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2018年3月13日 (火)

サラリーマンの悲哀も感じる

Title:おつかれさまです
Musician:ミドリカワ書房

いかにも「おつかれさまです」という言葉がピッタリきそうな、ちょっとくたびれだサラリーマン風のスーツ姿のジャケ写が印象的なミドリカワ書房のニューアルバム。ミドリカワ書房といえば、毎回、かなり奇抜なテーマ設定をした良くも悪くもインパクトある歌詞が大きな特徴でした。そんな中、今回のアルバムは「おつかれさまです」というタイトルにも沿ったような、しがないサラリーマンの哀愁感が漂ったような歌詞がメイン。公式サイトの本作の紹介記事には、彼自身、音楽のみでは食っていけず、長らくアルバイトをやっているという事実が記載されていますが、まさにそんな彼のサラリーマン(というかバイト)生活が反映されたようなアルバムと言えるかもしれません。

そのため今回のアルバムでは前作まで感じられた奇抜なテーマ設定の楽曲はほとんどありません。「笑ってあなたにグッド・バイ」のような離婚調停中の夫婦を歌った曲など、奇抜なテーマ設定の曲もありますが、アダルトビデオについて歌った「のれんの向こう」みたいにユニークな設定ながらも男性として共感できるようなテーマ設定となっているなど、ほとんど曲はリスナーにとっても共感できるようなテーマ性を持っています。

いままでのミドリカワ書房の曲はこの奇抜な設定が大きなインパクトになっていた一方、個人的にミドリカワ書房にほとんど関係ないようなテーマ性に共感ができず、「なぜそんなテーマの歌を歌う必要があるのか」という点で強い疑問を持っていました。

しかし今回のアルバムに関しては通勤途中に出会う女性の片想いを歌った「恋の都営新宿線」や文字通り、会社からの帰り道を歌った「帰路」など、歌詞の途中に彼らしい毒の要素は感じられるものの、基本的には彼の日常に即したようなテーマ性のもった歌詞がメイン。そのためリスナー側にとっても聴いていておかしな疑問を感じることなく、共感できるような内容になっていました。

もっともその結果、歌詞のインパクトという意味では薄れてしまったような印象も受けます。アルバム全体としてもいままでのアルバムに比べると薄味になってしまったようにも感じます。ただ個人的には、いままでのようにインパクトだけが先走ったような奇抜なテーマ設定の曲よりも、今回の作品にように、多少インパクトは薄れても、彼の日常に沿ったような曲のほうが共感が出来、アルバムも楽しめました。今後もこの方向性でより歌詞にインパクトを持たせられるよう目指した方が楽曲がおもしろくなるのではないでしょうか。

楽曲的にはアコギメインのフォーキーな曲があったり、ピアノ弾き語りの「観覧車」のような曲があったり、「のれんの向こう」のようなギターロックの曲があたりとバラエティー豊かながらも基本的には歌と歌詞を聴かせるシンプルなアレンジがメイン。ただ今回ユニークだったのが「もつやき 玄ちゃん」で、歌詞もメロディーもアレンジも、そのまんま「北酒場」。演歌調のメロディーが非常にユニークな楽曲になっていました。

インパクトという面では少々薄味に感じられるものの、方向性としてはおもしろく感じられた今回のアルバム。メジャーからインディーズに戻ってしまい、一時期に比べると話題になることが減ってしまった感もありますが、今回のアルバムは今後に期待できそうな内容でした。次回作をさらに期待したいところです。

評価:★★★★

ミドリカワ書房 過去の作品
愛にのぼせろ


ほかに聴いたアルバム

Fin/10-FEET

オリジナルアルバムとしては5年ぶりというから久々となる10-FEETの新作。ただこの間も自ら主宰する「京都大作戦」をはじめ数多くのフェス、ライブ活動によりむしろ人気はうなぎのぼり。またバンドとしての勢いも感じます。実際、このアルバムも彼らの「本籍」であるメロコアを主軸に、スカ、レゲエ、ポップ、ハードコア、オルタナ系ギターロックなどの要素を幅広く取り入れ、またユーモラスある歌詞も相まって、いままでのアルバム以上に幅のある楽曲で勢いを感じさせます。個人的にはいままで聴いた彼らのアルバムの中で一番の傑作だったかも。いまなお続くバンドとしての勢いを感じさせるアルバムでした。

評価:★★★★★

10-FEET 過去の作品
VANDALIZE
Life is sweet
thread
Re:6-feat
6-feat 2

10-FEET入り口の10曲

mothers/My Hair is Bad

3枚目となるMy Hair is Badのフルアルバム。アルバムチャートでは最高位2位を記録するなど、人気上昇中のバンドです。基本的にはよくありがちなギターロックバンドで、サウンド的には面白味を感じないのですが、恋人同士の心象風景を上手く切り取った具体性ある歌詞が大きな魅力。今回のアルバムに関しても、サウンドやメロディーよりもまず歌詞に耳がいきます。歌詞がいいバンドはいい意味で安定性があり、安心してアルバムを楽しむことが出来ますね。ついつい聴き入ってしまう良作でした。

評価:★★★★

My Hair is Bad 過去の作品
woman's

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コメント

ミクスチャーに傾倒したパンク・サウンドが持ち味の10-FEETですが、「Fin」はそれらに留まらない幅広い音楽性を聴かせていますね。より一層新たな可能性を探そうとする意気込みが伝わってきました。

投稿: ひかりびっと | 2018年4月16日 (月) 21時11分

>ひかりびっとさん
このアルバムはいいアルバムでした。

投稿: ゆういち | 2018年5月12日 (土) 22時54分

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