王道路線
Title:Songs Of Experience
Musician:U2
U2の約3年ぶりとなるニューアルバム。前作「Songs of Innocence」はiTunesユーザーには強制的に楽曲が無料配信されるというリリース形態が大きな話題となりました。iPhoneユーザーにとってはU2が好きか嫌いかに関わらず、無理やりダウンロードされるという仕様だったため一部ではかなりの反発を巻きおこしたことも話題となりました。
そんな良くも悪くも話題となった前作から早くも3年。今回の新作は前作とは対となるアルバムだそうで、今回のアルバムタイトルはイギリスの詩人、ウィリアム・ブレイクの詩集「Songs of Innocence and Experience(“無垢と経験の歌”)」からとられているとか。本作に収録されている楽曲は彼らの親しい人たち、あるいは彼ら自身に対する「手紙」という形を取られているそうで、さらに話題となったのは今回のジャケット写真。若い2人の男女の写真なのですが、この2人、なんとボノの息子とジ・エッジの娘らしいです(!)。
さてU2のアルバムといえばここ最近、原点回帰的な、いわばU2の王道路線を行くような作品が続いていましたが今回のアルバムもその延長線上のアルバム。ある意味、実にU2らしいポップなメロディーラインにスケール感あるサウンドを聴かせる楽曲が目立ちました。
出だしの「Love Is All We Have Left」こそ幻想的な雰囲気でスタートするのですが、続く「Lights Of Home」は力強いドラミングとへヴィーなギターサウンドが印象的なロックナンバー。さらに「You're The Best Thing About Me」はまさにU2!といった感じのスケール感あるギターロックナンバー。途中、突然転調してサビに突入し、サビの最初に楽曲タイトルが歌われるという、ある意味典型的なJ-POP的構成になっていて、良くも悪くも「わかりやすい」ナンバーになっているのが特徴的。ただアルバム前半のひとつのインパクトになっています。
またアルバムの中のひとつの目玉が「Get Out Of Your Own Way」。こちらもメロディアスでスケール感あるU2らしいナンバーなのですが、ラストにケンドリック・ラマーがラップで参加しており大きな話題となりました。このラップ、アジテーショナルなラップになっているのですが、楽曲はこのラップが重なるような形で続く「American Soul」に突入。この曲、ギターリフを中心に構成されたヘヴィーなロックチューンなのですが、「難民」という言葉が登場するなど、あきらかにトランプ政権後のアメリカに対するメッセージを歌った曲。こちらもU2らしいテーマ性ある楽曲になっていました。
一方、スケール感がありインパクトもあった前半に比べると後半は比較的地味めなナンバーが続きます。もっとも、このアルバムの中でも特に軽快でポップ路線が強い「The Showman(Little More Better)」やミディアムテンポの伸びやかなメロディーラインを美しく聴かせる「Landlady」、軽快なリズムでダンサナブルな「The Blackout」と、バリエーションをもたせつつしっかりと聴かせる展開は変わらず。そしてラスト「13(There is A Light)」はピアノとストリングスの美しいサウンドで、しんみりとメロディーラインを聴かせるナンバーで締めくくられ、心地よい余韻を残しつつアルバムは幕を閉じます。(ただこの後に5曲にも及ぶボーナストラックがあるのですが・・・)
そんな訳で、彼ららしい王道路線が貫かれた良い意味で聴きやすいアルバムだった一方、ケンドリック・ラマーが参加しているなど、現在のシーンにもきちんと目を配っている点も印象的だったアルバム。そのため、サウンド的には決して古くなることはなく、今の時代でも違和感なく聴けるようなサウンドに仕上がっています。ベテランバンドとしての実力と、さらにある種の余裕も感じられる作品。さすがの傑作でした。
評価:★★★★★
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