映像で「アフリカ」を楽しむ
今日は最近見た映画の紹介です。
以前、アフリカ・コンゴのミュージシャン、Kasai Allstarsの「AROUND FELICITE(邦題 わたしは、幸福(フェリシテ)サウンドトラック)」を紹介しました。今回、このサントラ盤の基となった映画「わたしは、幸福(フェリシテ)」が名古屋でも上映されるということで、早速、見に行きました。
2017年・第67回ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)受賞作としても話題となった本作は、フェリシテ=幸福という名前を持つ女性の物語り。彼女はコンゴの首都、キンシャサのバーで歌いながら一人息子を育てているシングルマザー。ある日、その一人息子が事故にあったものの、手術するためには多額の資金が必要となります。彼女はその資金を集め始めるのですが・・・というお話。
なんといっても気になったのがKasai Allstarsが楽曲を提供しているだけではなく映画にも参加しているという点。フェリシテのバックバンドとして出演しており、映画でもその演奏を披露していました。
そんなKasai Allstarsの演奏はまさに現地でのライブの雰囲気をそのまま映像で再現しているようなステージ。あくまでもフェリシテのバックバンドという扱いなので彼らの演奏が映像的にクローズアップされることはないのですが、コンゴでのライブの雰囲気がそのまま伝わってくるような演奏がおさめられています。フェリシテ役をつとめるヴェロ・ツァンダ・ベヤは本当の歌手ではないのですが、迫力満点のボーカルで演奏の中でも全く違和感ありませんでした。
残念ながら映画の中でライブ演奏のシーンはさほど多く、予想していたほど音楽の側面が強調された映画ではありませんでしたが、アフリカの音楽が好きなら否応なしに惹かれてしまうライブシーンがおさめられており、これは一見の価値あり。Kasai Allstarsのライブの雰囲気の一端を味わうことが出来ました。
さて、肝心の映画の方ですが、映画の作り方として余計な装飾をそぎ落とした非常にシンプルな構成となっています。途中に流れるKasai Allstarsをバックとした演奏と、フェリシテの心象描写として流れてくる中央アフリカ唯一の交響楽団であるキンバンギスト交響楽団の演奏以外は効果音を含めて一切の音楽はなし。キンシャサの街の音がそのまま流れてきています。
またセリフもナレーションももちろんのこと、説明的なセリフも一切なし。フェリシテをはじめとする人々の会話をそのまま収録したような内容になっています。そのため、正直言えば状況や人間関係がわかりにくい部分もあり、特に説明過多な日本の映画などに慣れていると、ちょっと馴染みにくい部分もあるかもしれません。
ただ、一方で映画にある意味ドキュメンタリー的な雰囲気が加わり、映像に強いリアリティーを感じました。特にコンゴ・キンシャサの風景や日常をそのまま切り取ったような映像が続くため、映画を見ていると自分たちもキンシャサの街に降り立ったようなそんな錯覚すら覚えます。ある意味、アフリカに強い興味を持っている人にとっては非常に興味深い映像の連続だったかもしれません。私も映画を見ている中で、まるでキンシャサにトリップしたような感覚を覚え、それがこの映画の魅力の一つのように感じました。
ストーリーの方は息子の交通事故から必要なお金を集められず絶望を覚える彼女ですが、後半は徐々に日常生活の中で幸福を見つけ出します。最初は貧乏な生活で苦しむ女性を描いた悲しい映画かと思いきや、どちらかというと女性一人でたくましく生きていこうとする彼女が息子の交通事故という出来事の中で苦しみつつも、人との交流の中で徐々に心をひらいていきささやかな幸せを見つけ出すという、日本で生きる私たちにも通じるような内容。見終わった後はどこか爽やかな感触の残る、後味のとても良い映画だったと思います。
正直、後半に関してはちょっと淡々とした構成になっており、ドラマチックな展開があまりありませんし、上にも書いた通りわかりにくい部分も多いため万人にお勧めといった感じではありませんが、アフリカ音楽が好きな方やアフリカに興味がある方は十二分に楽しめる映画だと思います。お勧めです。
以下、ネタバレの感想
まず上にも書いた通り、良くも悪くもわかりにくい部分は多いです。映画の途中でキンバンギスト交響楽団の演奏が入るのですが、楽団員の演奏がそのまま映像でも映し出されます。映画の筋とは全く関係ない演奏の映像に、最初はわけがわからなくなるのではないでしょうか。他にもフェリシテの内面を描いた幻想的な映像が映画の中で突然登場します。説明過多な映画は個人的にうんざりなのですが、こちらはこちらでちょっとわかりにくすぎるような印象も受けました。
ストーリーの方も、前半は息子のためになりふり構わず手術の代金を集めようとする展開は非常にわかりやすく、おもしろかったのですが、結局、片足を切断することになってしまった後についてはストーリーの展開もゆっくりとなります。基本的にはフェリシテがタブーという男性に、徐々に心を開いていく一種のラブストーリー的な展開になるのですが、わかりやすいドラマチックな展開もないため、正直言うと、若干「退屈」という印象も受けてしまいました。
それでも後半、なにげない日常の中で徐々に心を通わせていくフェリシテとタブーの物語りにはちょっとドキドキさせられる部分もありますし、なによりも片足を失った息子が最初は心を閉ざしつつも、最後は松葉づえを使って前向きに動き出そうとする、未来を感じさせる描写があったりと、上にも書いた通り、見終わった後に感じるある種の爽快感が心地よく感じました。
なんだかんだいっても気が付いたら2時間超の時間が過ぎていただけに、十分に楽しめた映画だったと思います。アフリカの空気感を楽しめたとともに、フェリシテの心境は私たちにも通じる部分もあった、そんな作品でした。
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