政権の腐敗!
Title:MASSEDUCTION
Musician:St.Vincent
お尻(笑)なジャケットがまず強いインパクトのある本作は、ニューヨーク・ブルックリンを拠点として活動を続ける女性シンガーソングライター、St.Vincentのニューアルバム。セルフタイトルとなった前作は各種メディアで絶賛され、年間ベストでも軒並み上位にランクインし大きな話題となりました。それに続く本作は前作の評判を反映してか、全米ビルボードチャートでベスト10入りを記録。イギリスのナショナルチャートでも6位を記録するなどヒットを記録しています。
まず今回のアルバムで日本人にとっては一番インパクトがあったのは表題曲の「MASSEDUCTION」の冒頭。いきなり「政権の腐敗!」という日本語の叫び声の繰り返しがそのまま入っており、日本人にとってはちょっとドキッとさせられます。ちなみに日本語版にはラストにこのフレーズを中心に再構成した「政権腐敗 (Power Corrupts)」という日本語曲(!)も収録されています。
さて、日本人にとってはそんなインパクトある曲が収録されつつ、今回のアルバム、ギターサウンドが印象に残った前作に比べるとエレクトロなサウンドが前に押し出されたポップソングが並ぶ作品となっています。伸びやかなボーカルで聴かせるメロが印象的な1曲目「Hang On Me」も静かな打ち込みのリズムが主導した作品ですし、「Pills」もシンセのサウンドが軽快でリズミカルなポップソングに仕上がっています。
特に「Sugarboy」は軽快なテクノポップチューンになっており、ちょっとエキゾチックな雰囲気は東洋的な雰囲気も感じさせるナンバー。後半にも「Young Forever」のようなテクノポップ的な色合いが強い曲が並んでおり、エレクトロテイストの強い作風になっています。
もっとも途中、「Fear The Future」のようなインダストリアルな曲も入っていたりしますし、楽曲の途中でノイジーなギターが挿入される曲も少なくなく、今回の作品でもしっかりとダイナミックなギターサウンドが主張している曲も少なくありません。全体的には「宅録」的なイメージがあるのは前作と同様。前作も打ち込みのサウンドを取り入れていましたし、そういう意味ではエレクトロな部分を前に押し出したか、ギターサウンドにインパクトをもたせたかの違いはあるのですが、基本的な方向性は前作と変わらない、ということが言えるかもしれません。
また「New York」や「Smoking Section」のようにシンプルなサウンドでメロディーラインをしっかり聴かせる曲もあり、メロディーメイカーとしての彼女の実力も感じることが出来ます。前述のエレクトロなポップソングもインダストリアルな曲もメロディーに関してはインパクトあるポップなメロディーラインが流れており、このメロディーの良さもなにげに彼女の大きな魅力だったりします。
個人的にはむしろ話題になった前作よりもこちらの方が好きかも、と思うほど、魅力的な傑作アルバムでした。アバンギャルドな面もありつつ、基本的には彼女のポップスシンガーとしての魅力を全面的に感じられる傑作です。
評価:★★★★★
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