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2018年3月 5日 (月)

バンドサウンドを取り入れて

Title:The Blue Hour
Musician:キセル

デビュー以来、独特のグルーヴ感を奏でる音楽性で根強い人気を得ている辻村豪文・友晴による兄弟ユニット、キセル。そんな彼らがちょっと久しぶり、約3年ぶりとなるニューアルバムをリリースしてきました。

そんな久々の彼らのアルバム、ちょっと陳腐な言い方になるかもしれませんが、一言で言うと、昨今のシティポップブームに対するキセルからの回答、という表現がまず思い浮かびました。キセルといえば独特の浮遊感のある絶妙なグルーヴ感あるサウンドがとても心地よいバンド。昨今のシティポップ勢の曲から感じられるグルーヴ感とも近似性があるとも言えるでしょう。そして今回の彼らはいままでのキセルの浮遊感を残しつつも、ソウルやジャズの領域にグッと近づいた楽曲を聴かせてくれます。

特にその傾向はアルバム後半に顕著。「来てけつかるべき新世界」はピアノを取り入れてジャジーな雰囲気を醸し出す曲になっていますし、「明日、船は出る」はファンキーなギターが心地よいリズム感を生み出しています。さらに「きざす」ではメロウなワウワウギターが心地よいAORのナンバーになっており、まさにキセル流のシティポップを聴かせてくれるような展開になっています。

そして今回、彼らのアルバムにソウルやジャズのグルーヴ感が入った最大の要因は、いままでの彼らと異なり、生音を多く取り入れたからでしょう。キセルといえばいままでリズムボックスを使用しており、それが彼らのサウンドの特徴となっていました。しかし今回はほぼ全曲において生ドラムを導入。さらにはサックスやフルート、キーボードなヴィブラフォンまで導入。シンプルなギターデゥオだった彼らですが、今回はバンドサウンドを取り入れた楽曲へと変化していました。

それだけに今回のアルバムはいままでの彼らのサウンドに比べて音の厚みが増しましたし、バンドサウンドだからこそ生み出せるもっと生々しいグルーヴ感が大きな特徴となっています。サウンドにはブラジル音楽的な雰囲気を感じたり、いままでにない音の広がりを感じさせるのも、様々なミュージシャンが参加したバンドだからこその音楽性の広がりと言えるかもしれません。

ただ、もっとも楽曲の根底に流れるキセルらしさは今回も変わりありません。例えば1曲目の「富士と夕闇」はどこかドリーミーな雰囲気を感じ、またキセルらしい浮遊感も健在。「二度も死ねない」もシンプルなサウンドの下に流れる浮遊感あるサウンドはまさにキセルサウンド。いままでのキセルらしさももちろんきちんと残っています。

またバンドサウンドで音が分厚くなったといっても、やたらめったら音を詰め込んだ、という訳ではなく、基本的には非常にシンプルなサウンドに徹しており、そういう点でもいままでのキセルらしさは健在といった感じでしょう。今回、バンドサウンドを取り入れ、新たな一歩を踏み出した彼ら。ただもっとも前作「明るい幻」では逆にチープさを追求したようなアルバムになっており、今回のアルバム以降、ずっとバンドサウンドを続ける、という訳ではないようにも思います。とはいえ今回、バンドサウンドを取り入れたことによりキセルの可能性はグッと広がったのではないでしょうか。もちろん今回も文句なしの傑作アルバム。キセルらしい浮遊感と、シティポップ的なグルーヴ感を同時に楽しめるアルバムでした。

評価:★★★★★

キセル 過去の作品
magic hour

SUKIMA MUSICS
明るい幻


ほかに聴いたアルバム

Dagital Native/中田ヤスタカ

サントラのリリースはあったものの、純然たるオリジナルアルバムとしては初となる中田ヤスタカ名義のアルバム。ソロ名義なので、かなり実験的、挑戦的なアルバムになる・・・かと思いきや、内容的にはむしろcapsuleに比べてもかなりポップ寄り。きゃりーぱみゅぱみゅや米津玄師など豪華なゲストも参加しており、インパクトのある売れ線のJ-POP路線といった感じもします。良くも悪くも聴きやすいアルバムで、もうちょっと挑戦的な内容を期待していた身としてはちょっと肩すかしだったかも。ただ、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのような、ミュージシャンイメージに沿ったテーマ性を持った楽曲ではなく、彼が産みだせる様々なタイプのポップソングを並べた自由度の高いアルバムといった側面もあり、そういう意味ではソロらしいアルバムと言えるのかも。

評価:★★★★

中田ヤスタカ 過去の作品
NANIMONO EP/何者(オリジナル・サウンドトラック)

REQUEST -30th Anniversary Edition-/竹内まりや

1987年にリリースされ、ミリオンセラーを記録。日本のポップスシーンに残る「名盤」としての誉れ高い竹内まりやの7枚目のアルバムが、30周年記念盤としてリリースされました。「REQUEST」自体は、アイドルへの提供曲のセルフカバーが多く、そのため全体的なまとまりは薄く感じるのですが、いまなおその暖かくも美しいメロディーラインに心惹かれるエバーグリーンなポップソングが並んでいます。ボーナストラックは、「TEKO'S THEME」「夢の続き」のシングルバージョンや「時空の旅人」の原型であり未発表であった「Good bye」、さらにカラオケが収録。基本的にシングルバージョンはアルバムとさほど大差はなく、ボーナストラックは比較的ファン向け選曲といった感じですが、やはりこういう形でシングルバージョンが収録されるのはうれしい話。内容は文句なしの名盤なので、未聴の方はこれを機に、是非。

評価:★★★★★

竹内まりや 過去の作品
Expressions
TRAD

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