コンプレックスはアートなり!
Title:PINK
Musician:CHAI
ここ最近、急激に注目を集めている女性4人組バンド。このデビューアルバムもいろいろなメディアで大きく取り上げられているのでそのバンド名を目にした方も多いのではないでしょうか。話題のバンドということで今回、このアルバムではじめて音源を聴いてみたのですが・・・
完全にはまってしまいました(笑)。
このバンド、「NEOかわいい」「コンプレックスはアートなり」をバンドコンセプトとして活動を行っています。正直言って、お世辞にもアイドル的人気で勝負できるバンド、という感じではありません。ただ、そういうルックス的な側面を逆にバンドのコンセプトとして勝負をかけているのがユニーク。例えば「N.E.O」では
「目ちっちゃい 鼻ひくい くびれてない 足太い
ナイスバディ!オーライ!
NEOかわいい
change the world」
(作詞 ユウキ 「N.E.O」より)
なんていうコンプレックスになりそうな外見的要素をポジティブに歌い上げていますし、「sayonara complex」でも
「飾らない素顔の
そういう私を認めてよ」
(作詞 CHAI 「sayonara complex」より)
というルックスだけで勝負することを否定的に歌っています。
こういったルックス的なコンプレックスを高々と歌うバンド、男性バンドでは決して珍しくありませんでした。ただ一方女性バンドでは、確かにルックス的には、というバンドもいままでありましたが、コンプレックスをあえてバンドのテーマとするバンドはほとんどいなかったように思います。あえて言えばGO!GO!7188が「ブサイク」を前面に出していましたが、楽曲的にはそういった要素を取り入れた曲はありませんでした。
そんな中、彼女たちのようにコンプレックスをあえて表に出してくるバンドの登場は非常に興味深く感じます。特に昨今、アイドルブームで男性的な視点の女性像を押しつけられているアイドルが音楽シーンで大手を振る中、このような女性像にあえてアンチを唱えるようなバンドが出てきたというのはとても頼もしく感じられます。
また彼女たちの歌詞は、そんな押しつけられたような女性像に、ある種のフェミニスト的な言説を声高に唱えている訳ではなく、とてもユーモラスに歌いつつ、ちょっと皮肉的な歌詞でチクリと風刺しています。だからこそ、彼女たちの歌詞は男性でも嫌味なく楽しめることが出来ます。
ただ、彼女たちの最大の魅力はこの歌詞の世界観ではありません。もちろん歌詞のコンセプトも大きな魅力であるものの、最大の魅力はこの歌詞の世界観をしっかり支える彼女たちの音楽性のユニークさだと思います。
彼女たちのサウンドは非常にシンプルでタイト。ただ、足腰のしっかりとした分厚いリズム隊のサウンドでしっかりと支えており、ロックバンドとしての実力を感じさせます。そしてそんなバンドサウンドを軸としつつ、「N.E.O.」や「ボーイズ・セコ・メン」ではラップを取り入れたり、「ほれちゃった」ではシティポップ的な要素を取り入れたり、「ウォーキング・スター」ではファンク的なサウンドを聴かせたり、基本的に今時のブラックミュージックからの影響を感じさせつつ、それをパンキッシュなバンドサウンドと上手く融合させています。
ただ、全体的にはアバンギャルドでパンキッシュな要素を強く感じさせます。ラップやアシッドジャズ的な要素を感じることから、CIBO MATTOとの類似性をよく取り上げられますが、一方、アバンギャルドでパンキッシュという点から、個人的には例えばメスカリン・ドライブや少年ナイフあたりのガールズパンクバンドからの流れも強く感じます。
さらに彼女たちに関してユニークなのは、そんなブラックミュージックやらパンクやらの要素を感じつつも、同時にポップにコーティングされているという点でしょう。ボーカルをつとめるマナ、カナの双子の姉妹はハイトーンボイスでかわいらしい歌声で歌い上げており、そのためアバンギャルドな音楽性がかなりポップに中和されています。「かわいいひと」のようなエレピ1本で聴かせるポップソングや「フラットガール」のようなポップなメロを前に出した曲など、メロディーを前面に出した楽曲に関しては、そのポップなメロディーラインに彼女たちのメロディーセンスの才能も感じます。アバンギャルドでありつつも同時にポップスさを兼ね合わせている彼女。歌詞の内容についても尖った主張がありつつもユーモラスにまとめあげており、いい意味で非常に聴きやすいポップな楽曲を聴かせてくれる点がとても魅力を感じます。
様々な音楽性を同包しつつ、タイトな力強いリズム隊の演奏でしっかりと聴かせる楽曲は非常に中毒性も高く、わずか30分強というアルバムの長さもあり、ここ最近、アルバムを繰り返し聴くなどすっかりはまってしまっています。このアルバムも間違いなく今年のベスト盤候補になる傑作。そのバンドコンセプトや音楽性など、間違いなく2017年を代表する重要バンドだと思います。全音楽ファン一度は聴いてみてほしい1枚です。
評価:★★★★★
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コメント
ゆういちさん、こんばんは。
CHAIは久々に現れた本来の意味でのオルタナティブバンドだと個人的には思います。その唯一無二の個性のまま突っ走っていってほしいなって思います。
投稿: 通りすがりの読者 | 2017年12月13日 (水) 01時03分
>通りすがりの読者さん
そう!本当に本来の意味でのオルタナティブバンドですね。久々におもしろいバンドに出会ったという感じです。これからもこの路線で突っ走ってほしいです!
投稿: ゆういち | 2017年12月13日 (水) 23時41分