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2018年3月12日 (月)

驚異的なヒットを続けるベスト盤

Title:Finally
Musician:安室奈美恵

昨年9月、1年後の芸能界引退を突然公表して世間に衝撃を与えた安室奈美恵。今年からスタートした最後のドームツアーもチケットへの応募が殺到いました。そして昨年から今年にかけて大ヒットを続けているのがこの彼女の最後の集大成ともいえるベストアルバム。セールスはトータル200万枚を突破。発売から4ヶ月が経過した今でもいまだにチャート上位を走り続けています。

このアルバムでは安室奈美恵がかつて所属していたSUPER MONKEY'Sのデビューシングル「ミスターU.S.A.」からスタート。もちろん小室哲哉プロデュースにより大ヒットを記録した「Body Feels EXIT」「Chase the Chance」「CAN YOU CELEBRATE?」も収録。昨年の紅白でも歌われた「Hero」にCDでのラストシングルとなった「Just You and I」、配信限定のラストシングルとなった「Hope」まで収録されています。

今回のベスト盤でちょっと意外だったのが小室哲哉プロデュース時代の曲はともかくとしてSUPER MONKEY'S時代の曲も収録されていたという点。正直言って、インパクト満載の小室哲哉時代の曲や本格的なR&B志向にシフトした小室プロデュース以降の曲に比べると平凡なユーロビートのナンバーで音楽的なおもしろみはあまりありません。実力派シンガーというイメージがついた今の彼女と比べるとアイドル志向も強く、ともすれば「黒歴史」化してしまう可能性もあるSUPER MONKEY'S時代の曲も、デビューシングルを含めきちんと収録し、安直に過去を否定しないという態度は立派なものを感じます。

さらに今回、そのデビューシングル「ミスターU.S.A.」から2014年にリリースされた「TSUKI」まで、再レコーディングを実施されています。リアルタイムでの録音音源というのも、それはそれで彼女の歴史を感じられ、あらためてベスト盤として聴きたかったな、という気持ちもあるのですが、あえて今回、過去の曲を録りなおすことには彼女のこだわりも感じさせます。もっとも音源的には過去の曲のアレンジを大幅に変えたものではないため、慣れ親しんだあの曲の雰囲気が大きく変わってしまうのではないか、という心配は不要です。

さて今回のベスト盤の楽曲を聴いてみると、ベスト盤を聴く前からわかりきったことではあったのですが、彼女はそのキャリアにおいて音楽性を大きく2回変えています。まず最初はデビュー直後。上にも書いた通り、SUPERM MONKEY'S時代の楽曲はアイドル色も強いユーロビートナンバーでした。そして大ブレイクした小室哲哉プロデュース時代。この頃の彼女の曲は今の彼女につながるR&B路線を取り入れた曲もあるものの、基本的にサビに強いインパクトを持ってくる、良くも悪くもJ-POP的な楽曲がメインとなっています。そして小室哲哉のプロデュースを離れて現在までは、より本格的志向を強めたEDMやR&Bなど、洋楽テイストが強くなった曲を歌っています。

そして彼女がすごいのは、このそれぞれの時期においてブレイクを果たしているという点です。まず最初は「TRY ME~私を信じて~」で大ブレイクを果たしていますし、その後の小室プロデュース時代の人気はご存じの通り。小室哲哉のプロデュースを離れてからは若干人気が下火になっていたのですが、徐々に人気が再燃。2008年にリリースした「60s 70s 80s」でチャート1位に輝き、それ以降は一定の人気を保ち続けました。

彼女みたいな自ら作詞作曲をするタイプではない「シンガー」は楽曲の雰囲気を変えるとどうしても人気は低迷しがち。実際、小室プロデュースで人気を確保したシンガーでその後、人気を持続させたシンガーは彼女以外ほとんどいません。そんな中、スタイルを2度も変えながらも人気を持続させ続けた彼女には、ある意味驚きを感じるとともに、シンガーとしての確固たる実力を感じざるを得ません。

本作では3枚組のアルバムの中で、リリース順に楽曲が並んでいるのですが、やはり一番秀逸だったのはDisc2。小室哲哉プロデュースを離れて本格派志向にシフトした頃の作品なのですが、楽曲の出来のよさもさることながら、なによりも時代に対して攻めていこうという強い姿勢を感じます。特にチャート1位を獲得した「60s 70s 80s」に収録されていた「NEW LOOK」「ROCK STEADY」「WHAT A FEELING」は、60年代70年代80年代の曲をサンプリングさせつつ、今の時代の音と見事に融合させており、非常に意欲的な試みを成功させた傑作。おそらく彼女にとってはひとつのピークと言えるでしょう。

Disc3には過去の楽曲のほか、今回新曲として(既発表のシングルを含む)6曲があらたに収録。ベスト盤としてのみならず、最後のオリジナルアルバム的な楽しみが出来るのも、ファンにとっては粋な試みと言えるでしょう。ただ、新曲を含めてDisc3の曲に関しては、確かに名曲揃いではあるものの、Disc2の頃の曲と比べると、若干「守り」の姿勢に入ってしまった感もあります。そういう意味では引退の理由として彼女があげている「やりつくした感」は、楽曲を通じても残念ながら感じることは出来ました。

ただ、そんな「やりつくした感」はあるものの、いまなおシンガーとして突出した才能を感じられるのは事実で、今回の引退劇が非常に残念に感じるのは言うまでもありません。個人的にもいつかは行きたいと思っていた彼女のライブに結局行けなかったのも非常に残念で・・・。いつかはまたシーンに復活してくれることを期待しつつ、ただ今はゆっくりと休んでほしい、そう願っています。

評価:★★★★★

安室奈美恵 過去の作品
BEST FICTION
Past<Future
Checkmate!
Uncontrolled
FEEL
namie amuro FEEL tour 2013
Ballada
_genic

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