銀熊賞受賞作のサントラ盤
Title:AROUND FELICITE(邦題 わたしは、幸福(フェリシテ)サウンドトラック+REMIX)
Musician:Kasai Allstars
今回紹介するのはKasai Allstarsの新作。Kasai Allstarsについては以前も紹介しましたが、コンゴのカサイ州出身の5つのグループのメンバーからなるバンド。そんな彼らの新作は、映画わたしは、幸福(フェリシテ)」のサウンドトラック。2017年の第67回ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)受賞作で、フランス語で「幸福」という意味を持つフェリシテという名前の女性の物語。コンゴの首都キンシャサのバーで歌いながら、ひとり息子を育てているシングルマザーのストーリーだそうです。
サントラ盤、といってもよくありがちな映画で使われているBGM的な楽曲が何曲も収録されている、といった感じの構成ではありません。物語の主人公が歌手ということもあり、映画でも音楽が効果的に用いられているようで、今回のアルバムも普通にKasai Allstarsの楽曲が収録されており、サントラというよりもKasai Allstarsのオリジナルアルバムとして楽しむことが出来ます。
ちなみにKasai Allstarsでは映画の中でもバンド役として出演。主人公のフェリシテはKasai Allstarsの演奏をバックに歌う役柄だそうで、そのためアルバムの中でも女性ボーカル曲が数多く収録されています。ただ、その女性ボーカルも楽曲の中では決して違和感にはなっておらず、Kasai Allstarsの中で自然に溶け込んでいます。
そしてその楽曲は親指ピアノの美しい音色と、電子リケンベのすさまじくノイジーなサウンドの対比をきかせつつ、打楽器をバックに疾走感とうねるようなリズムの元に独特なグルーヴ感を醸し出しています。例えば「Kapinga Yamba」がその典型例。強靭なグルーヴが聴くものを軽くトリップさせるような魅力を楽曲から感じさせます。
ほかにもギターのブルージーな音色が耳を惹く「Lobelela」やお祭り的な楽しさを感じさせる「Bilonda」、親指ピアノのミニマルなサウンドがトリップ感を誘う「Quick As White」など、基本的なサウンド構成は同じながらも、楽曲毎にバリエーションも感じられ、最後まで一気に楽しめる構成になっています。
一方、今回のアルバム、Kasai Allstarsの楽曲だけではなく、中央アフリカ唯一の交響楽団であるキンバンギスト交響楽団の演奏によるエストニアの現代音楽家、アルヴォ・ペルトの楽曲がKasai Allstarsの曲の合間に挿入されています。劇中、主人公の内面を描いたシーンで使用されるそうですが、Kasai Allstarsのトライバルな演奏の合間に突如収録される管弦楽には正直言って少々違和感も。ただ、同じコンゴの音楽家による演奏という意味で、アフリカの音楽シーンの幅の広さを感じさせる構成にはなっていました。
そしてDisc2はリミックスとしてKasai Allstarsの曲を世界の新進気鋭のDJたちによってリミックスした曲が収録されています。基本的に彼らのトライバルな楽曲にエレクトロサウンドによるリミックスをほどこしたような内容に。個人的にはリミックスによって彼らの楽曲がいわば洗剤によってきれいに洗い流されてしまったような感があり、原曲の、よりトライバルな荒々しい部分が出ている楽曲の方が好みなのですが、ただ基本的には原曲の持っているトランシーなグルーヴ感をそのまま生かしたようなリミックスが多く、これはこれでKasai Allstarsの楽曲の持つ、別の側面からの魅力を感じることが出来るアレンジになっていました。
映画を見ていなくてもKasai Allstarsのニューアルバムとして十分すぎるほど楽しめる傑作アルバムでした。ただ一方、映画の方も彼らの音楽がふんだんに利用されているようで、音楽映画的な側面も強そう。機会があれば映画も見てみたいな。そんなことも感じさせる、ある意味映画のサントラ盤としては理想的な内容のアルバムでした。
評価:★★★★★
Kasai Allstars 過去の作品
Beware the Fetish(コンゴトロニクス 5 〜ビーウェア・ザ・フェティッシュ)
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