今の世界に対する強いメッセージ
Title:If All I Was Was Black
Musician:Mavis Staples
Mavis Staplesのニューアルバムは2013年にリリースしたアルバム「One True Vine」に続き、WilcoのJeff Tweedyのプロデュースによる新作。その「One True Vine」のアルバム評でも書いたのですが、彼女はもともとゴスペル、ソウルグループのThe Staple Singersとして活躍し、60年代から70年代にかけて数多くのヒット曲を世に送り出してきたシンガー。現在、御年78歳という大ベテランという彼女ですが、いまだに精力的な活動を続けています。
これも「One True Vine」の感想で書いたのですが、彼女のボーカルはゴスペルフィーリングなボーカルながらも、日本でいうゴスペルのイメージに沿ったような歌い上げるボーカルではなく、非常に抑えた歌声で、力強く歌うスタイルが印象的。その魅力的な歌声は78歳となった今でも全く衰えていません。
基本的にはサザンソウルやゴスペルという、60年代70年代の雰囲気を色濃く残すサウンドが特徴的。例えば本作でも、Jeff Tweedyが作曲を手掛ける「Little Bit」はグルーヴィーなギターサウンドが黒いリズムを生み出しているソウルナンバー。「Peaceful Dream」ではアコースティックギターと手拍子をバックにゴスペル風のボーカルとコーラスラインで歌い上げています。
ただ一方ではロックやファンクの要素を感じる楽曲が多かったのも大きな魅力。「Who Told You That」でもヘヴィーなギターリフでファンキーな楽曲に仕上げていますし、「No Time For Crying」もテンポよいリズムのファンクチューンとなっています。
ほかにも「Ain't No Doubt About It」はフォーキーな雰囲気に仕上げていますし、ソウル、ゴスペルを基盤としてルーツ志向の古き良きアメリカンミュージックを奏でているという印象。なによりもそれらの楽曲に共通する優しくも力強いボーカルがまず心に染みるアルバム。ラストの「All Over Again」はギター一本で歌う、まさに彼女のボーカルにスポットを当てたような楽曲で締めくくられています。
さて本作、そんな楽曲自体の魅力もさることながら、メッセージ性が非常に強いアルバムという点も大きな特徴となっています。タイトルチューンの「If All I Was Was Black」も「愛」を高らかに歌い上げ、現在のアメリカに対するメッセージとなっていますし、「Who Told You That」では"Oh, they lie. And they show no shame."(彼らはうそをつく。そして彼らはそれを恥じない)という皮肉的な歌詞も登場。また「Try Harder」の"There's evil in the world and there's evil in me"(世界中に「悪」はある。そして私の中にも)という歌詞も、排外主義がはびこりつつある今の時代に対する強烈なメッセージとなっています。
そしてそんなメッセージを残しつつ、最後に締めくくる「All Over Again」では、"The world gets cold.Sometimes I have regrets"と今の世の中に対する後悔をにじませながら、それでも最後は"I'd do it all over again"と前向きな力強いメッセージを残し、アルバムは幕を下ろします。
まさに排外主義がはびこり、世の中が分断しつつある今だからこそ彼女が伝えたいメッセージがつまったアルバム。そしてそのメッセージは力強い彼女の歌声によって強く心に響いてきます。上にも書いた通り、現在78歳の彼女。しかし、そんな年を全く感じさせないような現役感あふれるアルバムになっていました。
評価:★★★★★
Mavis Staples 過去の作品
One True Vine
ほかに聴いたアルバム
Cajun Accordion Kings(And The Queen)
まだまだ続いています。2017年各種メディアでのベストアルバムのうち聴きのがした作品を聴くシリーズ。今回は「BLUES&SOUL RECORDS」誌ベストアルバム第3位のアルバム。ケイジャン(=ルイジアナ州に定住したフランス系移民、ケイジャンによって始められたダンス音楽)のうちアコーディオンによる作品が並んだオムニバスアルバム。基本的にはアコーディオンのみの演奏で、うち1/3は歌モノというスタイル。どこか哀愁感ただようメロディーながらも軽快で楽しいダンスミュージックが並ぶ作品。アコーディオンのみの演奏のため、良くも悪くも地元のミュージシャンによる演奏をそのままパッケージしたような生々しさ、荒々しさも感じるアルバムでした。
評価:★★★★
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