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2018年3月30日 (金)

挑戦的なサニーデイ

Title:the CITY
Musician:サニーデイ・サービス

ここ最近、サニーデイ・サービスがすごいことになってきています。ご存じのとおり、おととしリリースした「DANCE TO YOU」は各種メディアが大絶賛する、その年を代表する傑作アルバムでしたし、昨年リリースした「Popcorn Ballads」も、ストリーミングでの配信オンリーというリリース形態も話題になりましたし、またその内容も大絶賛を浴びました。正直、サニーデイ、というよりも曽我部恵一は、サニーデイ解散後にリリースした作品も決して「傑作」とは言い難かったですし、2010年の再結成直後にリリースされたアルバムも「悪くはないけど・・・」レベルの作品。サニーデイは「終わった過去のバンド」というイメージと強く感じていたのは偽りのない事実でした。

しかし「DANCE TO YOU」以降はそれまでの停滞が嘘のように傑作アルバムを連発。そしてそんな流れの中、前作「Popcorn Ballads」からわずか9ヶ月というインターバルでリリースされたのが突如リリースされたのが今回のアルバム。今回もストリーミングとダウンロードでのリリースが先行し、その後はLP盤でリリース。CDでのリリース予定はありません。ここ最近、時々見られる「レコードと配信のみでのリリース」という形態になっています。

そしてその短いスパンでリリースされた本作ですが、これがまたここ最近のサニーデイの勢いを反映するような傑作に仕上がっていました。まずこのアルバム、1曲目がいきなりインパクト満載。「ラブソング2」というタイトルながらも歌詞は「ファック・ユー」のみが静かに幻想感が入って歌われる展開にいきなり度胆を抜かれます。

続く「ジーン・セバーグ」では曲調が一転。サイケ感あふれるダークなギターサウンドが耳に飛び込んでくる不気味なナンバー。50年代から60年代に活躍したアメリカの女優の名前をタイトルとしたナンバーでPVもリリースされているのですが、このPVもどこか前衛的なものになっており、非常に不思議な感覚のするナンバーになっています。

そんなインパクトあるはじまりをする今回のアルバムですが、アルバム全体の特徴として、まずHIP HOP色が非常に強いという点があげられます。MC松島をゲストに迎えた「23時59分」や、彼らと同じROSE RECORDS所属のHIP HOPユニットMGFが参加した「さよならプールボーイ」などラップを取り入れた曲が顕著ですが、例えば「ザッピング」「雨はやんだ」などポエトリーリーディング的な曲もありますし、そのほか、サンプリングなどの手法を取り入れたHIP HOP的なトラックも要所要所で聴くことが出来ます。現在、ドラムスの丸山晴茂が体調不良のためバンドを離れていますが、その影響もあるのでしょう、アルバム全体としてバンド色は皆無となっています。

また、バンド色が薄いというのも大きな理由なのでしょうが、全体的に挑戦的な作品が目立つのも今回の特徴。bonstarが参加した「ジュース」では非常に独特なトラックを聴かせてくれますし、「すべての若き動物たち」はノイズミュージシャンのHAIRSTYLISTICSがリミックスを担当し、ノイズミュージックに仕上げています。曽我部恵一が自由にアレンジを手掛けた結果、自由度の高い、独特で挑戦的な作品が並んでいるアルバムとなりました。

その結果、「DANCE TO YOU」や「Popcorn Ballads」に比べるとポピュラリティーという面では後退したアルバムに仕上がっています。「完全な夜の作り方」をはじめ、後半は歌を中心としたポップなナンバーが並んでいますし、またそれ以外の曲に関しても、きちんとサニーデイらしい心に染みるようなメロディーセンスを感じる部分が少なくないのですが、サニーデイのメロディーラインだけに期待すると、少々物足りなく感じる部分はあるかもしれません。

