演歌と融合させたナンバーだそうで、女性ボーカルによるこぶしの利いた歌声が入っており、確かに「演歌」的なフレーズが楽曲の中に含まれていますし、例えば前述の「A.I.am Human」も洋楽的なリズムの中で流れる哀愁感あるメロはどこか和風なものを感じます。
また4曲目の「Seiko」は文字通り、松田聖子に捧げるナンバー。80年代的なエレクトロチューンなのですが、やはり彼女が活躍した80年代を意識しているのでしょうか。また「ray of light」も仮面ライダーの映画の主題歌ということもあるのでしょうが、いかにもJ-POP的な楽曲。ラストを飾る「のぞみ」もアコギの弾き語りによるフォーキーなナンバーなのですが、哀愁感あるメロはいかにも和風な情緒を感じさせます。
そういう意味ではアルバム全体としてきちんと「日本的」な要素の入ったアルバムであるということは間違いありません。ただ和風な要素を入れた楽曲にしても安直に「和」の要素を押し出している訳ではなく、バックにきちんとMONKEY MAJIKらしい洋楽的なテイストをきちんと残しています。そのためアルバム全体として平凡なJ-POPのアルバムに陥ることなく、MONKEY MAJIKの個性がしっかりと発揮された作品に仕上がっていました。
特にこの洋楽的なテイストと邦楽的なテイストが実にほどよくバランスされていたアルバムでした。前々作以前の彼らの作品は「洋楽風のJ-POP」といった感じで良くも悪くもよく出来たポップスだったのですが、中途半端に洋楽のテイストとJ-POPのテイストを取り入れた作品が多く見受けられました。今回のアルバムは全編、エレクトロサウンドを取り入れたリズミカルな曲が多いのですが、リズム感やサウンドの面は洋楽におもいっきりシフトすることにより洋楽的なスタイリッシュな雰囲気を出しつつも、一方ではメロディーラインではしっかりと日本的な哀愁感を出すことにより邦楽的な要素も残しています。その結果、洋楽的な要素と邦楽的な要素がほどよくバランスされた、まさに洋邦のハイブリッドバンドという彼らの特質を100%生かした傑作に仕上がっていました。
前作に引き続きの傑作で、バンドとして完全に「化けた」と言えるでしょう。ある意味、デビューから12年、以前のようなヒットを出さなければいけないというプレッシャーからようやく逃れられ、彼ららしさを出してきたとも言えるのかもしれません。売上的には正直以前に比べると低迷気味の彼らですが、これだけの傑作を続けてリリースすれば、おそらくまた人気が上向きになってくるのでは?これからの彼らの活躍も楽しみです。
評価:★★★★★
MONKEY MAJIK 過去の作品
TIME
MONKEY MAJIK BEST~10years&Forever~
westview
SOMEWHERE OUT THERE
DNA
Colour By Number
southview
ほかに聴いたアルバム
情景泥棒/THE BACK HORN
THE BACK HORNの新作は全7曲入りのミニアルバム。結成20周年を迎える彼らがベスト盤に続いてリリースした作品なのですが、それだけにある意味、THE BACK HORNのイメージそのままなアルバム。とにかくダイナミックなバンドサウンドに哀愁感あふれるメロディーラインを叙情感たっぷりにこれでもかというほど聴かせるアルバム。レゲエ的なリズムを取り入れた曲やサイケ的な要素を強めた曲もありましたが、基本的にはいかにも彼ららしい作品が収録されていました。
評価:★★★★
THE BACK HORN 過去の作品
BEST
パルス
アサイラム
リヴスコール
暁のファンファーレ
運命開花
BEST OF BACK HORN II
殺風景~15th Anniversary Edition~/熊木杏里
女性シンガーソングライターの熊木杏里が2003年にリリースしたデビューアルバムにシングルのカップリング曲を加えて再発した15周年の記念盤。哀愁感たっぷりのフォーキーなメロディーが魅力的。デビュー時から一定以上の完成度を誇ったことが感じられます。デビューから15年、いまひとつ大きなブレイクもない彼女。もうちょっと売れてもいいミュージシャンだと思うのですが・・・。
評価:★★★★★
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