ティジュリドゥの不思議な音色が癖になる
Title:STARTING OVER
Musician:GOMA&THE JUNGLE RHYTHM SECTION
今年、「高次脳機能障害」という言葉が話題となりました。今年1月、小室哲哉がその妻でありglobeのボーカリストであるKEIKOが高次脳機能障害を患っているという事実を公表し大きな話題となりました。しかし音楽シーンではほかにもこの病気と闘っているミュージシャンがいます。それが今回紹介するGOMA。ディジュリドゥというオーストラリアのアボリジニが用いる金管楽器の奏者である彼は2009年に交通事故にあい、過去10年ほどの記憶を失うという高次脳機能障害を患いました。
その当時は復帰は絶望的とも言われていたのですが、リハビリ生活を経て徐々に活動を再開。現在も長期間の記憶に支障をきたすという記憶障害を患いながらも積極的な音楽活動を続けています。
今回紹介するのはそんな彼の9年ぶりとなるニューアルバム。前作「You are beautiful」がリリースされたのが2010年の8月と事故後、比較的短いタイミングでもリリースとなっていましたが、今回はその後リハビリを通じて徐々にその活動が活発化していき、満を持してのリリースともいえる新作になっています。
楽曲の構成はドラムやパーカッションなどの軽快なリズムをバックに、GOMAが演奏するディジュリドゥの音色が鳴り響くというスタイル。このティジュリドゥなのですが、なんとも不思議な響きのある「笛」。個人的にはジャグ・バンドが奏でるジャグの響きに近い印象を受けました。ジャグというのはウィスキーなどを入れておく大きな瓶のこと。みなさんもガラス瓶の入り口に口をつけて、笛のようにして鳴らした経験があるかもしれません。ディジュリドゥの音色はそのガラス瓶を吹いた時に出る、濁った音色がもっと大きくなったような感じといっていいでしょうか。濁った音色ながらも非常に独特のグルーヴ感を奏でるサウンドになっています。
そんな独特の音色をおもいっきりうねらせながら軽快なリズムをバックに聴かせるのが彼のスタイル。最初はその不思議な音色に違和感を覚えるような方もいるかもしれません。ただ、その音色が軽快なパーカッションのリズムと意外なほどマッチして聴いていくうちに妙に癖になっていくのがとてもおもしろく感じます。
今回のアルバムのひとつ大きな特徴が、こもったようなディジュリドゥの音色と反するように、楽曲全体は非常に軽快で明るい内容になっている点。特に全編、カウベルの軽快な音色が鳴り響き、楽曲全体の明るさの大きな要因になっていました。ファンクの要素を取り入れた「Heian Magic」やトライバルな雰囲気のある「Awamori」などといった曲もありつつ、全体的にはテンポよい軽快なリズムが耳を惹く、いい意味でポップな雰囲気の強いアルバムになっていたと思います。
GOMAに関しては「高次脳機能障害を患っている」という紹介のされ方をすることが多く、実際、この紹介文でも最初は病気の話からスタートさせていただきましたが、音楽の内容に関してはそんなこと全く関係なく、純粋にその不思議なディジュリドゥの音色にはまりつつ、軽快なリズムを楽しめるアルバムになっていました。いい意味でポップで聴きやすいアルバムなので、幅広くお勧めできる1枚です。
評価:★★★★★
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