独特の酩酊感がたまらない
Title:Drank
Musician:Thundercat
昨年リリースされるや大きな話題となり、各種メディアの年間ベストアルバムに選ばれるなど大きな評価を得たThundercatことアメリカのベーシスト、Stephen Brunerによるアルバム「Drunk」。個人的にも私的年間ベストアルバムの1位に選ぶなど、昨年はまりまくったアルバムでした。
本作はその名盤「Drunk」をチョップド&スクリュードという手法でリミックスしたアルバム。このチョップド&スクリュードという手法は90年代にアメリカ南部のHIP HOPシーンでDJ Screwにより生み出された手法。極端に曲のピッチを落とした上で、半拍ずらしてミックスするというリミックス方法だそうです。
ちなみにコデインと呼ばれる薬物が含まれる咳止めシロップとアルコール類などを同時摂取することによって生み出される強い酩酊感と抜群に相性がよいみたいで、この紫色の顔というインパクトあふれるジャケット写真もその酩酊感を表現したものだそうです。ちなみにこの手法を発明したDJ Screwはコデインの過剰摂取により亡くなったそうですので、くれぐれも真似することのなきよう。
さて、そんな手法によりアルバム全編がリミックスされた本作ですが、まずアルバムの雰囲気としてガラッと変わった作品に仕上がっています。上にも書いた通り、このチョップド&スクリュードという手法はピッチを落とし半拍ずらすというリミックスを行っていますが、そのためアルバム全体として非常にダウナーで、ある意味眩暈がするような雰囲気になっています。
例えばイントロを含めて事実上の1曲目となる「Drink Cat」のリミックス。原曲では爽やかさもあるメロディアスな曲調なのですが、ピッチを極端に落としたリミックスでは、どこか不気味な雰囲気を漂わせつつ、ダウナーなグルーヴを聴かせるアレンジになっています。
また例えば「Inferno」などはピッチを落とすことによって原曲でも流れているシンセのサウンドなどのサイケさがより増して、全く新たな雰囲気を生み出しています。この曲はバスドラムとスネアドラムの音が強調されてリズムを刻んでいるのですが、リミックスではこのドラムの音が半拍遅れることによって、よりドラムの音がインパクトを増し、また絶妙に歪んだリズム感を生み出しています。
「Uh Uh」などでも原曲ではハイテンポでメロディーを刻んでいたベースとピアノの音をピッチを落として拍をずらすことにより、フリーキーな雰囲気をより強調した作品に仕上げていました。
もっとも原曲から全く別物か、と言われると、メロウなサウンドはやはり楽曲のベースにしっかり残っていますし、「Walk On By」のようにメロウな歌を聴かせる曲についてはテンポはかなり異なるものの、メロディーラインの良さはしっかりと曲の魅力として残っています。そういう意味では原曲で感じたアルバムの良さは、きちんとこのリミックス盤でも生かされていました。
アルバムをそのままリミックスといっても曲順は大きく変えているほか、楽曲それぞれの曲間をなくし、そのままつながってアルバム全体で1曲のようなつくりに仕上げています。そういうこともあって、今回のリミックスによってまたアルバム全体の流れが変わり、酩酊感を強調する雰囲気によりマッチした曲の流れになっているように感じました。
元のアルバムも文句なしの傑作だったのですが、その良さを引き継ぎつつリミックスを行った本作は、まずその酩酊感がたまりません。ドラッグを摂取しながら聴くと・・・といううたい文句ですが、そんな違法行為をしなくてもこれだけで十分心地よさを味わえる作品。リミックス盤というとどうしても原曲の方がよかった・・・というケースも多いのですが、このアルバムに関しては「Drunk」といい意味で別物として楽しめる傑作アルバムだったと思います。この酩酊感、是非本作で味わってみてください。
評価:★★★★★
Thundercat 過去の作品
Drunk
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