20年かけて徐々に変化
Title:VESTIGE OF SCRATCHES
Musician:DIR EN GREY
1997年のインディーズデビューから昨年で20周年を迎えたDIR EN GREY。デビュー当初は「人気のヴィジュアル系バンド」という感じにすぎなかった彼らですが、活動の中で徐々にハードコア路線にシフト。それと同時に海外での活動も積極的となり、アルバム「UROBOROS」ではビルボードチャートにもランクインし、大きな話題となりました。
今回のアルバムはデビュー以来の彼らの活動を網羅的に収録したベストアルバム。2007年にもベストアルバムがリリースされていましたが、同作は事務所の意向でリリースされたアルバムでありメンバーも積極的に関わっていませんでしたが、今回はメンバーも積極的に関与。ファンからのリクエストを基にして、最終的にはメンバーにより選ばれた44曲が収録されています。
本作はインディーズのシングルでありながらベスト10入りを記録して話題となった「-I'll-」からスタートしています。いまではインディーズとメジャーの垣根が非常に低くなり、インディーズの作品でも普通にベスト10入りするようになりましたが、当時はインディーズでベスト10にランクインするようなケースは稀であり、その人気のほどが話題となりました。ちなみに同作がアルバムに収録されることはこのベスト盤が初だそうで、そういった点でもファンにとっては注目されています。
その後は基本的にリリース順にCD3枚に収録された今回のベスト盤。それによって彼らのバンドとしての歩みがよくわかる展開となっています。そしてそれによってまず気が付くのが活動が進むにつれて楽曲がどんどんへヴィーになっていくというその流れでした。
正直言えばデビュー当初の彼らについてはよくありがちなヴィジュアル系バンドというイメージ。哀愁感たっぷりのメロディーラインは耳を惹くものの、時としてナルシスティックにすら感じる耽美的な雰囲気は良くも悪くもヴィジュアル系バンドによくありがちなもので好き嫌いはわかれそうな印象を受けます。
その印象が徐々に変わるのがこのベスト盤収録曲でいえば2000年にリリースされたシングル曲「脈」あたり。耽美的なメロディーが主軸となっているもののバンドサウンドのへヴィネスさは増し、デス声も登場しています。
これ以降の初期の作品については、その後の彼らのサウンドを方向性を決定づけるハードコア路線にシフトしていくものの、「umbrella」などパンク的な嗜好も見られ、全体的には今に比べるとバンドサウンドの激しさは増していくものの、へヴィネスさでは今から振り返ると比較的軽めに感じます。もっとも、当時としてはかなり「重くなった」という印象をファンの方は受けていたのかもしれませんが。
Disc2の後半あたりでハードコアでとにかく楽曲を埋め尽くすヘヴィーなサウンドというスタイルはほぼ確立されたような感があります。その結果、比較的最近の曲を収録したDisc3に関しては終始、楽曲を埋め尽くすヘヴィーなサウンドにデス声が展開するという内容に。ある意味、バンドとして振り切れた感もあり、ひとつの完成形というイメージもあります。一方ユニークなのは所々に初期の彼らの楽曲から共通する哀愁感あふれる(時として歌謡曲的でもある)メロディーラインが入っている点。このメロディアスな部分が楽曲の中でひとつの「抜き」となり大きなインパクトとなっています。
こうやってベスト盤を聴くと、バンドは20年かけてここ最近、バンドとしてのひとつの完成形を作り上げてきたんだな、ということを感じます。このタイミングでのベスト盤というのは、デビュー20周年という意味もあるのでしょうが、バンドとして音楽的側面からしても今のタイミングが活動のひとつの区切りとしてちょうどよい、という意味もあったのかもしれません。
今後の彼らの音楽性がさらにどんな変化を見せていくのか、今の段階だとまだわからない部分は少なくありません。ただ、その活動を通じてそのスタイルを変えてきた彼らなだけにおそらく新たな方向性をこれから聴かせてくれるはず。その前のひとつの区切りとしても最適なベスト盤。あらためて彼らの魅力に触れることが出来るアルバムでした。
評価:★★★★★
DIR EN GREY 過去の作品
UROBOROS
DUM SPIRO SPERO
THE UNRAVELING
ARCHE
ほかに聴いたアルバム
AMBITIONS INTERNATIONAL VERSION/ONE OK ROCK
昨年リリースされたONE OK ROCKのアルバム「AMBITIONS」の海外盤。全編英語なのはもちろんのこと、同作のみに収録されている曲もあり、リリース時は国内盤と同時にチャートベスト10にランクインし大きな話題にもなりました。
個人的にこの「AMBITIONS」はいまひとつな凡作というイメージがあったのですが、海外盤に関してはそのイメージは一新。今の彼らの勢いを感じさせるような作品になっています。国内盤ではフックが足りないように感じたメロディーも英語がのるとなぜかインパクトも強く感じるあたり、基本的に同作が英語で歌われることを意識した作品になっていたんだなぁ、ということを感じさせます。もともと洋楽志向を強く感じたアルバムだったのですが、このアルバムを聴くと、むしろこちらの方がメインで、国内盤のほうが海外盤から派生した日本向けのアルバムだったのでは?とすら感じてしまいました。
評価:★★★★
ONE OK ROCK 過去の作品
Nicheシンドローム
残響リファレンス
人生×僕=
35xxxv
Ambitions
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