ECDの「地層」
Title:21世紀のECD
Musician:ECD
先月の終わり、音楽シーンにショッキングなニュースが飛び込んできました。ECD逝去。以前から進行性のがんであることを告白し、療養生活を送ってきた彼でしたが、今年1月24日、わずか57歳という若さでこの世を去りました。
ECDといえば日本のラップ黎明期からシーンで活躍を続けてきたラッパー。特に1996年に日比谷野外音楽堂で行われた伝説的なラップイベント、さんぴんCAMPの主催者としても知られています。もちろんミュージシャンとしてもコンスタントに活動を続け、特にここ最近では反原発や反レイシストなどの社会派的な活動も目立っていました。
本作はそんな彼の2000年以降にリリースされた作品をまとめたベスト盤。本人監修による選曲になっており、リリースは昨年の7月なので決して「追悼盤」ではありません。彼の活動を総括的に振り返るオールタイムベストでもありませんし、彼にとっても活動のひとつの区切りとしてリリースした、という以上でも以下でもなかったベスト盤だったかもしれません。
また2枚組となった本作は1枚目は2000年代、2枚目は2010年代にリリースされた曲という構成になっています。今回のベスト盤リリースにあたり、ECD本人が印象的なメッセージを残しています。それは「『今聴いても古さを感じさせない』それは最高の褒め言葉だ。 しかし僕は前作を古いものにするために新作を作り続けてきた。」というメッセージ。そのため今回のベスト盤はECDにとっての「地層」と位置づけ、1つ1つの曲は「化石」とすら述べています。
今回のベスト盤でも2000年代の作品を聴いていると、サウンド的には非常に時代性を感じる楽曲が目立ちます。一方で2010年代の作品を聴いていると「憧れのニューエラ」で「今のトレンドは似合わない」と歌い、確かにいかにも流行を追っただけのようなサウンドはないものの、低音部のビートを強調したサウンドの構成など、しっかりと今の時代の音もアップデートしており、時代にあった新しい曲づくりも志向していたこともわかります。
また2000年代の作品はブレイクビーツからエレクトロ、ロックやらトライバルな作風やらバリエーションが多く、音楽的により積極性を感じられました。一方で2010年代の作品は、音楽的な方向性は似たタイプの曲が増え、いい意味での安定性を感じます。またポップな作品も目立つようになり、ベテランとして、またラップが日本のミュージックシーンに定着したからこそ生じた余裕みたいなものも感じられました。
一方リリックですが、社会派な活動の目立つここ最近の彼ですが、本作に収録されている曲に関してはさほど社会派な歌詞は多くありません。ただそんな中で非常に印象に残るのが「東京を戦場に」。「もっと戦争を身近なものに」と綴って、逆に反戦を訴えるというロジックがとてもユニークな内容。この曲自体はイラク戦争に対して歌われたそうですが、今でも通じるメッセージとなっています。
またラストに収録されている「ECDECADE」はECDの心境を綴ったリリック。といっても2010年にリリースされたアルバム「Ten Years After」に収録されているナンバーなのですが、これから先を見つめるようなメッセージが込められた楽曲をあえてこのベスト盤のラストに収録するあたり、彼にしてみればこれが決して最後のベスト盤ではなく、これからも活動を続けたい・・・という意思だったのかもしれません。
あらためてベスト盤を聴くと、偉大な才能のあまりにも早い終焉をあらためて残念に思いました。過去の作品を「化石」と呼ぶ彼だからこそ、まだまだ新たな傑作を産み続けられたと思うだけに・・・。改めてご冥福をお祈り申し上げます。
評価:★★★★★
ECD 過去の作品
Three wise monkeys
ほかに聴いたアルバム
陽だまり/ズクナシmeets三宅伸治
ボーカル衣美の産休のため活動休止だったズクナシが活動を再開。その再開直後にリリースされたのがブルースギタリスト三宅伸治プロデュースによる9曲入りのミニアルバム。ゲストになんと山崎まさよしも参加しているという豪華な内容になっています。
楽曲的には1曲目の「めぐる」からいきなりレゲエ調のリズムになっていたり、「ミラーボール・ベイベー」はディスコチューンとなっていたり、活動休止明け一発目からいきなり挑戦的というか、バラエティー富んだ作品になっています。ある意味ご挨拶がわりにズクナシの広い音楽性を発揮したアルバムといった印象。すでにライブを中心に積極的な活動を行っており、今度の彼女たちの活躍からも目が離せなさそうです。
評価:★★★★
super boy! super girl!!/the peggies
最近、数多くのガールズバンドが活躍し人気を集めていますが、彼女たちもそんな現在注目を集めているガールズバンドの一組。そして本作はメジャーデビュー作となる6曲入りのミニアルバム。メロディーはポップでそれなりにインパクトも。基本路線は典型的なオルタナ系ギターロックバンドといった印象。ただ良くも悪くも典型的なJ-POP路線といった感じで、おもしろいなと感じる要素は少なかったかも。最後に収録された「I 御中~文房具屋さんにあった試し書きだけで歌をつくってみました。~」はおもしろいと思いましたが。良くも悪くもこれからのグループといった印象を受けました。
評価:★★★★
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