トランプ批判も大きな話題に
Title:REVIVAL
Musician:EMINEM
EMINEMに関して昨年、大きな話題となった出来事がありました。それは昨年10月に行われた「BET Hip-Hop Awards 2017」での出来事。彼がその場で映像で披露したフリースタイルラップが大きな話題となりました。「The Storm」と名付けられた同作は、ストレートにアメリカのトランプ大統領を非難する内容。かなり強烈にトランプ大統領を罵倒するラップを繰り広げており、それがある種の驚きをもって迎え入れられました。
というのはEMINEMはご存じの通り、白人貧困層から出てきたラッパー。彼を支持するのもやはり白人貧困層が多いと言われています。そしてトランプを大統領とした支持層も同じく白人貧困層と言われ、EMINEMのファンと重なる部分が大きいと言われていました。彼の強烈なトランプ大統領への批判は、ファンを失うようなリスクも大きく、それだけに大きなニュースとなりました。
そしてそんなニュースが大きな話題となる中リリースされたのが、約4年ぶりとなるEMINEMのニューアルバム。前作は「The Marshall Mathers LP 2」というタイトルで、彼の出世作とも言える「The Marshall Mathers LP」を受けてのアルバムとなりましたが、続く新作には「復活」というタイトルを名付けており、彼の新たな一歩への決意も感じることが出来ます(・・・といってもここ最近のアルバムは「Recovery」やら「Relapse」やら「新たな一歩」を彷彿とさせるようなタイトルばかりが続いているような気がするのですが・・・)。
さて、そんな新たな一歩とも言えるアルバムですが、まず聴いた感想として感じたのは、良い意味で非常にわかりやすいアルバムだったな、という点でした。思えばEMINEMといえば以前から、HIP HOPの技法であるサンプリングをHIP HOPリスナーでなくてもすぐわかるような、わかりやすい手法で取り入れてきたり、「マーシャル・マザーズ」というキャラクターを作り上げてHIP HOPの持つ演劇的な部分を強調してきたり、HIP HOPというジャンルのおもしろさを、非常にわかりやすく取り上げてきて、結果としてHIP HOPリスナーではないような層を含めての世界的な大ヒットアルバムを次々とリリースしてきました。
今回のアルバムに関しても、いきなり1曲目「WALK ON WATER」ではBEYONCEをフューチャー。いきなり彼女の歌声からスタートする展開になっており、まずはその歌声に耳を惹きつけられます。その「WALK ON WATER」にしても、「自分はただの人間だ」と綴り、カリスマ的に持ち上げられている自分を自己検証しつつ、自らの感情を吐露する内省的なラップ。この「自分語り」もHIP HOPらしさといえばHIP HOPらしいと言えるでしょうか。ただその感傷的な内容に心惹かれるものがあります。
また「UNTOUCHABLE」や「REMIND ME」ではダイナミックなギターリフが登場。ロッキンなサウンドはロックリスナーの耳を惹きつけるのに十分な楽曲に仕上がっていますし、また、「LIKE HOME」ではアリシア・キーズが、「RIVER」ではエド・シーランが、「NEED ME」ではP!NKが、というようにオールスターキャストとも言えるような豪華なメンバーがゲストとして参加。それぞれ、メロディアスにその歌声を聴かせてくれます。ここらへんの「歌」パートが比較的多いのも、いい意味で聴きやすい要素だったと思います。
わかりやすいサンプリングという意味でも「IN YOUR HEAD」でクランベリーズの「Zombie」がサンプリング。これに関しては「あれ?どこかで聴いたことあるような・・・」と思った方も多いのではないでしょうか。クランベリーズといえば先日、ボーカルのドロレス・オリオーダンが46歳という若さで急逝。それだけにこのサンプリングで聴ける彼女の歌声が非常に印象に残ります。
サウンド的には昨今の流れの中では決して目新しいものではありません。むしろ「The Marshall Mathers LP」がヒットした2000年あたりから大きな変化はなく、そういう意味では今風にアップデートされていない、という言い方も出来るかもしれません。ただ、それだけに安心して聴ける内容でもありましたし、迫力を感じるトラックは彼のラップにもしっかりマッチしているように感じました。
そんな訳で彼の最高傑作といった感じでもありませんし、今のラップシーンを変えるような傑作といった感じでもありませんが、まずはファンとして安心して聴けるEMINEMの良さがしっかりとあらわれた良作だったと思います。
ただ・・・今回のアルバム、国内盤に関して非常に強い不満がひとつあるのですが・・・それは国内盤に和訳がついていないこと。EMINEMの曲は歌詞も大きな魅力。しかし今回のアルバムは和訳がついていなかったので歌詞の内容がほとんどわかりませんでした。
確かにここ最近、ネットへの流出を阻止するためにおそらく事前に楽曲の内容がわからなくて、和訳が間に合わないという事情もあるのでしょうし、EMINEMのようなラップの歌詞はスラングが多すぎて、簡単に訳が出来ないという事情もあるのでしょう。ただ、ただでさえCDが売れなく今、和訳のような付加価値をつけないと誰もCDなんて買わなくなるよ。国内盤のリリースが1ヶ月くらい遅れてもよかったので、せめて和訳をつけてほしかった。こういうことって、あきらかにレコード会社にとっては自分で自分の首を絞めているようなもんだよなぁ。こんなことをやっているようじゃあ、CDなんて売れないよ(苦笑)。
評価:★★★★★
EMINEM 過去の作品
RELAPSE
RECOVERY
THE MARSHALL MATHERS LP 2
ほかに聴いたアルバム
CHRONOLOGY/Chronixx
リアルタイムで聴きそびれた各種メディアの年間ベストアルバムを遅ればせながら聴くシリーズ。今回はミュージックマガジン誌のレゲエ部門で1位を獲得したジャマイカ出身のレゲエミュージシャンの新作。「レゲエ界の若きカリスマ」「ボブ・マーリーの再来」とも呼ばれる注目のミュージシャンで、昨年のフジロックへも出演しています。
彼のレゲエは横ノリのリズムがとても心地よく、哀愁感あるメロディーラインも心に残ります。ただ今回のアルバム、特に後半はソウルテイストの強い曲や、むしろAORに近いような曲もあり、レゲエっぽくない曲も目立ちます。そういうこともあり私自身、決してレゲエは好んでよく聴くようなジャンルではないのですが、そんな私でも非常に楽しめたアルバムでした。
評価:★★★★★
Afreekanism/Adedeji
こちらも上と同様、年間ベストを後追いで聴いたアルバムで、こちらは同じくミュージックマガジン誌のワールド・ミュージック部門で4位を獲得したアルバム。ナイジェリアのギタリストによるアルバムで、アフリカらしいトライバルなサウンドの中にアーバンソウルやファンク、ラテンなどの要素を取り入れているのがユニーク。特に後半になるほどジャズの要素が強くなり、まさに「アフロジャズ」ともいうべき本作。若干、ジャズの要素が強くなりすぎて、個性が薄くてちょっと平凡かも・・・と思うような曲もありましたが、ジャズを中心に様々な要素を取り込んだ楽曲が非常にユニークな作品でした。
評価:★★★★★
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