ただ一方では「DANCE TO YOU」や「Popcorn Ballads」との共通項もあり、その最たる部分が「シティ・ポップ」であることを明確に意識した作品づくりをしているという点。さらにその上でそんな都会をどこか醒めた視点で気だるく描写しているという点でしょう。「Popcorn Ballads」では「東京市憂愁(トーキョーシティブルース)」や「街角ファンク」という曲がありましたが、今回も「Tokyo Sick」という明確に東京を意識したナンバーがありますし、またその一方、アルバムに流れる熱量は全体的に冷めていて、気だるさを感じさせるナンバーになっています。もっともこの「シティポップ」を明確に意識している点と、その上で全体的にどこか醒めた点というのはここ最近の作品に限らず、サニーデイの初期から感じる彼らの特徴。そういう意味ではHIP HOP的な要素を強く取り入れたといっても、サニーデイの根本の部分は全く変わっていない、と言えるのかもしれません。

そんな訳で前々作、前作に引き続き今回も年間ベスト候補の傑作アルバム。ただ、ちょっと気になるのはベクトルが明確に外向けだった「DANCE TO YOU」に比べると、ベクトルが徐々に内向きにシフトしてきている点。実験的な作品が多かったため決して「内輪受けに終始」という印象はないものの、曽我部恵一のソロ作はこの内向きな傾向が大きなマイナス要素だっただけにちょっと気になります。ただ今回のアルバムに関しては間違いなしの傑作アルバム。サニーデイの勢いは全く止まっていませんでした。

評価:★★★★★

サニーデイ・サービス 過去の作品
本日は晴天なり
サニーディ・サービス BEST 1995-2000
Sunny
DANCE TO YOU
桜 super love

Popcorn Ballads
Popcorn Ballads(完全版)


ほかに聴いたアルバム

BACK2THEFUTURETHEALBUM/m-flo

2017年の音楽ニュースの中で個人的に最もうれしかったニュースのひとつがm-floのボーカルにLISAが復活というニュース。m-floのオリジナルメンバーとして数多くのヒット曲を歌ってきたLISAでしたが2002年を最後にm-floを脱退。その後は残ったメンバー2人で様々なボーカルをゲストに迎え活動を行ってきました。もちろん、それからの活動でも数多くの名曲、名コラボを生み出してきたのですが、正直言ってLISAを超えてピッタリとくる組み合わせはなく、どこか物足りなさを感じていたのは事実でした。

そして昨年、ついにLISA復活!そして彼女の本格復活の前哨戦として昨年来、配信で様々なリミックス曲を発表してきましたが、これはそれらの曲を集めた配信限定のリミックスアルバム。彼らの過去の代表曲を様々なミュージシャンがリミックス。基本的にエレクトロ、EDM系のリミックスがメインなのですが、WONKが参加してジャズ風に仕上げたリミックスもあり、彼らの幅広い音楽的興味を感じます。

先日、ついにメジャーデビューシングルと同じタイトルを用いた「the tripod e.p.2」をリリースし、LISA加入後の本格的な活動を再開した彼ら。これから再び彼らが音楽シーンを賑わせてくれそう・・・これからの活動がかなり楽しみです。

評価:★★★★

m-flo 過去の作品
electriCOLOR -COMPLETE REMIX-
Award SuperNova-Loves Best-
m-flo inside-WORKS BEST III-
MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-
m-flo inside-WORKS BEST IV-
SQUARE ONE
m-flo DJ MIX"BON ENKAI"
NEVEN
FUTURE IS NOW

みんなあれについて考えてる/FLYING KIDS

2007年の再結成後、ライブ活動は継続していたもののアルバムはとんとご無沙汰になっていたFLYING KIDSですが、実に6年半ぶりとなるアルバムをリリースしてきました。今回は彼らが1990年にリリースしてヒットした「我想うゆえに我あり」を「新・我想うゆえに我あり」としてリニューアル。全面的に楽しいファンクチューンが連続するアルバムになっています。その一方で「ファンキースター」のようないかにも90年代的なJ-POPのナンバーも目立ち、アルバム全体にどこか懐かしさも感じました。ある意味、彼らがもっとも活躍していた90年代に回帰したように感じるアルバムです。

評価:★★★★

FLYING KIDS 過去の作品
EVOLUTION
LIFE WORKS JOURNEY

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