ミャンマーの幻の楽器
Title:MUSIC OF BURMA Virtuoso of Burmese Guitar~Man Ya Pyi U Tin and His Bama Guitar~
Musician:Man Ya Pyi U Tin
昨年の各種メディアでのベストアルバムの後追い企画。これがラストとなります。ミュージックマガジン誌のワールドミュージック部門で8位を獲得したアルバム。Man Ya Pyi U Tin(マン・ヤ・ピー・ウー・ティン)というミャンマーの楽器、バマー・ギターのギタリストによるソロアルバムでそうです。
バマー・ギターのバマーとはミャンマーの現地での正式な国名を口語的に呼称したもの。ちなみに同じく文語的に呼称すると「ミャンマー」になるそうです。バマー・ギターはハワイアンギターの影響を受けてミャンマーで成立したスライドギター。1940年代から50年代にかけて、無声映画の楽団伴奏などで盛んに演奏されていたものの、トーキー映画の時代となり廃れてしまい、今では幻の楽器と呼ばれるようになってしまったそうです。
ウー・ティンはそのバマー・ギターを演奏する数少ないギタリストの一人。1930年生まれというから御年88歳という彼。これがソロアルバムとしては2作目となるそうです。本作は、ウー・ティンのギターの演奏を中心に、女性ボーカルとしてGermany Pyan Hla Min、さらにパッタラーというミャンマーの伝統楽器(竹琴だそうです)としてLulin Nye Thwe Maung Than Ayeが参加しており、3人での演奏となっています。
アルバムを聴いてまず感じるのは不思議で、場合によってはちょっと「気持ち悪く」すら感じる独特の音階でしょう。ミャンマー音楽は7音階を基礎としているものの、3度と7度のピッチがやや低いという音階となっており、その結果、西洋音楽とは微妙に異なる音色が奏でられます。そのため聴いていて微妙に気持ち悪く感じることもあるかもしれませんが、慣れてくると音がきれいにまとまっている西洋音楽とは異なる微妙なピッチが妙に癖になり、むしろある種の心地よさすら感じてきます。
収録されている10曲は、この手の民族楽器にありがちな伝統音楽ではなく、基本的に大衆歌謡曲がメイン。そういう意味では比較的メロディアスで聴きやすい楽曲が多く、耳慣れないミャンマー音楽にバマー・ギターの音色を楽しむのは最適だったと思います。楽曲の構成はバマー・ギターにパッタラー、そしてボーカルのみ。バマー・ギターもパッタラーも、基本的にリズムを奏でるというよりもメロディーのフレーズを聴いており、曲によってはギターとパッタラーとボーカルの3つのメロディーが同時に流れるような構成になっており、これもちょっと不思議な感覚に。ただ、重なるあうメロディーはちょっとアジアンなエスニックさも加わりつつ、しっかりと独特のハーモニーを奏でており、こちらも慣れてくると非常に心地よく聴こえてきました。
ちなみにパッタラーの音色はマリンバの音色に似ており、爽やかで柔らかい音色。比較的硬質な印象のあるバマー・ギターとは対照的で、この2つの楽器の相性もピッタリ。楽曲に清涼感を与えるのに非常にマッチしていました。
個人的に今回のアルバムの中で印象に残ったのは「KYUN DOT MYAT TAR」という曲。パッタラーとギターがお互い重ならないようなメロディーラインを奏でているのですが、ギターのメロディーが妙にこぶしが効いているような不思議な感覚のあるメロディーを奏でており、耳に残ります。またラストを飾る「BA WA THAN THA YA」も哀愁感あるメロディーラインが印象に残る曲。ギターもさることながら優しく歌い上げるボーカルも印象的な曲になっています。
御年87歳となるウー・ティンのギターは全く衰えることはなく、年を重ねたことによる味わいすら感じられます。楽曲は非常にシンプルなのですが、シンプルなゆえにギターの演奏が強く印象に残るアルバムになっていました。まだまだアジアにも私たちの知らない音色がたくさんありそう。いろいろな意味で非常に興味深くもあるアルバムでした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
MANIA/FALL OUT BOY
FALL OUT BOYの新作はエレクトロサウンドを取り入れたダイナミックなロックサウンドが印象的。エレクトロサウンドの導入は以前から行われていましたが、本作はその方向性がより顕著に。結果として、ちょっとK-POPのアイドルやEXILEあたりが歌ってそうな感じの楽曲にポップの方向性の強いエレクトロロックになってしまっているのがちょっと気になるのですが・・・。若干大味な感じもするものの、ダイナミックなサウンドは素直に聴いていて気持ちよいものがありました。
評価:★★★★
Fall Out Boy 過去の作品
infinity on high
American Beauty/American Psycho
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コメント
FOBの新作は雑多なジャンルのサウンドを一緒くたにまとめてはいますが、FOBらしさはそれ相応に保たれていると思います。完全にパンクやエモからは離れてしまいましたが、普遍的なアメリカン・ポップスとしては優秀ですね。
投稿: ひかりびっと | 2018年2月28日 (水) 07時19分
>ひかりびっとさん
以前からの方向性からはかなり離れてしまいましたね・・・。
投稿: ゆういち | 2018年3月 5日 (月) 23時07分