弱者の視点によりそう
Title:豊穣なる闇のバラッド
Musician:中川敬
ちょうど2年ぶりとなるソウルフラワーユニオンのボーカル、中川敬の4枚目となるソロアルバム。今回のアルバム内容については実はちょっと心配していました。というのも私は個人的なTwitterで以前からソウルフラワーユニオンをフォローしていたのですが、最近、フォローをはずしたのです。以前からSFUの公式Twitterは左翼的な政治的発言が多く、その方向性自体は私自身の政治信条と重なる部分があるので問題は感じなかったのですが、ただ最近、彼自身の発言ではなかったのですが、さすがにちょっと行きすぎではないかと思うような発言をリツイートしたりすることがあり、そのスタンスに疑問を感じていたためです。
今回のアルバム、全14曲入りなのですが、うち後半の5曲がカバー&セルフカバー、残り9曲が今回のアルバムのためのオリジナルという構成。歌詞カードに注釈がついており、オリジナル楽曲の多くに社会派的な意味合いが説明されていたり、さらに「あばよ青春の光」では
丘の上の議事堂で 法案が可決する
路上の怒号がモノクロの 都を染め抜いてゆく
(「あばよ青春の光」より 作詞 中川敬)
という、あきらかに国会前のデモを描写する歌詞が登場したりしています。楽曲に社会派的な主張を入れてくるのは全く構わないどころか個人的に賛同するのですが、ちょっと行き過ぎな内容になっていたり、堅すぎる内容になっていたりしないか、聴く前は危惧していました。
ただ、結論としてはそんな危惧が杞憂に終わるアルバムになっていました。確かに歌詞カードについている注釈に即するようなメッセージ性の強い歌詞にはなっています。ただイデオロギー的な主張を全面的に繰り広げる歌詞ではなく、彼の持ち味である社会的な弱者の視点に沿った優しい歌詞がメイン。社会的なメッセージ性という意味合いではむしろ前作「にじむ残響、バザールの夢」の方が強く感じ、こちらのアルバムはむしろ中川敬の持つ弱者への優しい視点という側面が強く表に出ている内容になっていました。
今回のアルバムは中川敬のアコースティックギター1本のみによる演奏がほとんど。それだけによりボーカルとメロディー、そして歌詞がダイレクトに伝わってくるアルバムになっています。ただそれだけに歌詞もそうなのですが、それ以上にメロディーラインが胸にうつのが今回のアルバム。上に書いた「あばよ青春の光」では切なさを感じさせるメロディーが印象に残りますし、「ハクモクレンの空を撃つ」もSFUでもよく取り入れているアイリッシュトラッドの要素が強く、爽快感を感じるナンバーになっています。
「バルカンルートの星屑」で歌われる「バルカンルート」はヨーロッパへ向かう難民が通るルートのことだそうですが、この曲も戦争について歌うというよりはバルカンルートを行く難民の姿をそのまま描写した歌詞をしんみりフォーキーに歌い上げた内容。その現実の難民の姿を描写した歌詞が胸をうちます。
後半のカバー曲もなかなかユニークな選曲。「黒の舟唄」はもともと野坂昭如が歌っていた曲。非常に暗い雰囲気の曲ながらも男女関係を歌った歌詞が哀しくもどこかユニーク。桑田佳祐をはじめ数多くのミュージシャンがカバーしている、ある種スタンダードナンバー的な曲なのですが、これをアコギ一本でちょっと情念的な雰囲気を込めて歌い上げるカバーはなかなかの絶品。さらに意外だったのがオリジナル・ラヴの「接吻」のカバー。これをアコギのみでカバーしているのですが、意外とフォーキーなアレンジと中川敬のボーカルにもマッチしているのは新しい発見でした。
その他はソウルフラワーユニオンの「青天井のクラウン」やニューエスト・モデル時代の「報道機関が優しく君を包む」をカバーしています。こちらはもともとのオリジナルも本人の曲なだけに手慣れたもの。「報道機関が優しく君を包む」は原曲はかなり賑やかなアレンジの祝祭色のある楽曲なのですが、これをアコースティックギターのみで上手くカバー。原曲とはまた違った哀愁感漂うカバーに仕上げていました。
そんな訳で当初感じていた危惧に反してアルバムの出来としては非常に満足感の強い傑作アルバム。中川敬というミュージシャンのメロディーメイカー、作詞家、さらにはボーカリストとしての魅力をより強く感じることが出来るアルバムに仕上がっていました。個人的には今年のベスト盤候補の1枚といってもいい内容。彼のソロアルバムとしても傑作だった「街道筋の着地しないブルース」に匹敵する出来だったように感じます。あらためてさすがの一言。ただ、そろそろソウルフラワーユニオンのアルバムも聴きたいのですが・・・。
評価:★★★★★
中川敬 過去の作品
街道筋の着地しないブルース
銀河のほとり、路上の花
にじむ残響、バザールの夢
ほかに聴いたアルバム
502号室のシリウス/グッドモーニングアメリカ
前作からわずか10ヶ月のスパンでリリースされたグッドモーニングアメリカ。相変わらずハイトーンボイスで疾走感あるギターロック路線で、良くも悪くも今時のフェス受けしそうなバンド。ポップなメロはそれなりにインパクトはあるものの、似たような曲が多く、徐々にだれてしまいました。
評価:★★★
グッドモーニングアメリカ 過去の作品
inトーキョーシティ
グッドモーニングアメリカ
鉛空のスターゲイザー
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